16話 異形召喚
【さあ、どこまで僕と戦えるかな?】
そんな霊帝の言葉で俺たちは互いに構えた。俺たちは武器を、霊帝はその巨躯を。
霊龍は翼竜に似ていて腕は翼と一体化している。頭部には扇状のトサカもある。中々に威圧的だ。
「レイちゃん、凍の敵になるんだね?」
焔?
【そうだよ、僕は彼の敵だ。彼は、僕の秘密に気付いてるしね】
あ~、霊帝の強い魂干渉能力のタネは想像がついてます。地下で嗅いだ、真新しいあの臭いは忘れない。
「そう。私も、レイちゃんとは仲良くなれるかと思ってたんだけど、凍の敵になるんだったら話は別だねっ」
【そうだね。僕には君の心は崩せなかった。君が凍から離れるほどの干渉はできなかった】
霊帝の尻尾が横薙に焔に振るわれたが、焔はそれを天井に飛ぶことで躱し、法剣を霊帝に唸らせた。
【君たちの関係者は基本的に僕の力が効きづらい。きっと僕はまだ君たちに愛着があるんだろうね。そして彼らも君たちに思う所があるんだろう。僕も、そんな友人が欲しかった】
「今からでも作れば良いのにっ」
焔に向けて強風を起こした霊帝は反動で下がることで焔の法剣を避けてみせた。
本当に引きこもりか? 戦い慣れてやがる。
「凍、ここは私と焔で引き受けるから、花子と地下を調べてきなさい」
なおも斬撃と打撃を打ち合う2匹を背後に雷が言い出した。
貧乏クジの好きなことで。
「これが私よ。それを、霊帝に見せつけてくるわ」
頼んだ。
俺は言われた通り地下を調べるよ。
「焔も雷も、ちゃんと生きててください!」
「縁起でも無いわね」
「まっかせて!」
行くか。
霊帝の住まいを抜けて地下への道を探したら案外簡単に見つかった。
そして、ジジイの家で嗅いだ臭いはやっぱり霊帝のものだったと確信した。だが奥からは霊帝に凄くよく似た臭いがする。何だこれ?
「君たちは、姉さんの知り合い?」
そこは魔法陣の敷かれた祭壇だった。
中央には霊帝によく似た少年の姿をした霊龍が鎖で宙吊りにされ、胸の部分に大きな魔石をペンダントのようにつけている。見たこともないほどに真っ赤に輝く魔石だった。
「私たちは、冒険者です。魔獣ですけど」
「それは分かるよ。僕も魔獣だしね。でもどうしてここに?」
こいつは何も知らないのだろうか?
どの道俺には関係ないな。今は霊帝の力の源が先だ。
「その魔石は何を引き付けているんだ?」
「へえ、気付いたの? この魔石は姉さんの魂を引き付ける力を増幅してるんだ。単純に生き物の魂を引き付けてるだけなんだけどね」
やっぱりか。
魔石は環境が変わると周囲のモノを引き付ける力がある。それはこの前武器屋のオッチャンが教えてくれたことだ。だけどそれは物質に限った話じゃないかもしれない。
俺の仮説は『使用者が認識できるもの全てを引き付ける』だった。それはもしかしたら正解なのかもしれない。違うのかもしれない。どちらでも関係無い。
「あなたは、何故こんな所で捉えられているんですか?」
「僕は霊龍の片割れだからね。本当なら育ててもらえずに死ぬはずだったんだけど、偶々生き残っちゃった。でも自力で生きていくには最初の衰弱が酷くてね、生命力が足りないっていうのかな。だから、姉さんに目を付けられたんだ」
目を付けられた?
「そう。ここで、姉さんの願いを叶えるための道具として生きることで助けてもらった。僕は死んでも生きてもどっちでも良いんだけどね」
「そんなっ」
霊龍は2匹を生んで1匹を育てる。大概は育てられなかった方は死ぬが、こいつは生き残ったわけだ。
「あ、帝都の上空を魔獣が何匹か飛んでるね」
持ち堪えられなかったか。仕方がない。
「それに、人間も何人かこっちに引き寄せられてるね。フフッ、姉さんは一体何をするんんだろう?」
俺が聞きたいくらいだ。
「ああ、来たね」
名前も知らない霊龍の言葉に従うように、天井を突き破って鷹のような魔獣が侵入してきた。それと同時に数疋の昆虫、猪、人間までもが入ってきた。
「やっと終われるのかな? ここに居た時間は短かったけど、それでも退屈だったから丁度良いかな?」
何で疑問形なんだ?
霊龍に大群が押し寄せる。しかし、魔法陣の中には更に魔法陣が3つ描かれている。
陣が光り、大群が3つに分かれる。同時に魔石の輝きが増し、陣の中で大群が肉が潰れるほどに圧縮されていく。
昆虫と人間と猪と鷹。それらが本来有り得ないような形で圧縮され、どんどん小さな肉の塊になっていく。
最初こそ骨や脳味噌が飛び出す様がグロテスクだったが小さくなってしまっては変わらない。ただの肉団子だ。
そして、魔法陣から生えた腕が肉の塊を掴んだ。
そいつは宙に浮かんだ肉団子を支えに魔法陣から這い出してきた。少しずつ生えてくる3体の何かは、俺が今まで見た魔獣の姿の、どれにも当て嵌らなかった。
両肩からは2本ずつ太い猿のような腕が生え、背中には蝙蝠のような羽と蛇が尻尾として生えている。
最も異質なのは膝関節が2つある足だ。ボクサーのように腰を落とした膝が、馬の後ろ足のような関節に繋がり、猫科の足首に到達する。
膝を落とした姿勢でなお、体長は2メートルを超えている。
目は全部で6つあり、左右に3つずつ、上に1つで下に2つだ。
猫背のような姿勢から伸びる首はどこか機械的な動作で目を動かしている。
【ぐらぁぁぁぁぁ……】
3体の異形は全く聞き取れない唸り声と共に肉を口に運び、食った。
「何だ、このグチャグチャな生き物は?」
「さあ? でも古代の文献には魔獣でない魔獣として記述されているよ。御伽話としてね」
そうかい。それよりも、俺たちの目の前に居るヤツ以外はお前のこと見てるぜ?
「僕は死んでも良いからね。このまま殺してくれるなら、それはそれさ」
なら勝手に死んでくれ。俺は死にたくない。
「フフッ、頑張ってね。僕は先に死んでるいるよ」
その言葉を最後に、霊龍は2匹の異形が口から放ったレーザーのような熱線で焼け死んだ。痛みを感じる暇もないだろう一瞬で、霊龍が炭になった。
相当な熱量だな。あ、魔石は無事だ。
「あなたたちは一体……」
花子、意味の無い質問はしない方が良いかもしれないぞ。こいつらには言葉が通じないかもしれないしな。てか通じてないが。
「お前たちが何かはこの際置いておく」
銃を抜き、正面に構える。
花子も同じように、自分用に身長された刀を抜き放つ。
「でも俺は、依頼を受けてるんだ。帝都の異変を解決しろってな」
3体が俺たちを睨む。
「この後霊帝と戦ってる仲間の所にも行かなくちゃいけないんだ」
4つの手の平を握ったり閉じたりしている。
「だから、さっさと魔法陣に帰るか、死んでくれ」
俺の呟きを皮切りに、花子が正面の1体に切り掛り、4本の腕をクロスさた異形に防がれる。
さて、こいつは臭いがしないけど、黒スライムの同類とみて良いのか?
変てこな敵が登場
黒スライム共々よろしくしてあげてください