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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
ロードナイト編
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第十八話 再会が告げる予感

 昨日とはうって変わって、ミリアは一人でも嬉しそうに学校から公園に向けて歩いていた。

 昇達、当分は委員会の仕事で帰りが遅くなるって言ってたから、私は雪心きよみと遊んでればいいや。

 そんなことを考えながら、ミリアの足取りも軽く歩いている。

 けど昨日閃華が言ってたこともあるし、そこら辺はどうしようかな。う〜ん、今は平穏だからいいけど、もし昇が戦うような事になったら私も行かないといけないし。……あっ、そういえば雪心も今はやることが沢山あるって言ってたような気がする。うん、雪心に合ったら、その事を聞いてみよう。

 そしてミリアが公園に到着すると、すでにブランコをこいでいる雪心の姿を発見した。

「雪心―!」

 大きく手を振りながら公園へと入っていくミリア、それに気付いた雪心もブランコから飛び降りてミリアの元へと走り寄る。

 雪心との再開がよほど嬉しかったのか、ミリアも雪心に抱きつこうと走り出し、そしてお互いに抱き付き合おうとしたのだが、両方とも加減という物を知らないようで、全力でお互いに走りより激突した。

 まさしく正面衝突をしたミリアと雪心だが、お互いにその場に座る格好になってしまった。だが先程のことがよほど面白かったのか、二人は笑い出して随分と楽しげな再会を遂げた物である。



