9話 これが若さか
今回は焔さんの台詞はありません!
何だかんだでジャングル防衛戦は人間の全滅という形で終決した。魔獣側にも多数の負傷獣が出たが回復すれば後遺症も残らない程度の、魔獣からしたら掠り傷のようなものだけだった。
魔獣の世界はちょっとの怪我で動けないだのなんだの言ってられない。動けるようになったら直ぐに狩りや群を守るために戦わなければならない。人間よりシビアだろ?
で、俺は今人間の陣に蓄えられてた食料(酒まであった)で雷の口直しに付き合っている。
焔は疲れたのか俺の膝枕で寝ている。が、時々手が怪しく動くところを見ると起きているんじゃないかと思う。どこ触ってんだ。
「凍君、ここに居たんですね」
あ、花子だ。最後の方は空気だったな~
「焔は、寝ちゃったんですね」
「船の上ではあんま寝れなかったらしい。休ませてやろう」
ん? 花子が焔を呼び捨てにしてる?
「雷は、口直しですか?」
「ええ、パンとクリームシチューって美味しいのよ。花子もどう?」
「頂きます」
雷も花子を呼び捨てにしてる? 互いを認め合ったとかそう言う感じか?
「焔は、本当に凍君至上主義なんですね」
「そうね。私も出会ってから1ヶ月経ってないくらいしか一緒に居ないけど、焔は凍に心酔してるわ」
「羨ましいです」
本人目の前にしてその話題止めてもらえる?
「避難組には恐怖の権化のような扱い受けてるみたいだけどね? ほら、見てみなさい」
指された方を見てみると狼の子供が人間の肉を汚く食べて母親を困らせているようだった。アレ不味いもんな。変な食い方になっちゃうよ。
今まさに鍋に入れられようとしている人間とまだ食われてない人間が恐怖で顔グチャグチャにしている姿は笑える。触れてはいけないものに手を出した罰だ。
【そんな我侭言ってると、炎狼のお姉ちゃんが怒ってやってくるわよ?】
【っ!!!? 綺麗に食べるっ!! 綺麗に食べるから炎狼のお姉ちゃん来なくて大丈夫っ!!!】
……さて、見なかったことにして食事を続けよう。あ、この酒上手いな。茄子の味噌焼きに合う。
「焔、恐怖の代名詞になってますね」
「凍関係で怒った焔は危険よ。あなたも気を付けることね」
最早ナマハゲのような扱いだな。気持ちは分かるが。
こら焔っ、俺の息子に手を伸ばすな。
「こうやって寝ている分には可愛い女の子なんですけどね」
「ギャップ萌というヤツね。オスの落し方を心得てるわ。落ちない凍は不能の疑いがかかっているのだけど」
「五月蝿い」
俺だって反応はする。強靭な理性で我慢しているだけだ。
「自分で強靭とか……ふふっ」
「凍君、ちょっと面白かったです……プッ」
酷いなコイツら。焔も肩プルプル震わせるな。今回も頑張ってくれたから撫でてはやるんだけどさ。髪サラサラ。
「近くに居た人間は全員殺したし、今から食われる奴らも足を切り落としてるから逃げられない。これで心置きなく帝都に入れるわね」
「そう言えば、凍君たちはジャングルを出てしまうんですね」
「ええ。本当ならここに立ち寄ることもなかったでしょうしね」
「残念です」
「あなたも来れば良いのよ」
は?
「え?」
「どこに居たいかなんて自分で選べば良いのよ。選べないのは選ぶ力が無い者だけ。でも私たちにはそれがあるわ。あなただって、戦えなくはないのでしょう?」
ワーム時代の花子は自分の食料は自分で確保していた。王族だからこそ、自分の力で生きていくための術を身に付ける必要があった。偉い者ほど自力で生きていかなくてはならない。魔獣とはそう言うものだ。
「でも、私は、王族なんですよ?」
「知らないわ。血筋なんてただの飾りよ。選ぶのは、あなた」
雷さんカッケエ! 茶化してスイマセン。こういう空気耐えられないんだよっ!
