第十三話 繋がる想い
緊迫した中で琴未は慌てて閃華にだ他一つの手段について問う
「それで閃華、その一つの手ってなに?」
まあ、琴未がそこまで慌てるのもしょうがないだろう。なにしろ現状が目の前ある爆弾が今にも爆発しそうな感じなのだから。
それでも閃華は落ち着いており、背負っているミリアを下に降ろしてからゆっくりと説明を開始した。
「なに、そんなに難しいことではない」
「じゃあ、早くしてよ」
「ふむ、分かった分かった。では昇と琴未、もう少し近づけるか?」
「えっ、こう」
戸惑いながらも昇と琴未は張り付いて動かない足をそのままに、上半身だけを動かしてお互いの距離を縮めた。
今までシエラと琴未が近距離戦をやっていた所為か、その間に割り込んだ昇はちょっと動くだけで琴未と肩が触れ合うぐらいまで近づくことが出来た。
「そっ、それで閃華、どうすればいいの」
琴未は今まで昇に好意を抱いてはいたが、ここまで触れ合ったことは一度も無い。適度な距離を保ちつつ、いつかは告白しようとしていたのだが、結局はこんな結果になってしまっている。
それが今はすぐ目の前に昇の顔がある。琴未はそれだけで顔が赤くなり、心臓が鼓動を早める。
「後は、そうじゃの、ちょっと二人とも目をつぶってくれ」
「分かったわ」
「うん」
閃華の指示に素直に従う昇と琴未、そんな二人をシエラは複雑な心境で見守っていた。
何か言いたげな表情だが、シエラはそれを心の奥底に押し込めるように自分の気持ちを制御していた。
まあ、シエラの気持ちは分からなくもない。シエラも昇の事が好きだし、その昇が琴未と近距離に居るのだから嫉妬の一つも湧いてくると言う物だ。
「さて、ではいくぞ」
閃華はそう言うと昇と琴未の後頭部を鷲掴みして、一気に二人の顔をくっ付けた。ちゃんと力の加減をして唇だけが付くように。
「ちょ、あなた何やってんの!」
意外すぎる閃華の行動にシエラは思わず非難の声を上げる。
「なにって、契約じゃ。琴未の特殊能力エレメンタルは精霊と同一の性質を一時的に持つことが出来る能力じゃから、契約も普通に出来るというわけじゃ」
「そんなことを聞いてるんじゃない。なんで昇と契約する必要があるの!」
「それはお主らの戦いの後始末のためじゃ」
「うっ」
さすがにそれを言われると出る言葉のないシエラは言い返すことは出来なかった。
「なら、契約はもう済んだでしょ。早く二人を放しなさい」
「いや、琴未のためにももう少し……」
「絶対にダメ!」
「やれやれ、しょうがないのう。まあ、これ以上怒らせて力を放出させるのは避けねばならんからな」
「えっ、しまった!」
さすがに目の前で昇が他の女とキスをするところ見てしまったのだ。例えそれが契約だとしても、シエラは自然と力が入り暴走し始めている力の塊をより大きくしてしまった。
そして閃華が鷲掴みにしている二人の頭を離すと、自然と唇も離れていく。
だが突然のキスによほど驚いたのか、昇も琴未も未だに呆けている。
「さて、次は私の番じゃな」
「なっ、それってどうい」
シエラが問いただすよりも早く、閃華は昇の顔を自分に向けさせると唇を重ねて、契約を執行させるとすぐに離れた。
「さて、これで後は昇次第じゃな」
「ちょっと、その前にちゃんと説明しなさい」
「何のじゃ?」
「あなたこの子とすでに契約してるんでしょ。なんで昇とも契約できるわけ、普通の精霊なら二人も契約者を持つことは出来ないはずでしょ」
