5話 事情説明ってやつよ
本当に久しぶりに登場する村長
やっと人化した姿の描写ができました
凍「そういや前は狼のままだったな」
あの時は花子が居なくて人化する意味が無かったからね~
では、本編どうぞ~
さて、氷狼の村でも一際人間の家っぽい木造の建物が村長の家だ。入口の扉はドアノブ付きでどう見ても魔獣の家には見えない。ちなみに、サイズも1番大きくて広い。裏口には他の家のように狼用の入り口がある。
村の住人は用があると裏口に回ることが多いが、今回は雷と花子も居るし正面玄関から人化して入ることにする。
【じゃ、頑張って】
「って、お袋は帰るのな」
【当たり前じゃない。オスなら自分のメスのことは自分でどうにかしなさい】
悠然と去って行くお袋を見ると俺の胸にある想いが去来した。まるで俺の問題は俺が解決しろといった様子のお袋の後ろ姿は本当に息子を信頼しているようで、
何をしに村長の家の前まで来たのか全然理解できなかった。
ただ単に散歩したかっただけじゃねえの? 俺たちはそのダシにされたんだろうな。
「カッコイイ!」
「大人の女って感じね」
「……良いです」
思ったよりも好評!?
どこだ? どこに憧れる要素があった? 俺には暇潰しにきたようにしか見えなかったぞ!?
「これは、心して掛からないといけないわね」
「はい。あそこまで信用して頂いたんです、頑張らないといけませんっ」
いや、お袋は絶対にそんなこと考えてないぞ。信用とか疑うとか以前に何も考えてないぞ。
「村長さんかぁ~、怒ると怖いんだよね……」
そういや焔は俺を前にして暴走して何度か怒られてたな。他にもオスが絡んできて容赦無く火達磨にしたりして『氷狼の丸焼き』を作りかかったりして色々事件を起こしてたな。
それでも村に出禁にならない辺り凄かったが。俺に懐くようになってからは前とは違う理由で友達居なかったな。
「懐かしいねっ。凍以外のオスも私を凍から引き離そうとするメスも全部全部邪魔だったんだけど、やり過ぎちゃってよく怒られたなぁ~」
結局直らなかったしな。
さて、昔話は止めて村長に挨拶しよう。雷と花子は引いてるし、もしかしたら俺も込みで全員村に出禁になる可能性もある。いくらなんでも種族がバラバラ過ぎるんだよ。
ノックして村に帰ってきたことを家の中に居るだろう村長か村長夫人に聞こえるように言う。すると村長の威厳のある低い声が聞こえてきた。
「凍か。久しいな。入れ」
出てきたのは初老の男に人化した村長。白髪が混じり始めた頭部は短く刈り上げられていて威圧感が凄い。焔なんか怒られる時のことを思い出したのかちょっと緊張している。
それにしても、俺たちが人化しているのは予想できていたらしい。
「連れが3匹居るんだけど、入って大丈夫か?」
「構わん」
「じゃ、お邪魔しま~す」
「久しぶりですっ」
「お邪魔するわ」
「お邪魔します」
入って直ぐに8人用の大きなテーブルの上座に座る人化した村長と、キッチンでお湯を沸かしている人化した村長夫人が見えた。
腰が少し曲がり始めた優しそうな夫人は村長よりも年相応に老けている。人化していると髪は完全に色素が無くなった白髪だが、優しそうな見た目通り温和な性格で誰からも友好的だし夫人は誰に対しても友好的だ。
「……凍、焔以外の連れに関して説明はできるな?」
疑問形のくせに目が命令形だ。相変わらず50を越えた爺さんには見えない。
普通の50を超えてるな。
「凍、微妙だよ」
「ありきたりだわ」
「……5点です」
採点厳しいな!?
