14話 義手
やっと霊帝にも義手が付きます
霊帝「本当にやっとだね。これでボクも真の姿になれるね!」
凍「基本的に変態しか居ない帝都でまともな開発者が出てくるのだろうか?」
焔「え、最初から期待してないでしょ?」
雷「最初から期待できないなんて、いつものことじゃない」
花子「それがいつものことな時点で色々間違っていますよ」
本当にね
では本編~
さてやっと大会も終わって4日が経った。霊帝は未だに帝都を出ていない。義手が完成しないと野生で生きていくのは難しいからな。その後も義手の整備とかで人間の技術者が必要だから霊帝はかなり長い間帝都を出れないはずだ。
実際、霊帝は未だに水龍に合いに行ったり焔と遊んだりしている。そろそろ義手の試作品が完成するみたいでテンションが高い。それを隠そうとしているが、全く隠せていない。これで義手が微妙だったら目も当てられない。
そして、実は今日が義手を試す日らしい。侍たちの噂話を聞くと結構注文が多かったみたいだ。軽くて、思うように動いて、魔獣の姿に成ったら翼になる……なんて無謀な。てか侍たちは霊帝が霊竜だって知ってんのかよ。
帝都には魔都から再三にわたって手紙が来ており内容は全て同じだが、向こうが求める霊帝辞任までの日数だけがカウントダウンのように減っていき残りは3日だ。ちなみに帝都のお偉方は満場一致で無視を決め込み侍たちに戦争の準備をさせている。
帝都民は霊帝が霊竜だとは知らないが魔都が霊帝の辞任を求めることには反発している。辞任を求める理由は国家機密で伏せられているのに霊帝を指示する国民の方が圧倒的に多い。90%が指示で9%が保留という異常な支持率の高さは見ていて宗教っぽい。
そんな少数派たる保留派の筆頭である医者が開発した全く新しい義手を試す時が来た。朝から落ち着かない霊帝が『ちょっと仕事が多いから今日は会えない』なんて有り得ねえ真面目発言しやがった。
「大丈夫かしらね?」
「どうだろうな」
いつも通り余裕の態度を取ろうとしているが不安が隠しきれていない雷は珍しい。焔は最初から不安なのを隠すこともせず家の中をウロウロしたり俺の髪を弄ったりしている。花子も落ち着かない様子で気を紛らわせるために何か甘い匂いのする料理している。
「そんなに心配なら見に行くか? そっちの方が早い」
「そうしようっ」
「行きますっ」
「決断早いわね」
ちなみに霊帝が今日は会えないと言ってから3分経ったくらいです。堪え性無くてすいませんね。
家を出て霊帝の居る本殿に向かう。見張りの侍たちにも緊張が見れる。でも何も気にして無いような侍も居る。きっと霊帝が霊竜だと知らない奴らなんだろうな。多分普通に義手を試すだけだと思っているんだろう。その義手が魔獣の姿でも適用されるものだなんて思ってないだろうな。
1番新しい霊帝の匂いを探して屋敷の中を歩き回るとやっと見つけた。中からは微妙に霊帝の声と聞いたことの無い男の声がする。多分医者が霊帝に義手の説明をしているんだと思う。見張りの侍たちも居るが俺たちに礼して何も言ってこないってことは通って良いってことなんだろうな。
襖越しに霊帝を読んでみよう。
「霊帝、入って良いか?」
「ああ、やっぱり来たんだね。入ると良いよ」
落ち着きの無い嫁たちを連れて襖を潜ると畳部屋なのにデスクと椅子というミスマッチな部屋だった。デスクの横に椅子が2つ並んでいて霊帝と医者らしき男が座っている。部屋には侍が3人ほど控えているが身分は霊士だろうな。
そして肝心の霊帝の左腕だが、ちょっと面白いことになっている。
「銀色っ!!」
「オリハルコンかしら?」
「女の子の腕をなんてゴツイものにしてくれてるんですか!!」
「何で私が怒られねばならんのだ!?」
霊帝の無くなった左腕には新しく水銀みたいな腕が生えている。腕のサイズは右腕と同じだが、肩の付け根には魔石がある。魔石自体が肩と腕を繋いでいるみたいだ。
30歳後半くらい医者は花子に怒られたのが非常に不満なようで眉間に皺が寄っている。何より驚いたのが医者は嫁たちを見ても鼻を鳴らして無反応だ。人間で嫁たちに無反応なのは始めて見たから新鮮だ。魔獣でなら水龍とかが無反応だった。ゴブリンの王様は怯えてた。
霊帝は義手を見てから出来栄えを確かめるように手を握ったり振ったりしている。表情を見る限りだとそんなに大きな違和感は無いようだ。医者スゲー。
「はぁ、まあ良い。一応霊帝様の御要望通り魔石を使って自分の体の情報からオリハルコンが自動で形作るように調整しましたが、こんな試みは初めてですのでこれで完成というわけにはいきません。これから様々なデータを集めて調整を施しますので下手な使い方はしないでください。3日に1度の検診で微調整しますので細目に時間を作っていただきます。それから風呂に入る時は絶対に外してください。お湯を集めちゃいます。そもそも魔石に何かを触れさせやいように気を付けてください。ある程度の調整ができましたら魔石が他の物に触れないようにカバーを作ります。それから」
