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第十四話 変わりすぎる日常

「うっ、う〜ん」

 ミリアが目を覚ますと、青すぎるほどの青空が目に映った。

 あれっ、私なんでこんな所で寝てんだろ。

「ふむ、こっちも気付いたみたいじゃぞ、昇」

「そう、よかった」

「なんじゃ、あまり心配していなかったようじゃな」

「いや、なんて言うか、閃華が相手をしていたなら大丈夫かなって、後契約が消えるほど止めは刺してないって言ったから」

「くっくっくっ、私もずいぶんと信頼されたようじゃのう」

「なんていうか、閃華の言葉は妙に説得力があったり、そうなのかなって思うことが多いいんだよな」

「ってゆうか昇、何敵とのんきに喋ってるの!」

「ああ、そういえば、あんたはずっと寝てた」

「シエラ! シエラからも何か昇に言ってよ」

 シエラは大きく溜息を付くとミリアの両肩に手を置いて落ち着かせてから、今までのことをすべて話した。



「シエラって、そんなドジしたの。ぷぷっ、ほんと、情けないね」

「閃華に倒されて今まで寝ていたのは情けなくないの」

「うっ、だって、しょうがないじゃん。閃華かなり強いんだよ。確実にシエラよりもね」

「……まあ、そうかもね」

「あれっ、素直に認めちゃうの」

 てっきり不機嫌な顔でも見てやろうと思っていたミリアだが、あっさりと認めてしまったシエラに対して拍子抜けしまった。

 シエラは閃華を決して過大や過小評価はしていない。だけど、先程の二人分の暴走した力を精界にまったく影響を与えずに保ちきった。その事だけでシエラには閃華の力が自分よりも遥か上に感じる。

 それだけでなく閃華はシエラよりも数歩先を読んでいるようにも感じていた。まるで全部を見通して閃華の手の上で踊っているような、そんな感覚を覚えるのだった。

 それに今でも閃華は琴未に何かを耳打ちしている。それがなんなのか分からないが、シエラは閃華が何を琴未に言っているのかは分からないが、それは確実にシエラよりも数歩先を読んで琴未にアドバイスしているのだろう。

 完全に負けた気持ちになるシエラだが、それはシエラが強いから分かったことで、力量が離れすぎているミリアにはシエラの気持ちは分からない。

 つまりシエラは閃華に敵わないものの、相手の力を見極めることができるほどの力を有しているからだ。あまりにも格が離れすぎてる相手では、その力量を見極めることも困難である。

 だからミリアが完全に閃華に負けた理由はそこに有るのだろう。

「さて、とりあえず一段落した所じゃ。そろそろ精界を解こうかのう」

「そうだね。これ以上戦うこともないし」

「そうじゃな、精界の中では私達が戦う事はもうないじゃろう」

「あの閃華さん、それはいったいどういう意味でしょう」

「くっくっくっ、遠からず分かることじゃ。さて、すっかり更地になってしまったが、今立っている場所は民家の中らしい、とりあえず誰もいない場所へと移るかのう」

 言われるがままに昇達は閃華の後に続き、移動を開始する。

 精界の外のことを分かるのは精界を作った本人か、精界に介入した精霊だけである。

 そしてすっかり更地となった一角に閃華は昇達を誘導した。

「ここならまず人はおらんじゃろ」

「そう、分かった」

 そう言って三人の精霊と琴未は精霊武具を解き放ち、普段の格好に戻った。

「では、精界を解くぞ」

 閃華は目をつぶり精神を集中させると精界の壁に一気に大量のヒビが入り、そのまま砕け散った。

 そして更地ではなくなった普通の住宅街に姿を現した四人。空を見上げると青と赤が混じり始めている。

「うわっ、もうこんな時間なんだ!」

 琴未はたもとから取り出した携帯の時計を見て、突然慌てたように閃華の手を取る。

「じゃあ、私達行くところがあるから。昇、またね」

「えっ、琴未?」

 昇が聞くよりも早く、琴未は閃華の手を取り走り出して行った。

 ……えっと、どうなってんの?