「そういえば雪心」

「なに、ミリアちゃん」

 二人は昨日と同じようにブランコに乗りながら、お喋りをしていた。

「昨日、今はたくさんやることがあるって言ってたよね」

「うん、そうだよ」

「それって、何なの?」

 笑顔で聞いてくるミリアだが、雪心は逆に考え込むような顔になっている。

「う〜ん、今は誰にもいちゃダメって言われてるの」

「誰に」

「うんとね、私の願いをかなえてくれる人」

「願いをかなえて……くれる人?」

「うん、最近までその人の言うとおりにしてたから忙しかったんだけど、なんかある程度揃ったから私は暇になったの」

「えっと、どういうこと?」

「ダーメ、ミリアちゃんにも言えないよ」

「え〜、ケチ」

「あははっ、でもね。もしかしたらまた忙しくなるかもしれない。そうその人が言ってたから、ミリアちゃんとも遊べなくなるかも」

「う〜ん、私もずっと暇ってワケじゃないから、昇達の仕事が終わればまた昇の傍に居たいし」

「昇って、だれ?」

「んっ、あのね、私の大事な人、そして大好きな人」

「そうなんだ。私にもいるよ、大好きで大事な人が」

「えっ、そうなの?」

「うん、いつも私の傍にいてくれて守ってくれるの」

「あっ、そうか、そういう大事な人か」

 さすがにミリアでも自分の好きと言う言葉と、雪心が言う好きという言葉の違いには分かるらしい。

 そっか、雪心には守ってくれる大事な人が傍にいるんだ。……ああ、私も昇の事を守れるぐらい大事な存在になりたいな。

「ミリア、どうしたの?」

 考えていることが顔に出ていたのか、雪心は心配そうにミリアの顔を覗き込んでいた。

「えっ、ごめん、ちょっと考え事してた」

「なにを?」

「えっとね、私の大事な人は私の事をどう思ってくれるのかなって」

「ミリアちゃんの大事な人は、ミリアちゃんのことを大事にしてくれないの?」

「そういうわけじゃないんだけどね。なんていうか、私が言ってる大事と雪心が言ってる大事は違うんだよ」

「そうなの?」

「そうだよ」

「う〜ん、よく分かんない」

「大丈夫だよ。雪心も大きくなれば分かるようになるから」

「う〜、ミリアちゃんだってまだ小さいじゃん」

「私はこう見えても雪心よりお姉さんだよ」

「そうなの?」

「そうだよ、驚いたか」

「うん、びっくりだよ。同じ歳位だと思ってた」

 まあ、実際はかなり年齢が離れてるんだけどね。たぶん百歳ほど。

 そう思うと昨日閃華に言われた言葉がミリアの頭を過ぎる。

 分かってる、分かってるけど、私にとって雪心は大事な友達になりかけてる。だから今は……

 そして二人はそのまま昨日と同じように、近く小学校のアナウンスが流れるまで公園で遊んでいたのだった。



 やれやれ、すっかり遅くなってしまったのう。

 その日の閃華は今でも続けている琴未の実家である神社の仕事の手伝いをしていた。だが今日に限って立て込んだ仕事があったようで、閃華は一人で夜道を歩いていた。

 まあ、連絡は入れておいたから心配されることは無いじゃろう。じゃが、さすがにこの時間になると腹が減るのう。

 さすがの閃華も空腹には勝てないのか、夜道を急ぐように歩いていると、向こうから人影が見えた。その人影は最初は普通に見えたが、互いに近づくたびに人影は大きくなっていく。

 おや、随分とでかい人間じゃのう。それに体格も良さそうじゃ、格闘技でもやっておるのかのう。

 そんなことを思いながらも二人の距離は近づいていき、そして街灯が照らす明かりの下で二人の足がぴたりと止まる。

「ミラルド!」

「閃華か!」

 同時に驚いた二人は互いに名を呼び合う。だが閃華は一呼吸置いて心を落ち着けるといつもの感じを取り戻す。それはミラルドも同じようだ。

「ミラルド、おぬしも器の争奪戦に参加しておるのか」

「ああ、故あって参加している」

「その割には精霊としての気配が薄いのう。とても誰かと契約をしたようには感じんのじゃが」

「その説明は必要か」

「……仮契約じゃな」

「さすがだな、察しがいい」

「じゃが、私としては納得がいかん。争いを拒むそなたが何故、今回の争奪戦に参加している」

「やがて敵になる者にそれを話す理由は無い」

「ふむ、それもそうじゃのう。ということは今ここでは争う気はないということじゃな」

「そうだな」

 ミラルドは天を仰ぐように星空を見詰める。

「久しぶりに感じる五感、たまにはそれを感じようと表に出てみたんだが、まさか閃華と再開するとはおもわなんだ」

「私もこんなところでそなたと再開するとは思わんかったぞ」

「閃華、今お前はなにをやっている。いや、その格好を見れば聞くまでも無いか」

「ふっ、なかなか似合っておるじゃろう」

 そう言って閃華は自分の制服姿をよく見せるように一回転してみせる。その仕草だけを見れば閃華はかなり絵になっているのだが、閃華の事をよく知っているミラルドにとってはあまり興味を引くものではないらしい。

 学校での男性陣とはまったく違う反応を示す。

「随分と気軽な身分だな、こっちはいろいろと奔走しておるというのに」

「ほう、そなたが奔走しておるとは誰かが何かを企んでおるようじゃのう」

「ふん、さすがに閃華だ。鼻は良く効くようだな」

「そうじゃのう。普段から争いごとを嫌うそなたが実体化しておるのじゃ。何かの企みに参加しているとしか思えん。それに仮契約という状態じゃ、何かが起こりそうなのはなんとなく察しが付く」