「……考えて、みます」
「それが良いわ。じゃ、私は人間の鍋でも見に行ってくるわ」
……まさか花子が俺とサシで話せるようにするためか? いや、雷ならそれだけじゃないな。きっと人間が鍋に入れられるところを見たいんだろう。
「皆、強いですね」
そうか?
「私は、自分の生き方を決められません」
「……俺だって決めてはない」
ただ、その場その場でテキトーに選んでるだけだ。先のことなんて考えてない、行き当たりばったりな生き方だ。
「でも、次にどうするかは決めているんでしょう?」
「まあ、な」
王子に頼まれたから帝都に向かう。最初はそうだったがこの大陸の村や港町を見て帝都が気になった。きっと面白い街並みだろうと思う。それに向こうとは別の食文化みたいだし食べてみたい。
「……私も、ついて行って良いですか?」
「自分で決められるなら、な」
一緒に行くつもりなら、無理矢理にでも一緒に行くくらいの気持ちで来てほしい。それで周りから文句を言われたら露払いくらいは手伝うつもりだ。
「花子なら一緒に来ても平気だろ。ワームだった頃は人間も魔獣も関係なく食べてたんだし」
そう言えば花子は成虫になってから蜜が主食になったんだよな? 何でワームのときは肉食だったんだ?
「そうですね……ちょっと、人間鍋の方を見てきます。ワームだった頃の感覚、確認しないといけませんから」
いってらー
さて、この完全に寝入ってしまった焔をどうしようか。
「やあ、凍君」
「あ、王様」
「ジャングルを守ってくれてありがとう。この地の統治者として、礼を言いたかったのだ」
「はあ、まあ、素直に受け取っておきます」
「そうしてくれ。まさか花子の友人が氷狼で、しかもジャングルの救い手になるとは思ってもみなかったよ」
「偶然ですけどね」
と言うか運だ。投石器を破壊するのには焔と雷の存在は欠かせなかった。炎猿では体が大き過ぎて接近中に迎撃されかねなかったし、蝶族はそもそも人化すると戦闘能力に不備がある。王様は別だが。
その点、焔と雷は人化しても充分戦えるし武器もある。あいつらが居なかったら落とし穴や眠り粉を使うためにジャングルに引き付ける必要があったから被害はそこそこ出たはずだ。
「それでも君の功績だよ。君には娘を支えてほしいと親なりに考えるのだがな」
「無理ですね。俺は一ヶ所に留まれない。最低でも焔を安定させないといけません」
「……彼女のことは妻から聞いた。彼女が居てはジャングルの魔獣も安心できんだろうな」
「生きた台風みたいな存在ですからね」
子供たちの精神衛生上、非常によろしくないだろう。ちょっと変態入ってるし。
「さて、前置きはこのくらいにして本題に入ろう」
え、『ジャングルに残って』が本題じゃなかったの?
「我の娘、欲しいか?」
「はい?」
「花子は君にとって魅力的かと聞いている」
「美女だとは思います。でも、愛してるかと聞かれれば違います」
正直愛とか分からん。焔の所為でもあるが。
「むう、折角娘の恋に理解ある父親を演じようとしたのが頓挫したな」
「俺に言われても困ります」
「くっ、不能め!」
「何言ってんですか!」
「あんな器量良しのメス、早々おらんぞっ!」
「見た目だけなら焔も雷も同レベルですよ」
「この最終鬼畜ハーレム製造器がっ!」
「不名誉にも程があるっ!」
これが本当に王族かよ! ちょっと蝶族の未来が不安になったぞ? 長男、お前は普通であってくれ……シスコンだし無理だな。
「まあ良い。明日の朝、発つのだったな」
「ええ」
「……娘を頼む」
「……善処します」
これで色々と終わり、だよな?
台詞がないのにナマハゲ扱い
月明かりのない晩に法剣が飛んでこないか心配です
焔「夜ばかりと思わないで欲しいなっ」
凍「焔、ちょっと法剣しまおうか?」
雷「あらあら」
花子「いや止めましょう!?」
((((;゜Д゜))))ブルブル