6話 気持ちだけで、一体何が守れるって言うんだ!
これは苦しい名言だと思いつつ
さて、何故か父親魂全開の蝶族王様と決闘した翌日。
俺も王様もその場で気絶したのだが1時間くらいで目を覚ました。そして俺は花子に泣き付かれ、王様は王妃にお説教を受けたりで1日が終わったのだ。
船の航海日程的にはそろそろ焔と雷がこの大陸に入るころかな。
「王様、多分俺の仲間がこの大陸に入ります」
「ああ、そうか。どうする? 港近くの森までならば連れていくが?」
「あ、それは助かります。でも、問題もあります」
「問題?」
焔の性格説明中。
……終了
「それは、何と言うか、マズイな」
「花子にライバル出現ね」
「ラ、ライバルって、私はそのっ」
「てか今の話だとこのジャングルが危なくないか?」
「炎狼の能力で火でも点けられたら事だぞ?」
上から王様、王妃、花子、長男、次男だ。花子が俺を意識してるのはバレバレなんだが?長男の妻子は相変わらず人間と芋虫で遊んでる。親子のじゃれ合いのはずなのだが、うら若い女性が巨大芋虫に襲われてるようにしか見えない。
「とにかく、港の近くにいたら焔は俺のこと臭いで見つけると思うんです。あとは俺と焔の問題です」
「……そうか。では、港の近くまで、で良いんだな?」
何か王様と花子に寂しそうな顔された。ハブられたように感じたか? 実際面倒だからハブったんだが。
ついでに遠目で良いから人間の村の様子を見ることにして俺と花子は王様の背に乗ってジャングルを出た。
……何で花子まで?
予定通り村の様子を見てから港町の近くで降ろしてもらい街に入った。村はかなり混乱しているようで時間稼ぎはできたっぽい。あとは人間がジャングルに必要以上に入らないようにするだけだ。何にも考えてないけど。
「では我はここで待つ。仲間と合流したらジャングルに戻るのだろう?」
「ええ。多分2匹増えると思うので、お願いします」
「うむ。くれぐれも、花子のことをよろしくな」
そう、何故か王様は俺に花子の教育を頼んできやがった。この先同じように人間と争う可能性もあるのだから多少の経験を積ませたいらしい。
いい迷惑だが。
「港町に入る。俺から離れるなよ」
「分かりましたっ」
何か微妙に上機嫌……どうしてくれよう。
特に検問があるわけでもなく港町に入れた。港付近の飯屋のオバチャンに隣の大陸から船が来たかと聞いたらもう見えてると言われたので見に行った。
何か興味津々で色々聞かれたが昔からの知り合いが来る予定なんだとだけ言っておいた。
「凍君、大きな船が見えますよ。多分アレじゃないですか?」
ん、どれどれ。王国の紋章が帆にある。アレだな。
で、船到着したんだが、
「凍、そのメス、誰?」
「あなた、この数日でまた新しい女を作ったの? これだから思春期はっ!」
焔のヤンデレに雷の侮蔑というコンボを味わっております。王子がホッとしてるところを見ると船旅は相当スリリングだったんだろうな。
「キスタニアの王族の方でございますかっ?」
「そうだ。キスタニア王国第3王子、ギルバート・キスタニアだ」
「儂、いえ私はこの先の村の村長をしておりまして、」
ん? 王子が何か妙な話に巻き込まれてる?
「凍君、この方たちが仲間、で良いんですね?」
「ん? ああ、そうだ」
「そうですか」
「凍、ちょっと女同士での話があるんだっ。時間潰しててもらって良いかな? 行こうか、花子ちゃん」
「どうせならオジサマに武器の整備をしてもらったらどうかしら? 行きましょう、花子さん」
「凍君、私もこの方たちとお話がしたいです。それはもう、ジックリと。行きましょう、焔さん、雷さん」
何だろう。3匹が途方もない殺気をぶつけ合ってる気がしてならない。と言うか焔の周りは若干陽炎出てるし、雷の周りは空気がピリピリと帯電してる気がするし、花子の周りは上昇気流みたいなのが発生してないか? 本当に話し合いで済むんだろうな?
花子たち蝶族は羽で全ての推力を得ているわけではなく、基本的には風を起こす能力で推力の大半を生んでいるっぽい。飛竜種なんかも同じだ。
さてさて、不安で胃がマッハになってきた俺はどうしようかね?
「コオル、聞きたいことがある」
王子? ああ、花子のことか。
「お前の新しい連れは、魔獣か?」
「ああ。俺を船から誘拐した蝶族の娘だ」
「何と言うか、お前と出会ってから私の常識が尽く壊れていくな」
「運が無かったんだろ。で、村の防衛でもするのか?」
「聞いていたのか?」
「いや、さっきの村長の村で暴れたの、多分俺だ」
「……投石器や石弓を壊して食料を奪ったのか?」
「食料は知らんが、投石器と石弓は俺だな。刀とか火薬の類も俺だ」
食料……心当たりがないな。
「事情説明はしてくれるんだろうな?」
「それは王子の態度次第だな。先に魔獣の領域を侵すのはいつだって人間だぜ?」
唸ってるな。それはそうか。普段は人化してるが俺たちは人間じゃない。本来なら敵対する関係だ。
正直王子の依頼なんて旅するための口実でしかないしな。
「どうにかして村人がジャングルに入らないようにするしかないのか」
別に入っても良いんだがな。ただ根絶やしにしようとするのは止めて欲しいだけだ。そんなことしたらジャングルは消えて無くなる。
「言うだけなら簡単だけどな。人間が何でジャングルに入りたがるのかも分からないし」
「安定的な食料の確保がしたいらしい」
「牛や豚でも育ててろ」
俺たち魔獣にそんな言い訳が通じると思うな。それで滅ぼされるなんてごめん被る。
「魔獣からしたら、侵略と変わらないのだろうな」
「当然だ。普通の魔獣は自分の領分から逸脱はしない。俺や黒スライムは別だが」
黒スライムは王都を攻め落とそうとしたり都を支配しようとしたり色々動いてるからな。流石に船で7日もかかる隣の大陸に来るのは難しいだろうが。
「……あれ以来王都の近くでアレが確認されたという報告は受けていない。仮に見つかっても充分に対処できるだけの対策はしたつもりだ」
「対策なんて人間基準だろ? 想定以上のことが起きるなんて自然界じゃ当たり前に話だぜ?」
「……そうか」
完壁だと思ったら、ソレが決定的なミスだろうな。
さて、焔たちのお話(?)も済んだみたいだし速くジャングルに戻ろう。
「帝都への護衛は撤回させてもらうぞ。魔獣の俺にも優先順位ってのがある」
「ああ、止めるつもりはない。それに帝都に行くには件の村を通る必要があるからな」
「ちなみに同行もしないぞ。ジャングルに住んでる魔獣と帰るから」
ショボーンされた。
王子のショボーンとか超レア!
暫く出番無いけど!
王子「待て! 私を置いて誰が主役を張ると言うのだ!」
凍「焔?」
焔「凍でしょ?」
雷「自覚のない主人公って嫌よね」
凍「何か俺悪者扱いじゃね?」
花子「凍くんは悪くありません!」
焔「そうだよっ! 悪いのは凍を苦労させる作者だよっ!」
サーセン