第十話 交差する思いと戦い
対峙するシエラ達と琴未達。だがシエラは閃華にペースを持っていかれてるようで気に食わないのだが、それ以上に昇にちょっかいを出してきた琴未が気にかかっていた。
あの閃華って言う精霊、たぶんだけどかなり先まで読んでる。私がまともにぶつかっても勝てるかどうか分からない。……なら、ミリアに任せる。防御重視のミリアならそう簡単に打ち負かす事は出来ないはず。
「私はこっちの巫女をやるから、ミリアはそっちをお願い」
「うん、分かったよ」
「うむ、戦略的には間違っておらんな。シエラとやらもなかなか頭が切れるようじゃのう」
「ぐっ」
これ以上閃華のペースに乗せられてはダメ。なんとか自分を律しないと。
「さて琴未、相手も決まったことじゃし。そろそろ始めようかのう。まあ、私としてはシエラとやらともう少し話がしたかったのじゃがな。それは次の機会ということじゃ」
「次なんてない。今ここで決着をつける」
「くっくっくっ、はたして我らにそれが出来るかのう」
「どういうこと?」
「まあ、そうのうち分かるじゃろ」
この精霊、どこまで先を読んでいるの。
先程からの閃華の物言いは、まるで未来を見通しているかのように発言して事をその通りに運んでいく。シエラはそのことに少し恐怖を感じる。
これ以上話してると私は完全に閃華にペースを持ってかれる。なら、今すぐ戦端を開く。
「はあぁーーー!」
シエラは翼をはためかせると琴未に向かって飛翔する。
「来るぞ琴未、油断するな」
「分かってるわよ」
琴未は雷閃刀を構えると斜め上から飛来するシエラに備える。そしてぶつかり合う両者の武器。衝撃で辺りを少し破壊しながらも両者は一歩も引くことなく、お互いの力をぶつけ合った。
シエラのクレイモアは只でさえその重量を相手に感じさせるのに、それを飛翔することによって生まれる推進力も加えるのだから、威力としてはかなりの物がある。
だが琴未はその攻撃を一歩も退くことなく、その場で受け止めた。琴未の力もなかなかの物である。
「なかなかやるみたい」
「そお、けど、これだけじゃないのよね」
突然シエラは背筋に寒気を感じた。それはシエラが長年培って来た危険を知らせる感だった。
慌ててその場から離れようとするシエラだが、琴未のほうが早かった。
「りゃあぁーーー!」
琴未は雷をまとう雷閃刀が放出している電気の量を一気に上げると、それをクレイモアを通してシエラへと流し込み感電させる。
「ぐぐっ」
全身に激痛が走り、体が麻痺したように動かなくなる。それでもシエラはなんとか足だけを動かすと琴未に蹴りを入れて、無理矢理距離を取った。
「くっ」
精霊ならその程度の蹴りはあまり効かないのだが、琴未はこれが始めての戦闘であり、始めて感じる痛みであった。そのため、そのままシエラを追撃することが出来ず、次の手を考えるだけだった。
「さて、あっちも始まったことじゃし、こっちもそろそ」
閃華が言い終わるよりも早く、ミリアのハルバードは閃華へと振り下ろされていた。閃華はそれをいともあっさりと受け止める。
「ほう、重装備の割には早いのう」
「ぐぐっ」
それはミリアの渾身の一撃だったのだが、閃華は涼しい顔でそれを受け止めた。
「ふむ、その重装備といい、この攻撃力といい本来なら防御を重視するタイプじゃな」
「なっ」
「くっくっくっ、こう見えても結構歳をとっておるもんでな、それぐらいのことは経験で分かる」
「年増」
「まあ、そうかもしれんが、あまり気持ちのいい言葉ではないのう」
閃華は方天戟をミリアごと払い、吹き飛ばした。
ミリアは吹き飛ばされながらもバランスを保つと、着陸跡を残しながら勢いを殺す。
「えっ」
何とか体勢を立て直したミリアだが、閃華の追撃はすぐそこまで迫っていた。いつの間に作ったのか水の槍が渦を巻きながら何本も迫ってくる。
