9話 黒幕発覚
今回、かの黒幕が発覚!?
いや、何の話でしょうね
凍「お前が聞くなっ!」
「まさか君がそこまで凍という個にこだわっているとは知らずに軽率な提案をした。重ねて言おう、すまなかったね」
おいおい、1国のトップがそんな簡単に頭を下げて良いのかよ?
「僕は好きで霊帝をやっているんじゃないからね。どうせなら辞めたいくらいだ。だが人間と先祖が過去にした契約は僕の一族全体を巻き込んだものだ。本当なら直ぐにでもこんな街破壊して出ていきたいんだけど、それもできないんだよ」
「帝宅も出れないような契約なのか?」
ジジイたちをどうにかすれば出れるって話だったが。
「僕をここに閉じ込めているのは老人たちさ。僕はこの国の人間に危害を加えられないんだ。それを良いことに出口に見張りを置いて無理矢理出れないように監視させているのさ。
しかも僕の力では知覚できない地下で何かコソコソと動いているようだしね」
うわぁ、面倒な話になってきたな。
「僕の依頼は簡単だ。有力な老人たちのうちの1人でも失脚させるための証拠を持ってきてくれ。別に大勢である必要はないよ。誰か1人で充分だ」
『じゃ、頼んだよ?』。謁見はそう締め括られた。何ともおかしな依頼が2つも重なったものだ。これはどうするべきか。
「凍、これからどうする?」
焔、さっきは俺ちょっと感動したよ。まさかあそこまで俺の意思を尊重していてくれたなんて思わなかった。
さて、具体的にはどうするか。
「老人たちの所に忍び込むのは、夜の方が良いでしょうね」
「闇に紛れて行くんですか? ちょっと楽しみです」
スパイごっこじゃないんだから楽しむってのはおかしくないか? まあ、魔獣からしたら人間の警備なんて見当外れもいいところなのだが。
魔獣が侵入するなんて普通は考えないから仕方ないんだがな。
「昼は黒スライム捜索、夜は老人の家に忍び込めないか調べる。これでどうだ?」
「うんっ」
「妥当じゃないかしら」
「それで行きましょう」
妙案も思いつかないし今はこれで行くしかない。もっと良い方法があるのかもしれないが、そんなのは後からいくらでもついてくる話だ。悩んで動けないより穴があっても動いた方が良い。とりあえず当たって砕けろ!
で、近くの森で魔獣に話を聞こうと思ったんだが、
「某も同行させていただく。貴公らは霊帝の客人、怪我があっては侍の面目が丸潰れですゆえ」
邪魔なのが1人ついてきてしまった。
仕方無い、置いていこう!
全員に合図して人間がついて来れない速さで森を走る。後ろで霊士が何か騒いでいるが無視して森の奥に踏み込む。
で、ミスったと後悔。
【貴様らっ、吾輩の泉を汚す気かっ!】
何か大きな水龍発見……いやマジですいません、別に悪気があったんじゃなくてちょっと人間巻こうとしただけなんです、そしたらこんなとこに着いちゃいましたテヘペロ……言えねえよな~
「すいませんでしたああああああああああ!」
「ごめんなさああああああああああい!」
「きゃあああああああああああ!」
「許してくださああああああああああい!」
全力疾走余裕でした。
何か直ぐ後ろに高密度の水球が着弾してるけど今は無視! まさか霊士を巻くのに夢中で水龍のテリトリーに入っちまうとは不覚だった。本当にすいませんでした!
「はー、はー、はー……全員無事か?」
「何とか~」
「一応平気よ」
「ビックリしました」
本当に怖かった。まさか人間の国の近くにあのサイズのドラゴンが住んでるなんて思わなかったな。
【げっ、幻狼様!?】
ん? 何か子狼が俺たち見てビックリしてるな。
あ、狼にとって幻狼はヒーローみたいなものだったな。
「なあ君、この辺で最近黒い水の塊みたいな魔獣を見なかった? それか目が赤く光ってる魔獣でも良いんだ」
聞き込みって大事だよな。
【え? う~ん、見たことないや。それに目が赤く光ってたらスッゴイ目立って簡単に見つかっちゃうんじゃない?】
そうなんだよな~
正直黒スライムが居たらこんな悠長にしてなれないと思う。もっと色々大変なことになってもおかしくないはずだ。
事実王都の近くの森は魔獣が凶暴化してて幻狼相手でも平気で襲い掛かる魔獣が多かった。普通幻狼は強くて危険だからと避けるはずなんだよな。
「ありがと。参考になった」
【うん! じゃあね!】
母親の所に行ったか。
何か恐縮した感じで母狼が頭下げてる。別に俺たち子供なんだから頭下げなくてもいいだろうに。
「凍、やっぱり今回の依頼、何か変よ」
「黒スライムが居たらこんなに平和じゃないよね? 本当に居るのかな?」
それは俺も思った。王子も帝国から目撃情報が入ったと言うだけで実際に見たわけじゃない。本当に居るのか怪しくなってきたな。
「あの~、前から思ってたんですけど、黒スライムって何ですか?」
……花子に説明するの忘れてた!
いや、スマン。本当に花子が仲間になるのが自然すぎて説明するってことを忘れてた。
…………説明中…………
「と言うことなんだ」
「寄生する黒い魔獣ですか。そんなのが居たなんて初めて聞きました」
だよな。俺も村を出るまでは知らなかった。でも人間たちも初めてちゃんと観測したのは王都が最初みたいだ。そこからは散発的に目撃情報があるらしい。
「臭いもないから追えないんだよんね~」
「本当に生き物なのか疑いたくなるわよね」
「不思議な魔獣ですね。人間の国にわざわざ攻め入るなんて」
それは俺も思った。変な魔獣も居たものだ。
え、お前が言うなって? 何をおっしゃる狼さん。
「今日はもう帝都に戻ろう。街で聞き込みでもした方が良さそうだ」
ついでに老人たちの噂でも聞いてみよう。
帝都に帰還。
さて、まずはどうしたものかな。日は沈んできたけどまだ夕方だ。怪しまれないように暗くならないうちに帰ってきたがやることがない。
「凍~、宿に戻ろ?」
仕方無い、戻るか。
「あなたたち、こんな所に居たんですかっ?」
あ、先生だ。何か息を切らせてるな。
「急にキスタニアの騎士と霊士様が来て4人は暫く休むことになったなんて言われて驚いたんですよ?」
だろうな。説明する気はないが。
「事情を聞くわけにはいかないでしょうけど、急過ぎて学校の皆も戸惑っています。せめてどれくらいで戻ってこれるかくらい分からないんですか?」
予定は未定だな。どっちも面倒そうだ。てか皆?
「はい。私が顧問をしている研究会です」
……研究会、だと?
「こ、凍、急いで宿に戻りましょう?」
「そうですっ、明日の予定を決めましょう!」
「?????」
焔だけこの状況分かってねえ!? 気付け! そして先生に警戒心を持て!!
「皆自己主張は強いですけど悪い子たちじゃないんですよ? 喧嘩だって『あの最高のツンデレ受け顔が至高のオッパイに攻められてるところを想像してください』って言ったら仲直りしてくれましたし」
やっぱりこの人変態の側だったあああああああああああ!!
「失礼します!」「さようならっ!」「さよなら!」「失礼しましたっ!」
「あっ、待ってください!」
先生の声は無視して宿にダッシュした。
……学校……行きたくねえな……今なら焔の学校嫌い、分かるな……
教師、それは色々な特権を最大限活用できるかもしれない不思議な職業
……そんな人見たことないけど
凍「普通は居ねえよ」