「昇、今日のところは私達も帰ろう」

「えっ、あっ、うん」

「シエラ〜、お腹すいた」

「なら自分で作りなさい」

「う〜、私料理できないもん」

「はぁ、まったく、敵には負ける、家事は出来ない、食っちゃ寝ばかり、本当役に立たない」

「う〜、う〜、そういうシエラだって今日は大ミスしたじゃん」

「そうだけど、私達はちゃんと昇の力を使って後始末した」

「う〜、そういうのは卑怯だ」

 なにが卑怯なんだろ? まあいいや、それより。

「二人とも、いい加減にウチに帰らない」

「そうね」

「うん、そうしよ」

 昇達は頷くと自分のウチに帰るために歩き始めた。

 それにしても、琴未はなんであんなに急いでたんだろう。琴未の家ってそんなに厳しかったけ? その前に二人とも巫女服を着てたから仕事を放り出してきたのかな。けどまあいいや、どっちにしろ琴未にもなんかの用事があったのかもしれない。だから僕が気にすることも無いか。

 だが昇は気付いていなかった。先程閃華が琴未に耳打ちしていた事を、そしてそれがすぐに実行されようとしていることを。

 そして気付いた頃には閃華の企みは成功して、琴未の行動力に驚かされる事になるとは、今の昇には思いもよらないことだった。



 えっと、とりあえず落ち着け。そうだ、落ち着いてよく数えてみよう。

 それはその日の夕食時のことだった。昇は全員が食事をする中で箸を止めて、必至に目の前の現実を拒絶しようとしていた。

 とりあえず僕で一、そして元々母さんとの二人暮しだったからこれはいいとして二、そしてシエラ達、三、四、五、六。……六? なんでテーブルを六人で囲んでるんだよ。

「というか、何で琴未達までいるんだ!」

「うわっ、いきなりどうしたの昇?」

「昇、食事中にいきなり大声を出しちゃダメでしょ」

「いや、母さん。そういう問題じゃなくて、なんで琴未と閃華が一緒に夕食を食べてるわけ」

「なんじゃ、その言い方は。それでは私達が邪魔者のように聞こえるではないか」

「そうじゃないけど、まあ、夕食に招いたというならともかく、あの山のように詰まれたダンボールは何?」

「そんなに決まってるじゃない。私と閃華の荷物よ」

「何で二人の荷物がウチにあるわけ」

「あら、言ってなかったけ?」

「言うも何も、母さん達は帰ってきてからすぐに、シエラが用意してた食事を食べ始めたじゃないか」

「そうね、いきなりの引越しで随分と体力を使っちゃったから、お腹すいちゃってね」

「そうじゃなくて、なんでいきなり琴未達が引越ししてくるわけ」

「そんなに決まってるでしょ!」

 琴未は勢いよく立ち上がると箸でシエラを指差す。

「シエラ達が昇に変なことをしないように見張るためよ」

「琴未ちゃん、箸で人を指差すのはよくないわよ」

「あっ、ごめんなさい、おばさん」

 母さん、確かにそこは間違ってないけど、他で大きく間違ってるよ!

 状況を整理するとこうである。帰りが遅い昇の母は彩香の帰りを待っていた昇たちだが、彩香はトラックに乗って帰ってきた。琴未と閃華を乗せながら。そして彩香はシエラが夕食を作ってくれてたことを知ると、すぐにテーブルについて食べ始め、業者の人がつい今しがたまでトラックに積まれていた荷物を降ろして帰っていったところだ。

 結果、シエラは不機嫌な顔をしながらも二人分の料理を新たに追加して、皆でテーブルを囲み食事をしているわけだ。

「母さん、もしかして琴未達もウチに住むの?」

「そうよ。琴未ちゃんたちが帰ってくるなり、いきなりウチに住まわせてって言ってきたから。私も琴未ちゃんの両親も困惑したんだけどね、まあ、ウチならいいかって、琴未ちゃん達を引き取ることにしたのよ」