「アースウォール」
ハルバードの柄を地面に突き刺すのと同時に、ミリアの目の前の地面はせり上がり壁となって水の槍を寸前で全て防いだ。
「じゃが、甘いぞ」
「上!」
壁よりも上、そこに閃華の姿があった。
「龍水激」
龍水方天戟に巻き付いていた水の龍が方天戟から離れると、ミリアに向かってその牙をむく。
「ブレイク」
ミリアは自ら作った壁にハルバードを突き立てると、壁はミリアを避けて四方八方へと吹き飛び、閃華の龍もその破片と衝撃により消滅してしまった。
「どうだ!」
「うむ、今のをしのぐとはなかなかじゃが、まだまだこれからじゃぞ」
龍水方天戟に巻き付いていた水の龍が再び現れ、本来の姿を取り戻した。
「再生するなんて、ずるい!」
「いや、そこは突っ込むところじゃないと思うんじゃが…。まあよい、それじゃ、そろそろ本気でやろうかのう」
「今まで本気を出してないなんて卑怯だ」
「いや、そこも突っ込むところじゃないぞ」
「はぁ、はぁ」
すっかり息の上がっている琴未をシエラは空から見下ろしていた。
「基礎はしっかり出来てる。でも、経験の差は大きい。……けど、それ以上に気になるのは昇への思い」
それはシエラ自身も負けてはいないのだが、琴未も同じように昇の事を思い好いているのだから、その思いが琴未を動かしているようだ
だが今まで実戦を経験していない差はしっかりと出ていた。琴未は宙を舞いながら攻撃をしてくるシエラにすっかり苦戦していた。
「剣に生えた翼で飛ぶってどんな原理よ。でも、空中にいる以上は格好の的になるのよ」
琴未は雷閃刀を高々と掲げる。
「落雷陣」
雷閃刀から飛び出した一本に雷はシエラに向けらた物ではなく、シエラを通り越してそのはるか上空に魔方陣を展開させた。
「落ちろ!」
魔法陣から放たれたのは三本の雷、それがシエラに向かって一直線に落ちていく。
だがシエラは三本の雷を見事にかわした。
「まだまだ!」
今度は魔法陣からいくつもの雷がシエラに襲い掛かる。その攻撃は途切れることなく、シエラに向かい続ける。
シエラは宙を舞いながら雷をかわし続ける。
「さすがにこれだけ続くとやっかい。なら、本体を潰す」
決断をしてから即行動に出るのは戦場の掟。シエラは雷の合間を見て急降下、琴未を目指して雷をかわしながら、そのスピードを上げていく。
そして琴未まであと少し。
「けど、甘いのよ」
「えっ」
魔法陣から十本の雷が横並びに琴未の前に落ちる。それは雷の壁、さすがにシエラのスピードをもってしても雷が落ちるスピードには敵わない。
攻撃の機会を完全に逃したシエラは琴未から距離をとらざる得なかった。あのまま突っ込んでいったら間違いなく雷の壁に激突してただろう。
「へぇ〜、なかなか精霊の能力を使いこなしてる」
「まあね、こっちのは閃華と契約をしてから、じっちゃんの訓練の後に閃華にも鍛えられてるかね」
「でも、私の能力とは相性が悪い」
「えっ?」
琴未が戸惑うよりも早く、シエラはその場から急上昇を始める。
「このっ!」
上空の魔法陣からまた落雷の雨が降り注ぐが、シエラはそれらをかわしながらスピードが落ちる何処ろか限界まで上げていく。そして琴未が作り出した魔方陣が見え始める。
「いけ!」
超ハイスピードのシエラはそのまま魔法陣を目指して飛び続け、クレイモアと魔方陣が激突して火花を散らしす。
「結構硬い」
あのシエラのスピードを持っても魔法陣を突き破ることが出来ない、それほど魔方陣は強固に出来おり、それを地上で操る琴未は必死に魔法陣を維持し続けた。
反撃に出たい琴未だが、さすがにこれほどの至近距離にいられると攻撃は出来ないらしい。
それを察したのかシエラのウイングクレイモアは翼を大きく広げると、その羽先を下へと向けた。
「ブースト」