「そうだな。だが、あまり悪い企みには参加していないつもりだった」

「それはどういう意味じゃ」

「さあな、最近では俺も良くわからんようになってきた」

「……困っておるなら相談に乗ってもよいぞ。何せ昔の顔なじみじゃからのう」

「ふっ、いずれ敵となるかもしれん者に話せると思うか」

「ミラルド、そなたの企みはいずれ私達の敵となる企みなのか?」

「さあな、閃華の契約者が我らの前に立ち塞がるとしたら、そうなるのは必然だろう」

「そうじゃのう、そなた達の企みが私達の契約者が快く思わなければ、いずれは敵となろう」

 ミラルドは大きく息を吐くと肩をすくめて見せる。

「それがな閃華、最近ではどうなっているのか分からなくなってきた。どうやら首謀者には別の企みがあるらしい。もしかしたら閃華、お前とも戦うことになるかもしれん」

「そうか」

 閃華も同じく肩をすくめて見せる。そしてその顔は悲しむというよりかは呆れている顔をしていた。

「おぬしは相変わらず不器用じゃのう」

「どうやらそうみたいだな」

 そう言ってミラルドは笑ってみせる。そして閃華も笑みを向けていた。

「さて、私はそろそろ帰らねばならん。家の者に心配させるのもあれじゃからのう。久しぶりにそなたの顔が見れて複雑な気分じゃのう」

「言ってくれるな。まあいい、ではな」

 そして二人は歩き出し、すれ違う。

「ミラルド」

 閃華は振り向くことなく、ミラルドを呼び止める。

「なんだ」

 ミラルドも振り向くことなく答えた。

「できることなら、そなたとは戦いたくないものじゃな。さすがに昔の顔なじみと戦うのは忍びない」

「そうだな、まあ、出来ることだけのことはやってみるつもりだ」

「あまり無理するでないぞ。そなたには忍び事は似合わんよ」

「だがどうも気になってな」

「そうか、そこまでの覚悟があるならもう何も言わん。まったく、お主は相変わらず不器用じゃのう」

「そういう生き方しか出来ないんでな」

「そうであったな」

 そして二人はまた歩き始めた。



「昇、ちょっとよいか」

 それは夕食後でシエラと琴未が昇を巡って争っている最中だった。

「閃華、悪いけど後にして」

「今取り込んでる最中」

 昇を挟んで睨み合っているシエラと琴未が変わりに答えたが、当の昇は一刻も早くこの状況を脱したいのか、閃華に顔を向ける。

「なに閃華、何か用なの?」

「うむ、とても大事な用じゃな」

「閃華、こっちも大事な用の真っ最中なの!」

「琴未はしつこいから困る」

「あのね、それはこっちのセリフよ」

「はぁ、昇は相変わらず大変じゃのう」

「それなら何とかして閃華」

「この際じゃから琴未と一線を越えてみるというのはどうじゃ」

「いや、ちょ、それはまだ早いよ」

「そうかのう、私には昇もまんざらでもない気がするんじゃが」

「そういうことなら妻の私が先に一線を越える」

「シエラ、お願いだからそこは引っ張らないで」

 さすがは昇、それだけの勇気は無いようだ。

「まあよい、どうせ琴未やシエラにも関係あることじゃからのう。そのまま聞けい」

 最近になって家族が増えたから、彩香は元からあったソファーのほかにもう一つのソファーを対面式に置いた。そして閃華は昇達とは別のソファーに腰を下ろす。

「私達にも関係があるってどういうことよ」

「実はのう、つい先程のことじゃが、昔の顔なじみと出会ったんじゃ」

「えっと、それが大事な用なの?」

「うむ、そやつは普段から争いごと嫌い。特別な理由でもない限り器の争奪戦には参加せん奴じゃ。そやつが実体化しておった」

「ということは、その精霊が特別な理由があって誰かと契約をしたということ?」

「いや、あながちそうとも言えんのじゃ」

「えっと、閃華の言いたいことがいまいち分からないんだけど」

「ふむ、そうじゃのう。まあ、これは私の私見でしかないんじゃが。この近く、または周辺で何かが起こり始めているようじゃ」

「なにが始まるの?」

「わからん。じゃから昇にもいつでも襲われてもいいように、覚悟を決めておいて欲しいのじゃ」

「それって、また僕が巻き込まれるって事!」

「いや、そうとも限らんのじゃが」

「ああ、もう、閃華、さっきからいったいなにを言いたいわけ」

「すまんのう琴未、実は私にもよく分かっておらんのじゃ。じゃが、確実に言える事は、これから何かが起きようとしている。それが私達に関係有るか無いのかはわかんのじゃがな」