「ふむ、そのことか。それが琴未の能力エレメンタルの効能じゃな。能力発動時の琴未は人間ではなく精霊といってもいい。じゃから私の契約者である琴未が昇を契約者として契約すれば、必然的に私も契約できるというわけじゃ。つまり昇は私の主の主といったところかのう」
「なんてややこしい関係を」
「これも全て、お主らの後始末のためじゃ」
「くっ、またそれを言う」
「効果は抜群じゃからのう。さて……」
そう言って閃華は昇の肩をゆすり、未だに呆けている昇の目を覚まそうとする。だがよほど昇にとっては衝撃的だったのか、なかなか現実へと帰ってこない。
「そういえば、あなた閃華って名前だっけ」
「ふむ、そういえば自己紹介が遅れたのう」
「まあいいけど、っで、閃華は昇の意識を取り戻させてどうしようっていうの?」
「それはのう、先程そこに寝ているミリアに聞いたんじゃが。昇の能力はエレメンタルアップらしいのう」
「そうだけど、……あっ、そうか!」
「やっと気付いたらしいのう。そうじゃ、昇の能力を使って二人の力を飛躍的に上げる」
「そうすれば、私達は暴走しかけているこの力を制御できる、というわけね」
「うむ、そうじゃ」
「それなら閃華まで契約する必要ないでしょ」
「ついでじゃ、これから先は何が起こるかわからんからのう」
「……閃華、あなた何処まで先を読んでるの」
「くっくっくっ、別にそんなのではない。只単に歳を取っているだけじゃ」
長年培ってきた経験ってわけ。確かに精霊に年齢はあまり関係ないけど、閃華は今までどれだけの時間を生きてきたのかしら。
シエラがそんなことを思っている間にも閃華は昇を現実に引き戻そうと、肩を揺らし続けるのだった。
「はっ、えっ、あれっ、僕、いったいどうしたんだっけ」
「どうしたではない。やれやれ、やっと戻ってきたようじゃな」
「……閃華?」
「さて、次は琴未じゃな」
そう言って閃華は昇に背を向ける。
あれっ、っていうか僕いったい、何が起こったんだっけ。……ああっ、そうだ。確か閃華が無理矢理琴未とキスさせて、そして頭が真っ白になったんだ。
けど、昨日と今日でまさかこんなにもキスをするなんて思っていなかった。
「昇、嬉しそう」
「はっ」
突如横から感じた殺気のある言葉に昇は背筋に寒気を感じた。
「いや、違う、これは、その、まさかこんなにもキスすることになるなんて思ってなかったから」
思わず正直に喋ってしまった昇にシエラは大きく溜息を付いた後、閃華へと目を向ける。
「そっちも長引きそうね」
「いや、琴未は簡単じゃぞ」
「そうなの」
「うむ」
そう言って閃華は琴未に耳打ちするように小さく呟く。
「琴未、昇が大事な話があるそうじゃ」
「大事な話って何! もしかしてあれ、あれなの閃華」
「なっ、簡単じゃったじゃろ」
「……そうね」
その後も興奮する琴未を閃華が抑えると、現状とその打開策を二人に告げた。
「つまり、僕のエレメンタルアップでシエラと琴未の制御力を上げて、この暴走をとめようというわけ?」
「うむ、簡単に言うとそういうことじゃな」
「あの、でも、一つだけ問題があるんだけど」
「なんじゃ?」
昇は本当に申し訳なさそうに真実を告げる。
「僕、未だに自分の能力の使い方が分からないんだけど」
「えっ、だって昨日は発動できたじゃない」
「あの時は無我夢中だったから、いったいどうやって発動させたか分からないんだ」
「ふむ、確かにエレメンタルアップはその能力うえ、発動条件があると聞いたことがあったのう。しかも、その条件は人それぞれ違うともな」