「ジャレるな。さっさと話せ」
「まあまあ、お爺さん。久しぶりに村に戻ってきたんですから、もうちょっとお喋りを楽しみましょうよ」
村長夫人良い狼! 流石村1番の穏健派で良心! 実は支持率100%だったりする優しいカリスマの持ち主なんだよ。
お茶の入ったカップを人数分用意した村長夫人は俺たちに座るように促して自分は村長の横の席に着いた。夫人の真横には焔が座りその正面には俺、俺の隣に雷、焔の隣に花子が座った。1番遠い花子は不満そうだがこれは仕方ない。
「仮にも同族の幻狼である炎狼と雷狼が居るのは100歩譲って分かるとして、蝶族まで囲っているとは、末恐ろしい性欲だな」
「何で初っ端から下ネタなんだよ!?」
「何を言う。全員から強烈にお前の匂いがするのだからお前のメスだと分かって当然だろう。それとも、しておいて言い訳をするつもりか? 村を出る時よりも更に腑抜けたな」
「凍君は腑抜けじゃありません! 絶倫です!」
「そうだよっ! 3匹でも足りるか不安なんだからっ!」
「…………凍、少しは自重を覚えろ」
何故俺は何も発現していないのに追い詰められているのだろうか?
雷は笑いを堪えてないでフォローしてくれ。
「えっと、私から良いかしら?」
「ああ、構わん」
「確か、氷狼は炎狼と抗争を始めた雷狼とは間接的に敵対関係になるはずだったって聞いているんだけど、今はどうなっているのかしら?」
村長が『ほう』と感心したように息を吐いて雷を観察した。まるで品定めしているかのようで不愉快だったので身を乗り出して視線を遮った。
「雷は雷狼の村が黒スライムって寄生型の魔獣に襲われて逃げてる最中に俺たちと出会ったんだ。敵対の意志は無いぞ」
「ふんっ、分かっている。今の発言で氷狼との接点が本当に無いことも分かったし、その雷狼自体を疑う理由は無い。それからお前が言っている黒スライムという魔獣は焔の父親からの報告で調査中だ。最後に、雷狼とは現在接点が無い。炎狼の村も同様のようだな」
あん? どういうことだ? 雷狼の村は雷の話だと黒スライムの影響で炎狼と抗争を始めたって話だったのに、今は何の関係も無いって……黒スライムが根絶でもされたのか?
「調査中でハッキリとしたことは言えないが、妙なことになっているようだぞ」
視線で先を促すと苦笑して教えてくれた。
「人間が雷狼の村の方に居るようだ。匂いや遠目からそれらしい影を見ただけだから何とも言えんがな。何せ幻狼は遠目から人型を見ても人化しているかどうかは匂いを嗅がない限り分からんしな」
あ~、雷狼の村に人間が居ても人化してるのか人間なのか確かめようが無いか。
それよりも俺、雷と花子のこと話してないけど良いのか?
「まあこんな話はお前に聞かせても仕方ない。本題だ、そのメスたちをどうする?」
あ、忘れてはないのな。
答えは決まってる。
「番にする」
「ふん、炎狼の村1番の美少女では飽き足らず巨乳雷狼に清楚系蝶族までも毒牙に掛けたか」
「言い方酷くね!?」
「凍に食べられちゃった~」
「激しかったわね」
「壊れちゃうかと思いました」
だからこのネタもういいって! いい加減しつこいって! 次行くぞ次!
「まあ良いが、この村では暮らせんぞ。特に蝶族は種族が違い過ぎる。群を出る覚悟は当然しているな?」
「ああ、当然だ」
流石に無理があることは分かってた。炎狼と雷狼なら生活スタイルは殆ど一緒だし生まれてくる子供もちょっと特徴が違うだけだから問題ないが、蝶族のとハーフではどんな魔獣が生まれてくるか分からない。最悪未熟児みたいに生まれきて誰にとっても不幸な結果を生む可能性も大きい。
そうなると俺は村を離れて4匹で生きていくことが望ましい。村にとっても俺たちにとっても。
「だがまあ、直ぐに出て行けと言うつもりもない。どこで暮らすのかは知らんが、そのための準備をしたければしていくと良い。それから、両親には話せよ?」
お袋なんかは既に出ることを前提にしていたように見えたけどな。
ま、とりあえず今日は家に戻るか。
凍、群から完全に離れる、の巻
凍「そのタイトルは色々と不味いぞ」
確かに、ちょっと怖いですね
さて、これで凍は完全に群から離れることになりました
この後に正式に村から離れたら、今後凍に村に戻る権利はありません
花子と同じで近付けば別の群の個体として敵対することになります
まぁ、焔と雷も同じようなものですけどね
では次回~