「つまり、不測の事態に注意しろってこと」

「そうじゃのう。うむ、昇、すまぬがしばらくはそうしといてくれ」

「分かった。なるべく気をつけることにするよ」

「うむ、まあ、私達に関係ないのが一番良いのじゃがのう」

 そう言って閃華はまるで祈るように天井を見詰める。

 そうじゃな、全てが私の杞憂であって欲しいのもじゃな。そして昇達にも、出来ればあまり関わらせたくは無い物じゃ。

 閃華は再び目の前で行われている昇の争奪戦を眺めてる。

 久しぶりじゃからのう。このような楽しい日々は、まるで昔を思い出すようじゃ。じゃからか、昇達に危害が及ばないように思うのは。

 じゃが、現実は時には残酷な物を突きつけてくる場合がある物じゃからのう。用心に越したことは無いか。ふむ、与凪あたりにも探ってもらおうかのう。

 閃華は立ち上がると騒がしいリビングから出て行き、途中で空が見える窓から夜空を見上げる。

 出来る事なら、昇達に良き未来を……。



「おや、いつの間に戻られたのですか、ミラルド」

「サファドか」

 そこはまるで西洋の城を思わせる長い廊下での出来事だ。

 頭に大きな帽子かぶり、白いマントを着ている少年は笑みを浮かべながらミラルドの元へと歩み寄った。

「どうでしたか、久々の人間界は」

「うむ、悪くは無かった。昔の顔なじみとも出会えたしな」

「ほう、昔の顔なじみというと精霊ですね。どんな方なんですか?」

「名を閃華といって、なかなかのキレ者だ」

「閃華?」

 その名を聞いた途端、サファドは何かを思い出すように考え込んだ。

「閃華、閃華、そうだ、思い出しましたよ。五〇〇年前でしょうか、契約者が禁を起こし、その責任を問われて、確か三〇〇年位、封印されていた精霊が閃華といいましたね」

「ああ、そいつだ」

「それはそれは、珍しいご友人をお持ちなのですね」

「友人ではない、只単にお互いに顔だけは知っているというだけだ」

「それで、その閃華という精霊は実体化していたのですか?」

「ああ、誰かと契約をしたらしい」

「そうですか」

 そう答えるとサファドは笑みを浮かべ、ミラルドはその笑みに何故か嫌な感じがした。何故だか分からないがミラルドはこのサファドの笑みに、時折嫌感じがするのだ。

「では、私はやることがあるので失礼しますよ」

「ああ」

 歩き始めたサファドだったが、突然何かを思い出したようにピタリと足を止める。

「そうそう、ミラルド。あなたはロードナイトの一員ですから、あまり勝手な行動はしないように」

「分かっている。だが、ずっとこの城にこもっているのも退屈でな。今回のはその気晴らしだ」

「それならよいのですが、今はあまり騒ぎを起こさないでくださいね」

「分かっている」

「では」

 そのまま歩み去るサファドの背をミラルドは只見詰めるだけだった。

 ロードナイト、それは元々彼女を救ってやるために作られた集団だと思っていた。だが最近のサファドの動きはおかしい。まるで、そう、何かの儀式でもやるみたいに準備をしたり、軍隊でも作るように戦力を集めている。

 儀式はいい、それで彼女が救えるのなら。だが、なぜそこまで戦力を集める必要があるんだ。これではまるで本当に戦争でも起こしそうな感じではないか。

 疑念を抱えつつも、ミラルドは今は只黙って従っているだけだった。

 もし、サファドに違う企みがあるのだとしたら、早めに潰さねば。

 例え裏切り者と思われようとも、自分の正義を貫き通す、それがミラルドの志であった。







 そんなワケでお送りしておりますロードナイト編ですが、まだ序章と言った感じですかね。新キャラもバンバン出てますから、それとこの後の展開が読めるという人も見捨てないでくださいね。それ以外の人は物語を楽しんで行ってください。

 というかこれからの展開が読めるという人、お願いだから見捨てないでください。というか最後は結構意外かもしれませんので。

 それでは、ここまで読んでくださりありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、時折書いててこれでいいのかなと思うことがある葵夢幻でした。

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