15話 霊帝慟哭
霊帝にジジイのことを話してから2日、帝都はちょっと騒がしかった。
政治家の半数以上がクビになり、その内数名は国家反逆罪で絞首刑と断頭台に掛けられることになった。
何でもジャングルに派兵させた1派は霊帝を失脚させて自分たちの玩具にしようとしていたらしい。霊帝の見た目考えると、ペド?
ちなみに霊帝に何らかの歪んだ愛を持っていたのはクビになった内の80%だそうだ。クビになっていない者の30%も多少は変な趣味を持っているらしい。美幼女も大変だ。
ちなみに俺と焔が忍び込んだ家のジジイ(元商人)はまっ先にクビになった。小悪党だと思ったら、身寄りのない子供を男女関係無く屋敷で雇う、意外と良い人でもあったらしい。多くの子供が彼について行った。街から浮浪児が減った理由かもしれない。だが横領は横領だ。本人は潔くクビになり商人として子供たちと新しく商売を始めるらしい。変態だが善人でもあるようだ。横領した金は孤児院とかにも使われてた。
死刑には特に興味ないので割愛。
あれだ、絞首刑は糞尿垂れ流しで断頭台は生首ごっとんだ。
で、地下がどうなっているのか俺たちは知らない。知る必要もない。
何か関わるなって俺の本能が警告最大音量で鳴りっぱなしなんだよな。黒スライムの目撃情報は気になるけどさっさと帝都を出るべきか?
霊帝からの褒美は貰ってないけど特別欲しい物も無いから食料でも貰って帝都を発とうかと皆で話していた昼下がり、それは起こった。
「魔獣の大群が帝都に迫っています! 落ち着いて、避難誘導に従ってください!」
おいおい。
「あら、魔獣が大群で人間の街を襲うなんて王都だけだと思ったわ」
でも帝都の外周部から見た魔獣たちは黒スライムに取り付かれた様子はない。ただ何かに引っ張られているようではある。
地上は猪に昆虫、空は怪鳥にフライフィッシュ……これ防ぎきれないだろ?
狼が1匹も居ないのは何でだ?
「お前たちっ、ここに居たのか!」
あ、王子だ。さっさと避難しなくて良いのか? メイド長も居るんだから心配させちゃ駄目だぞ?
「お前たちに頼んだら私だって戻る」
つまり、どうにかしてこいと?
「そういうことだ。武器屋は既にゴーレムを準備して避難所の防衛をしている」
オッチャン、頑張り過ぎるなよ。
しかしメリットの無い依頼だな。
「普通なら一生遊んで暮らせる金や女で釣れるのだがお前たちは無関心だからな。もしこの依頼を完遂してくれたら武器屋との専属契約の話を復活させる」
ああ、帝都までの護衛でパーになったあれか。確かにオッチャンの腕は惜しいな。
で、OKした。皆からも反対意見は出なかったので防衛が成功したらという契約をした。
魔獣の群は帝都まであと500メートル。王子はさっさと避難しろ。
「では、またな!」
ハイハイ。
じゃ、魔獣たちにインタビューだな。
冒険者がメインの防衛ラインに到着。混戦になる頃合を見計らって固まって動く。
低ランク冒険者があんまり突出し過ぎると目立つから待ったのだ。
で、聞いてみた。
「人間の土地に大軍で押し寄せるなんて何があった?」
【幻狼に蝶か。分からん。だが、呼んでいるのだ。何かが呼んでいる、呼んでいる……】
俺が聞いた猪はそれきり壊れたレコードのように繰り返し続けた。まるで夢遊病だ。他の魔獣も同じ感じで目が虚ろ。何だ?
「凍、変だよ。皆おかしくなってる」
「まるで話にならないわ。帝都の中心を調べたほうが良いかもしれないわね」
「ジャングルの魔獣や狼、蝶族は居ませんでした」
他も同じようなもんか。これは雷の言う通り魔獣の群を先回りして調べたほうが良いな。
地上の防衛は他の冒険者や侍だけでも乗り切れそうなので俺たちは魔獣の進行方向の帝宅へ向かうことにした。
入口で何人かの侍が止まれとか騒いでいたが突破。後で治療してもらってくれ。飛べる魔獣が突破してくる前に終わらせたいんだよ。
「ふふふっ、魔獣が人間の都市を襲うなんて心揺さぶられる光景だとは思わないかい?」
俺たちでも感じる、魂が引っ張られるような感触。それは帝宅で、俺たちが1番長く言葉を交わした相手から発せられていた。
つまり、霊帝だ。
「霊龍の干渉力は微量だ。本当に多少しか生き物の心に干渉できない。でもそれは過去の話だ。僕にはもっと大きな力がある」
明らかに同士打した侍と霊士の死体を踏み潰しながら、白い着物の霊帝がヒタヒタと歩を進めている。
「わざわざ君たちに分かるように出てきたのは君たちなら僕と分かり合えると思ったからさ。君たちは魔獣としては異端だ」
霊帝の目は、濁っている。最初から、澄んだ色なんてしていなかったが、輪を掛けて濁っている。
「僕はね、君たちが気に入ったんだ。でもこの国は嫌いだ」
何人か、死刑宣告をされなかった政治家も居る。
「僕が非力なことを知って、自分の欲望の捌け口にしようとしていた。それは良いんだ。霊龍は生き物の好意を無意識に引き寄せる」
そうしなければドラゴン種の中では生き残れないからな。
「だけど、僕は自由が欲しかった。ただ普通の竜のようにっ、ただ自由に空を飛びたかった!」
霊帝が足を進める度に、帝都の人間の死体がグシャッと音を立てて潰れる。
「ただ普通に、名前が欲しかった!」
幼い体が、少しづつ鱗に包まれ、その形をトカゲに似た何かに変えていく。
【だから、僕は何度でも言おう! 僕は自由が欲しい! 僕を僕たらしめる、名前が欲しい!!】
気付いたときには、霊帝は3メートルはある白銀の竜になっていた。子供だからまだ小さいが、それでも人間サイズには驚異だ。
だが魔獣の姿にはなれない。今なったら、誰に見られるか分からない。そもそも霊帝のことは殺したくない。
【ねえ、君たちは僕と一緒に帝都を滅ぼせるかい? 僕を自由にしてくれるかい? 凍、君は本当に魔獣の味方かい?】
流石霊龍だ、俺が完全に魔獣サイドの存在ではないと気付いたらしい。だからといって人間サイドの存在でもないが。
「知らん。俺は俺の味方だ。少なくとも、お前の味方になったことはない」
事実は事実のまま伝える。それしかできない。俺と霊帝は違うのだから、俺の意見は絶対に理解はされない。例え共感はできても、俺と霊帝の間には齟齬がある。
【そうかい。君なら、僕の全てを捧げても問題ないと思っていたんだけどね。どうやら君は、僕の最大の障害になりかねない。ここで、消えてくれ】
何が霊帝をこうさせたのかは知らない。それでも、霊帝が敵なのは確かなようだ。
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