「昇はその発動条件っていうのを分かんないの?」
「そういわれても……」
「昨日のことを思い出してみたら」
昨日の事って言われてもな。あの時は自分の何かしないといけない感じがしたから、それにシエラの事も心配だったし、だからあの場所に走り出したんだけど。
……う〜ん、特にこれといった発動条件なんて思いつかないんだけど。
「おおっ、それじゃ!」
「うわっ」
今まで思考の世界に浸っていた昇だが、突然閃華が大声を出したのでびっくりして現実へと引き戻された。
「閃華、なに、どうしたの?」
「昇、お主は今までの話を聞いてなかったのか」
「えっと、ずっと昨日の事を思い出してたんだけど…」
「まあ、朴念仁の昇がいくら昨日の事を思い出しても思いつかんじゃろ」
さすがにこの発言にはむっ、と来る物が有ったのか昇は不機嫌な顔になる。
「まあ、そうむくれるでない。昇の発動条件が分かったかもしれぬのだからな」
「本当?」
「うむ、たぶんじゃが、発動条件は二つ、一つは契約者が精霊に触れている事、もう一つは契約者が精霊の事を思うことじゃ」
「一つ目はともかく、その二つ目の精霊の事を思うってどういう意味?」
「それは昇自身がよくわかっておるじゃろ」
「僕が?」
「うむ、昇。昨日は何故わざわざ危険だと分かっている場所へ飛び込んで行ったんじゃ」
「それはシエラが心配だったから」
「それじゃ!」
えっ、それって言われても分からないだけど。
「つまり、心配しなくてもよいのじゃが。心に精霊の事を思うことが大事なんじゃ」
「えっと、まだ分からないんだけど」
「まあよい、今は時間がないからのう。後は実際にやってみるしかないみたいじゃ」
閃華の言うとおり融合と反発を繰り返している二人の力は、その行動が大きくなり始めていた。
「うわっ、いつの間に!」
「とにかく昇、心の中をシエラと琴未の事だけで一杯にして、二人の事を考え続けるんじゃ」
「えっ、えっ」
「時間がない、早く!」
「うっ、うん」
昇は目をつぶりなるべく精神を集中させる。
えっと、とにかく二人の事を考えればいいのかな。
シエラは、なんか一昨日初めて出会って、しかもあんな出会い方をしたから最初はどうなるかと思ったけど、なんかそれも少し昔のように感じる。まあ、昨日あれだけのことをしたんだからしょうがないと思うけど。けど、そう、なにか昔から知っているような、そんな不思議な感じがするんだよな。
琴未は、今まで只の幼馴染だと思ってたけど、まさかここまで僕の事を好きでいたなんて思ってもいなかった。そういえば琴未って昔からというか、いつからだろう。なんか時々僕と距離を取りたがる時があったな。あれは琴未が照れてたのかな。よく分かんないけどもしかしたらそうかもしれない。
なんかこうやって改めて二人の事を思い出してみると、今じゃ二人とも僕にとって大事な存在になっているのかな。よく分かんないけど。でも、二人が戦っているときは凄く嫌だった。勝つとか負けるとかそんなんじゃなくて、二人が争っていること事態が嫌だったから、だから僕は二人を止めようとしたんだ。
ああ、そうか。僕はまだ二人が言った好きだって気持ちは分からないけど、二人のことが大事だって事はわかった。だから失いたくない、二人とも仲良くして欲しい、それが僕の二人への思いなのかな。
いや、それが確かに二人への思いだ。失いたくない、かけがえのない存在、二人ともそうなんだ。
そう思った昇は急に不思議な感覚に襲われる。
なんだ!
