11話 旅立ちの朝はエピローグ
終わってみれば色々なことがあった都での生活だが1つ気になることが残っていた。王子とシスターのことだ。正直あの2人が話しているのを見たことがない。
「これは、面白そうね」
「こっそり覗かなきゃねっ」
良い性格してるよコイツら。
と言うわけで模擬戦が終わった後は王子を影から観察することにした。ついでにシスターの動向も探ってみた。熱血戦闘員との熱愛は如何に?
王子は模擬戦の後会議室に戻り、シスターはそこで待ち構えていた。
「久しいな、愚妹」
「そうだな、愚兄」
初っ端から飛ばしてるな。会議室には誰も居ないと思ってるからこその言い合いだろうけど甘い。壁に耳あり障子にメアリーだ。
何だ今のおかしなコトワザ?
「貴様が王都を去って早5年、貴様の話題すら聞かなくなったぞ」
「それは良かった。これで教会のシスターとして普通の生活がおくれる」
「自ら正体をバラしたと聞くが? 貴様に平穏は訪れんさ」
「それがどうした。王族かそうでないかなど些事だ。それはコオルたちと関わっていれば自然と分かるだろ」
「奴らは特殊だ。人間に頭を垂れるような、生易しい存在ではない。奴らのように全ての民が貴様に普通に接するなど無理な話だ」
「だが絶対ではない。私は既に普通に接することのできる友人を得た。この先どのような困難があろうとも、歩を止める必要は無いと知った」
「それが、城を脱した貴様が得た答えか?」
「そうだ。城から離れない愚兄には分からんだろう? そう言えば婚姻を結んだと聞いたが?」
「耳が速いな。だが貴様には関係の無いことだ」
「ふっ、恥ずかしいのか? らしくもないことだ」
「貴様こそ、教会の戦闘員に熱を上げていると聞いたぞ」
「なっ!」
「本当にコオルは面白い情報をくれたものだ。まさか鐵のヘンリエッタが1人の戦闘員に骨抜きになるなどな」
「黙れっ!」
いきなり修道服のスカートを巻き上げたシスターの足には剣帯が吊るしてあり、普通の剣ほどではないが充分に戦闘で使える長さの得物を抜き放った。
同時に王子も腰から細身の剣を抜き放つ。
瞬きの交差で互いの位置が反転する。
「ふんっ、腕は錆びてはいないようだな」
「愚兄もな。死ねば良いのに」
シスター黒いな。
しっかし、仲が悪いには悪いがライバルっぽい仲の悪さに見えるな。
「凍、ヘンリエッタは自分が認めた相手にしか感情的にならないよ?」
へ?
「あら、気付いてなかったの? 本当に駄目な子」
傷つくわ~
「民の平穏のため以外では死ねん。それよりも、私と話している時間があるのか?」
「祈りも掃除も終わらせた。今日の仕事はもうない」
「隠すな。本当は件の戦闘員と会いたいのだろう?」
「なっ、何を言っている!」
げっ、打ち合って鍔迫り合い始めたよ。
「良いから、素直に認めろ」
「貴様に指図される覚えは無い!」
「この分からず屋め!」
本気で斬り合い始めやがった。
「凍、帰ってゴロゴロしようよ~」
「これ以上見ていても面白くなさそうだわ。帰りましょう」
あ~、はいはい。そうですね。これ以上犬も食わない兄妹喧嘩なんて見てても疲れるだけだ。怪我したら勝手に医務室にでも行ってくれ。
王族兄妹の喧嘩なのか違うのか分からない言い合いを放置して宿に向かってフラフラ歩いているとちょっと変わった服屋を見つけた。
「新しい街に行くのなら気分転換に服も変えるのはどうかしら」
悪くないな。しかし帝都がどんな街並みか分からないから選びようがないな。
「船で1週間くらいかかるって言ってたもんねっ。どうせなら船用の服なんてどうかなっ」
「良いわね。お代は王子持ちにさせれば良いわ」
鬼だな。王子が完璧に金ヅル扱いだ。
「どんなのが良いかしら」
「う~ん、水兵さんみたいなのはどうかなっ?」
「勘違いされると面倒だぞ」
「そうよね。残念だけど水兵の服は無理だわ」
「そっか~……あっ、これはっ?」
焔が店先に並べてあったものから選んだのはメイド服だった。
……何故メイド?