「なんでそんな簡単に事が進むわけ!」

「ふっふっふっ、昇、琴未達と母君の関係を軽視してはいかんぞ。母君と琴未の母はかなり親しい関係らしいみたいじゃからのう」

「……閃華はそのことを知っていたの?」

「無論じゃ」

 ああだから閃華は琴未に変なことを吹き込んだのか。ああ、もう、シエラ達だけでも大変なのに、まさか琴未達まで乗り込んでくるなんて思ってもみなかったよ。

 頭を抱えたくなる昇だが、先程の戦闘でよほど力を使い果たしたのか、腹が空腹を訴えてきたので、とりあえず箸を取り、料理に手を付ける。

 昇が料理を口に運ぶのを見て、シエラは昇に聞いてきた。

「昇、美味しい?」

「えっ、あっ、うん、今朝もそうだけどシエラの料理は美味しいよ」

「そう、よかった」

 顔を赤らめながら嬉しそうな表情を浮かべるシエラを見て、琴未は急に彩香に告げる。

「おばさん、明日から料理は私がやりますね」

「えっ、いいわよ。私とシエラちゃんだけも間に合ってるから」

「いいえ、やります。やらせてください!」

「そっ、そう、じゃあ、明日はシエラちゃんと二人でお願いできるかしら」

「はい、分かりました」

「分かった」

 渋々承諾するシエラと嬉しそうに承諾する琴未だが、その二人の間に火花が散っているのは昇の目の錯覚だろうか。いや、錯覚だと思い込ませようとしている。

 はぁ、これからどうなっていくんだろ。

 そう思いながらも昇は食欲を満たしていく。



「お風呂が沸いたわよ」

 彩香のその言葉に目を光らせるのが三人。まずは一番昇に近いところに陣取っていたミリアが動く。

「じゃあ、昇と一緒にお風呂は行ってきまーす」

 なんか昨日も同じように手を引っ張られた気が。

「ちょーっと待ちなさい。昇は一人ではいるから、ミリアも一人で入ってくれば」

 さすが琴未、いい事を言う。

「じゃあ、私が先に入ってくる」

 あのシエラさん、いつの間に僕の首をとって引っ張ってるの。

「だから、昇と一緒に入るな!」

 ほっ、琴未が引き剥がしてくれたからたすか、ぐぇ。

「だから昇は私と一緒に入るの」

「それは妻である私の役目だと昨日言ったでしょ」

「勝手に昇の妻を名乗らないでよね」

 そのまま昇を引っ張り合う三人。

 ぐはっ、こ、このままじゃ死んじゃう。

 そんな昇の目に光明のごとく、雑誌を読んでいる閃華の姿が目に映った。

 そうか、閃華なら。

 そう思い、昇は閃華に手を伸ばす

「せ、閃華、たっ、たすけ…」

「んっ、何じゃ、昇は私がお望みか?」

 違うーーー!

「やれやれ、しかたないのう。では琴未と一緒に昇の背中でも流してやるかのう」

「ちょっと閃華、閃華まで何を言い出すのよ」

 そうだ琴未、それであってるぞ。

「何を言うか、将来やるべきことが早まっただけじゃ。どうせ二人の将来はそういう関係になるのじゃからのう」

 勝手に決めるなーーー!

「……」

 琴未、琴未、ああ、なんか琴未が変な妄想モードに入ってる。

「昇、昇って結構凄いんだね。私ちゃんと出来るかな」

 何がー! 何が凄いの、ねえ琴未。

「もらった」

 うわっ、琴未の力が緩んだ隙にシエラが。

「さあ、このままお風呂に行く」

「させるか!」

 どわっ、ミリアがシエラを抱えた僕ごと体当たりをしてきた。

「もらったぁー」

「させない」

「キャ、昇ったらそんなことまで」

 ああ、もう、いったいどうすればいいんだ。……そうか! 今のうちに逃げればいいんだ!