何か長いからカット。焔は霊帝が腕に満足そうにしているが嬉しいのか霊帝の左腕を突いたり撫でたり霊帝の頭を撫でたり髪で遊んだりしている。侍たちは微笑ましそうに見ているが、警護の者としてはどうかと思う。
「次に兵装ですが武器に付いた魔石に触れると取り込んで左腕を変化させます」
「……そんな機能は頼んでないよね?」
「何を言ってるんですか。新開発の義手に戦う機能を組み込むのは常識でしょう」
「そんな常識聞いたことないよ!?」
「なあなあ、それ銃の腕とかできんの?」
「ええ可能ですよ。例えば、はいこれ」
そう言って霊帝の左手に自前らしき銃を渡し魔石に触れさせると左腕の形が変わり、肘から先が銃になった。
思わず医者と固い握手を交わしてしまった。この医者分かってやがる。
「君は分かっている側のようですね」
「いやいや、俺はあんたみたいに作ることはできねえよ」
「理解できるだけでも充分です。この手の常識を弁えない者が多すぎてウンザリしていたのですよ」
「そうか。お互いに苦労するな」
「ええ、全くです」
医者と一緒に満足感に浸りながら笑い合ったが、周りの目は非常に痛い。何が不満だと言うんだ。
「凍君、レイちゃんは女の子ですよ?」
「そうだな」
「女の子は可愛いものが好きなんだよっ」
「そうなのか?」
「だから武器も可愛くないと駄目なのよ」
「そう言う問題か?」
「可愛いじゃないですかこの変幻自在さ!」
「ボクは求めてないよ!」
「医者! これはカッコイイっていうんだ!」
「何を言うんですか! 煌めくオリハルコンのボディ! どんな状況にも対応できる万能さ! 誰でも使えるお手軽さ! そして何よりも、まだまだ発展の余地がある新技術!! この可愛らしさ、いじらしさが分かりませんか!!??」
「「「「分かんねえよ!!」」」」
3人の侍たちと一緒にツッコミを入れてしまった。いやだってあれは可愛いじゃねえだろ。ちなみに侍たちはカッコイイには同意してくれたが霊帝の腕に付けるのはどうかと思っているみたいだ。くっ、どうせなら俺が欲しくらいだ!
医者と睨みあいを数秒繰り広げたが、互いに互いの領分を犯すことはしないと目で確認し合い息を吐いた。しかしこいつ、職人だな。
「霊帝、義手はどうだ?」
「かなり良いね。さて、じゃあ色々と試していこうか」
「確か霊竜に変態できるんでしたっけ。帝都の歴史は霊竜の歴史だと聞きましたが、建国から霊竜がトップだったなんて驚きです」
「ボクはさっさと帝都から出たいんだけどね」
「霊帝様っ!?」
いや~、帝都で起こった事件がほとんどで霊帝の仕組んだことだって知ったらどんな顔するんだろうな。帝都民にもそれなりに被害者出てるし。まあ、最初の事件に使われた施設は粛清された政治家たちが作ったものだから霊帝が犯人だと気付く連中は居ないだろうな。居ても方法が分からないから結局お流れになると思うし。
さて、時間はお昼前だ。とりあえず、霊帝は飯を食う練習でもするか?
と言うわけで昼飯を食べるために霊帝の部屋に移動した。板前は義手の取り付け時間を考えていつもより遅めに昼食を完成させたようだ。俺たちが部屋に戻って1分くらいで飯が運ばれてきた。
「左手で器を持って、右手で箸を……」
何か悩んでいる霊帝を焔が横で上機嫌に笑っている。まだ義手を付けて1時間も経っていないから慣れてないだけで少ししたら上手く使えそうだ。
何とか初めての義手で食事を終えて疲れ切って焔に寄り掛かっていた霊帝だが、急に起き上がると何か困り出した。魔石を見て困っているところを見ると、さっき医者に言われた魔石を何かに触れさせるなってのを気にしてるのか? なら外せ。きっと水龍の所にでも行く気なんだろ。
行くのは良いが俺は行きたくない。だって水龍は変態だし湖は変態が増えるし何も良いことねえよ。
と言うわけで、霊帝のことは放っておいて俺はギルドで適当に街中での探し物を仕事を済ませて後は休んだ。
義手が完成しました!
これでようやく戦争に入れる
今までが戦争やるやる詐欺だった分ちゃんと戦争っぽい展開になります
凍「本当に戦争編と言う割に戦闘シーンも最初の方だけだったよな」
雷「でもこの手の最終章って全員集合的なことになるんじゃないのかしら?」
焔「え~と、ハワイアン民主国も花子の家族も獣人の村の人たちも出てないよねっ」
花子「あとキスタニアの王子も名前だけですよね?」
気にしてはいけない
では、次回~