大きく広げられた翼は羽先が変形するほどの推進力を生み出し、白い粒子を噴出しながらクレイモアを押し上げる。
「それはどこかのメカのブースターか!」
地上からでも魔法陣の状況が分かる琴未はそんなツッコミを入れるが、かなりキツイようだ。
そして次第に魔方陣にはヒビが入り始め、飛び散る火花もその量を増していく。
「あと少し、いい加減に壊れろ」
そしてクレイモアの剣先が魔法陣を突き破り、それをきっかけにウイングクレイモアは上昇を開始、シエラが魔法陣を通過するのと同時にを完全に破壊した。
「キャアッ」
その余波は魔法陣を維持し続けていた琴未まで襲い、琴未は軽く吹き飛ばされるように地面へと倒れた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
だが魔法陣を破ったシエラもかなりの力を使ったようで、荒い息をしながらも琴未に向かって急降下を始める。
シエラとしてもこの機を見逃す気は無いようだ。
「相手が完全に起き上がる前に攻撃できれば、こっちのペースに持っていける」
シエラは全身を包み込むフィールド系のバリアを張ると、急降下で生じる空気との摩擦でシエラを包むバリアは赤く熱を発する。
琴未が起き上がるとすぐに上空を見上げる。そこには赤くなりながら急降下をしてくるシエラの姿があった。
「あんたは大気圏を突破してきたんかい!」
思わずシエラの姿にツッコミを入れる琴未だが、急いでその場から離れる。
「冗談じゃないわよ。あんな隕石みたいなのが直撃したらこっちの身が持たないわよ」
そう言いながらも琴未はシエラの着地地点から少しでも回避距離を取る。
そしてシエラはクレイモアを地面に向かって差し出すと、地面に向かって降下スピードを維持したまま地面に迫る。
「メテオインパクト」
地面に激突すると同時にシエラ自身も力を解放、落下の衝撃を倍増させる。
ドーム状に力は広がっていき、飲み込んだものを全て破壊していく。そんな中で琴未は必死に迫り来る力から逃れるために走っているが、熱と破壊力を持った力が琴未を飲み込もうとした時、力は頂点に達して大爆発を起こす。
大爆発に巻き込まれなかったものの、琴未は爆風でかなり吹き飛ばされてしまった。
「ほう、あっちは随分と派手にやっておるのう」
「シエラ〜、私まで巻き込むつもり!」
「じゃが実際には私と同様に難を逃れておるではないか」
最初にシエラの攻撃に気付いたのは閃華だ。それで閃華はミリアとの戦闘を一時中断して急いで充分な回避距離を取った。
閃華のその行動にやっとミリアも上空から落下してくるシエラに気付き、閃華の後を追って無事に非難できたわけだ。
「それにしても、シエラとやらも随分と昇に惚れておるようじゃのう。いったい何があそこまで駆り立てるんじゃか」
「昇が好きなのは私も同じだよ!」
「そうであったのう。では、再開するかのう」
そう宣言した直後に閃華は一気にミリアの懐に入る。そしてミリアの腹に手を当てると一気に力を解放すると同時に押し込む。
その衝撃はミリアの鎧を通してミリアの体に衝撃を与えた。そのため一瞬ミリアの動きが鈍る。閃華は方天戟で思いっきりミリアを殴り飛ばした。
「どうじゃ、内気功と呼ばれる技じゃ。鎧や盾などの防具を通り越して本体に直接攻撃する技じゃが、本来防具に頼ってるそなたには結構効くじゃろ」
「ぐぐっ」
閃華の言葉を証明するかのように、ミリアは慣れないダメージに動きが重くなっていた。
そこへ閃華は一気に追撃をかける。
「ほらほらどうしたんじゃ、動きが遅れ始めておるぞ」
「くっ」
先程の技がかなり効いているようで、ミリアは防戦一方で攻撃に転ずる事が出来ない。だがミリアは何とか閃華の攻撃を弾くとハルバードを地面に突き立てる。
「このっ、アーススピア」