 昇はミリアの体当たりで自由の身になり、そのまま自分の部屋に向かってダッシュしようとしたが、突然飛んで来た雑誌が昇の頭に直撃、昇はそのままこけた。

「これこれ、女子がこんなにも誘っておるのに逃げるのは釣れないのではないのか」

 ……閃華さん、もしかしてこの状況を楽しもうとしてません。

「じゃあ、私が」

 シエラさん、そこ足ですけど、というか引きずってますけど。

 そんな中で閃華は琴未を現実に引き戻すと、琴未はシエラの前に立ち塞がる。

 そして再び火花を散らす二人。

「とりあえず、昇は一人で入るって言ってるんだから離しなさいよね」

「それは出来ない。何故なら私が昇の妻で背中を流すのが義務だから」

「勝手にそんなこと決めないでよね」

「勝手じゃない、昇も承諾してる」

 いや、そんな承諾した覚えが無いんですけど。

「嘘つくな! だいたい昇が自らそんなことを承諾するほどの器量を持ってないでしょ」

 ……えっと、琴未、泣いていいですか?

「そんなことは無い。昇はちゃんと承諾した」

「いつ何処でそんな承諾を得たのよ」

「昨日、私の夢の中で」

 ……夢かい!

「って、勝手に夢で承諾を取るな! というか昇の意思は何処に行ったのよ!」

 そうだ、いいぞ琴未。

「この際だから昇の意思は私の意志ということで」

 なに、その勝手な意見は。

「そんなことが許されるわけ無いでしょ。だいたい昇に女の子とお風呂に入るなんて甲斐性は無いわよ」

 ……琴未、そうハッキリと言われると泣けてくるんですけど。というか、琴未はさっきから僕の事をいじめてるの?

「じゃあ、シエラと琴未の間と言う事で私が昇と一緒に入ってくるよ」

 ぐはっ、ミリア、いきなり上に飛び乗らないで。

『それは絶対にダメ』

 なんでこんな時だけシエラと琴未は意見が合うんだろう。

 三者の睨み合いが続く中に閃華が突如介入してきた。

「まあ、この際じゃから全員で入るというのはどうじゃ」

 閃華さん、なに言ってるの! そんなことしたら……はっ、ダメだ、それだけは絶対にダメだ。

 結局閃華の案も却下されて、昇は三人の睨み合いの中でどうする事も出来なかった。

 そんな中で閃華が静かに昇に耳打ちする。

「昇、この際じゃから誰かと一緒に入ってきたらどうじゃ」

「いや、それはまずいって、というか僕には無理」

「やれやれ、朴念仁の上に益体無しではなかろうな」

 益体無しってなんですか?

「では仕方ないのう、これ以上やったら近所迷惑じゃからな」

 僕よりご近所のほうが心配なんですか。

 閃華は精神を集中させるとその場から消えた。いや、正確には電光石火のスピードで移動した。そして素早くシエラ達の後ろに回りこむと一撃を入れて、全員を昏倒させた。

 すげー、あんたなにものなんですか。

「さて昇、三人が気を失っている間に風呂に入ってくるがよい」

「う、うん、分かった、そうさせてもらうよ。ありがとう閃華」

「なに、礼などいらぬよ」

 そう言って閃華は再びソファーに戻り雑誌を読み始めた。

 昇は風呂に向かおうとしたのだが、ふと気になることが。

「そういえば閃華、シエラ達はこのままでいいの?」

「なーに、そんなに強くはやっておらん。少し時間が経てば目を覚ますじゃろう。じゃからあまり長湯をするでないぞ」

「うん、わかったよ」

 そうして昇は風呂に入ると体を洗い、湯船へとその身を沈めた。

 はぁ、なんかこれまで以上に大変になってきたな。僕の日常はこれからどうなっていくんだろ。

「はぁ〜」

 風呂場の中、昇の溜息が響き渡るのだった。







 そんなワケで十四話をお送りしたのですが。なんか一気にラブコメを通り越して独自の世界には行って行ってるような気がします。というか、こういうのも一応ラブコメと言うのでしょうか、その前にこれ一応シリアス物ですよね。確かそうですよね。それが何故ラブコメに……、まあ、そこら辺は永遠の謎にしときましょう。

 はいそこ方、それでいいのかって突っ込まないように、……そんなこと言われてもしょうがないんだもん。だってこうなちゃったんだもん。

 まあ、駄々っ子はここら辺にしときましょうか。それではいつもの。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、最近駄々をこねる事が多い? と思い始めた葵夢幻でした。

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