それは真っ黒な空間、そこに昇は立っているのではなく、まるで無重力のように漂っていた。
なんだこれ? ……ああ、そうか。
誰かに教わったワケではない、昇の中に眠っている能力が自然に昇に告げている。
そして闇の向こうが赤く淡い光を放つと、二つの紅色の太い糸が一直線に昇に向かって伸びてきて、昇の目の前で止まった。
そして昇はその二つの紅色の糸を強く掴む。そうしなければいけないからだ。
次に瞬間、昇の意識は現実へと引き戻され、今までの光景に戻った。
「二人とも行くよ」
「えっ、昇なに?」
「分かった」
「琴未、落ち着け。今からの昇の能力が発動されるだけじゃ」
「じゃあ……」
「うむ、うまくいったようじゃな」
昇は一回大きく深呼吸をすると精神を集中させる。
よしっ
「エレメンタルアップ!」
途端シエラと琴未の体は淡い光に覆われて、その力を取り戻すと同時に飛躍的に上げていく。
「えっ、なんこれ、力が沸いてくる。というか溢れ出てくるんだけど」
「琴未、驚くのは後じゃ、今は目の前の力を制御せい」
「うっ、うん」
琴未は精神を集中させると今まで断たれていた、雷閃刀との力の結びつきを再び感じることが出来た。
琴未は目の前の力を散布させて消し去ろうとしたが、これだけの力になるとそれも難しいらしい。
「閃華、なんでこの力が消えないよ」
「ここまで来るともう消し去るのは無理、後は力を放つしかない」
「空じゃ、二人とも力を空に向かって放て」
「けど、精界が持つ?」
「そこは私が精界を強化させるから大丈夫じゃ。何とか維持してみせる」
「分かった。それと琴未、力が融合してるから二人同時に撃たないと暴発することになるから気をつけて」
「りょーかい、それにしてもあんたが私のことを名前で呼ぶとは思わなかったわ」
「昇がそれを望んで以上、しょうがない」
「そうだね、シエラ」
その光景を見ていた閃華は満足そうに頷き、昇もホッと胸をなでおろす。
「それじゃあ、二人とも僕がカウントするからゼロになったら一斉に放って」
「分かった」
「うん」
「じゃあ行くよ。五、四、三」
(昇、やっぱり昇は凄いよ。私が昇を契約者に選んだのはこれがあったから。けど、今回はこんな形で決着をつけるけど私は昇の事を諦めてないから、琴未には負けない)
「二」
(昔からそうだった。昔から昇は一番大事なときには私を助けてくれた。だからかな、私が昇を好きになったのは、だから諦めないし負けない、シエラには)
「一」
(ふむ、なかなか見事じゃったぞ昇。シエラが昇を契約者として選んだ理由がよく分かった。じゃが昇、もしエレメンタルロードテナーを目指そうとするなら、これ以上の険しい戦いが待っておるぞ。まあ、それを決めるのは昇自身じゃがな)
「ゼロ!」
『いっけーーー!』
声を揃えながら二人は同時に制御できた力を空に向かって放つ。それは一直線にそれへと向かっていき、上空の精界へとぶつかる。
「う、む、なかなか二人分はキツイのう」
だが精界は壊れるどころかヒビ一つ入ることなく、放たれた力が消費し続けて最後には散っていった。
そして散った力の塊はまるで雪のように、その光を空から地上へと降り始めた。
「うわ〜、綺麗だね」
幻想的な光景に感動する琴未。
「そうね」
そんな琴未にシエラは静かに答えるだけだった。
「やれやれ、何とか収まったのう。これで一件落着じゃな」
「だね」
降り続ける力の破片の中で昇は事態の収拾にほっとするが、昇は気付いていなかった。
これが終わりではなく、始まりだということを。
そんなワケで十三話をお送りしましたけど、どうでしょか。自画自賛ですが私的には結構うまくかけたと思ってます。はい、そこの方、何言ってんだこの作者はと見捨てないでください。
一応今回の戦闘は終了しましたが、この話自体はまだ続きます。というかまだ引っ張るのかという感じもしますが、私としてもまさかここまで長くなるとは思わなかったので、そこは大目に見てください。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、このペースで書いていったら一ヶ月で文庫本一冊分ぐらい書いてしまうのではないかと思い始めた、葵夢幻でした。