地面から飛び出す何本もの土の槍。それはすべて閃華を目指して突き出してきたのだが、その場所に閃華はおらずに、すでに槍の届かない場所まで跳んでいた。
そして方天戟に巻き付いている龍が水を吐き出すと、それが推進力になり閃華を押し出す。そのままミリアに蹴りを入れる閃華、普通ならその程度の蹴りを防ぐほどの重装備なのだが、ミリアは何故か吹き飛びはしないものの、地面を削りながら大きく後退させられた。
重装備のミリアはそう簡単に蹴り飛ばせるものではないのだが、閃華はいとも簡単にミリアを蹴り飛ばした。その事がミリアは不思議でならなかった。
「くっくっくっ、不思議そうな顔をしておるのう。なんで私がお主を蹴り飛ばせたのがそんなに不思議か」
「一時的にパワーアップしてるんだったら、ずるい!」
「いや、違うから。それにそんな能力を持ってる奴なんておらんじゃろ」
「いるもん」
「ほう、何処のど奴じゃ?」
「昇がそうだよ。昇の能力はエレメンタルアップ、精霊を一時的にパワーアップさせることが出来る能力だよ」
「ほほう、そいつは珍しいのう。その能力を持てる人間は長い器争奪戦の歴史の中でも、ほんの数人しかおらんというのに。ふむ、私も昇に興味が出てきたようじゃな」
「昇は渡さないんだから!」
「くっくっくっ、安心せい。昇は琴未の夫と決まっておるからのう」
「そんなの決まってないよー!」
「では、どうする?」
「……なら、これでどうだ!」
ミリアはハルバートを地面に突き刺し、一気に力を流し込む。
「アースブレイカー!」
ハルバードから閃華に向かって地面に何本かの赤い線が蛇行しながら走る。そして赤い線は地面に亀裂を入れると、そのまま引き裂き崩壊させていく。
「いっけーっ!」
そして崩壊を始めた地面は吹き上がり、巨大な衝撃はとなり、地面の破片と共に閃華に向かっていく。
「ふむ、ずいぶんと大技を使ってきたもんじゃな。これは私も覚悟せんといかんのう」
まだ余裕が有りそうな口調でそう言う閃華は方天戟をミリアに向かって、その矛先を向ける。
「龍水閃」
方天戟に巻き付いていた龍が首だけを上げると大きく口を開き、大量の水を一気に吐き出した。
吐き出された水は衝撃波を突き破りミリアへと直撃するが、まさかの反撃にミリアはどうする事も出来ずにそのまま直撃して、ミリアは吹き飛ばされてしまった。
そして衝撃波は破片と共に閃華を襲って吹き飛ばした。
相打ち、閃華はそれを狙っていたのだ。ミリアの技は見た目は派手だが避けようによってはダメージを最小限に抑えられる。そう判断した閃華は防御よりも攻撃に転ずる事にした。
それなら例え衝撃波をまともに食らってもミリアの追撃は来ない。逆にうまく避ける事が出来ればこっちが先手を取れる。閃華はそこまで計算しての攻撃だった。
吹き飛ばされながらも閃華はダメージを最小限に抑えようとするが、なかなかうまくはいかない。
一方のミリアはまさかの反撃にダウン、軽く気を失っているようだが、すぐに目を覚ますだろう。
両者とも互いにダメージを与えながらも決着は付かずに戦いは続いていく。
そんなワケで今回は主人公の昇がまったく出てこない話になってしまったわけですが、次回ぐらいにたぶん活躍してくれると信じています。
というかこの話全体で見ても結構主人公をないがしろにしてるな。って、作者の私が言うなよ。はいノリでやった一人ノリツッコミも終わったところで、そろそろこの戦いにも決着がつきそうです。というか、そうなって欲しいです。
いや、なんといいましょうか。私としてはここまで引っ張るつもりは無かったんですけど、ついやってしまいました。許しでくだせえ、お代官様……今回はここら辺にしときますか。
ではではここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、昇が本当に主人公なのか疑い始めた葵夢幻でした。