「王都で見たメイドさんたちの服、ずっと着てみたかったんだよっ。誰かに仕える服って感じがしてっ」
「焔は凍に尽くしたいんだものね。妥当な選択じゃないかしら」
「あ、雷っ。そんなにハッキリ言わないでよ~」
「今更恥ずかしがられても反応に困るんだが?」
まさか照れるとは思わなかった。普段の言動がアレだから気にしないものだと思ってたぞ。
「焔は当面メイド服ね。意外とスカート短いのね」
「あ、本当だ。でも王都で見た服は結構長かったよ?」
「どちらが良いか凍に聞いてみたらどうかしら?」
「そうだねっ。凍、どっちが良いかな?」
ここで俺に聞くのかよっ。でも焔のフワッとした紅毛にメイド服似合うのか?
「あなた今、焔にメイド服似合うのか? と思ったわね」
何故分かった!?
「えっ、私、メイド服、似合わないの、かな?」
「に、似合うっ! 似合うけどその短いのは止めてくれと思っただけだ!」
「え? どうして?」
「……焔には露出の高い服より清純な服が似合うと思ったからだ」
「そっ、そんな風に言われたらスカートの長いメイド服しか選べないよっ」
顔赤くしていそいそと普通のメイド服探し始めたな。しかしさっきの俺に台詞……自分で言っといてなんだが歯が浮く。
「上手く躱したわね。あのままにしていたら焔、泣いてたわよ」
「お前が妙なこと言わなければ良かっただろうが。で、お前はどんな服にするんだ?」
「ちょっと悩んでいるわ。胸のサイズに合う服が中々無いのよ。着れなくはないのだけど苦しいのよね」
「焔には言うなよ?」
「ええ。焔も決して小さくはないのだけれど、私と比べるとどうしても、ね」
やっぱり気にしてるんだな。
「あら、これなら着れそうね」
ん、どんなのに……チアガール?
「胸元がかなりゆったりしてるし私でも着れそうね。良かったわ、私だけ同じ服じゃ仲間外れみたいで嫌だったのよ」
「やっぱお前痴女」
「焔、凍がメイド服似合ってないって、」
「雷チア服似合ってる! もうそれで良いんじゃないかっ? 俺もいい加減自分の服選んでくるな! じゃっ」
もうさっさと服を決めてしまおう。焔はある程度俺と同じ服にしたがるだろうから今回はちょっと固めの服にしないとな。スーツ1歩手前くらいのだな。
「凍っ、もう決めた?」
「お、スカート長いメイド服は見つかったんだな。まだ決めてないが、ちょっと固めのにしようかと思ってる」
「ふふふっ、そう言うと思って選んでおいたよっ。じゃん!」
ふむふむ、黒いズボンに白いシャツ、細いネクタイにダブルスーツの中だけのヤツ……ディーラー服?
「焔、この服って」
「うんっ、あっちにあったよ!」
見てみると、他にも色違いだったり女性用だったりのディーラー服が並べてある1角があった。
マジでディーラー服売ってるのかよこの店はっ!
「まあ、丁度良いか。俺はそれにしておく」
「ホントッ? 良かった~」
「あら、結局焔に選んでもらったのね」
「あ、雷も選んだんだっ」
「ええ、ちょっと思う所があってこれにしたわ」
雷はさっきのチア服、ではなくスカートが短く胸元が開いたピンクのメイド服を持っていた。
……何故そのチョイス? てか痴女街道まっしぐらだよな? もしかして俺に言われたことで開き直った? それで色物メイド服選ぶなんてどんだけ天邪鬼なんだよっ!
「さ、服も決まったことだし帰りましょう?」
釈然としなかったが、旅の準備が終わったので良しとすることにした俺だった。
これにて都編は終了です
次の章まではまた数日は空くと思います
次章、予告っ!
目指すリストカット帝国は海の先、凍はそこで自分の過去に向き合うことになる?
焔「凍、そのメス、誰かな? かな?」
凍「ま、待て焔っ! 誤解だっ!」
ついにあいつが姿を現す? 本当のヒロインの座を奪うためっ、1番目の女と2番目の女は激しい凍略奪戦を……
凍「待てこら、こんな話にはならねえだろうがっ!」
作者「でも1番目の女は本当だけど?」
凍「え?」
雷「あら」
焔「1番目……」
凍「焔!? 作者っ、焔止めろっ! 虚ろな目で法剣抜いてどっか行っちまったぞ!」
作者「ヤンデレの止め方なんて知らないから無理」
雷「簡単よ。あなたが抱きしめれば良いだけよ」
凍「無理に決まってんだろっ!」
作者「次章もヨロシクおねがいしますm(__)m」