11話 開幕
戦争が始まりそうで始まらない、そんな戦争を冷戦と言って良いものでしょうか?
凍「歴史科目苦手なのが丸分かりだぞ、さっさと本編入れ」
主人公もこう言ってますし、大会の開催です!
さて、帝都で開かれる水ゴーレムによるバトルロワイヤル、その開始時刻まで残り5分というところで帝都中に放送が響き渡った。実は30分前にもあったんだがな。参加者は今日1日水ゴーレムを持つ者。街中を歩く侍がゴーレム持ちを見つけては水に1度負けたら復活しないように特殊な妨害魔石を入れて行った。だから水ゴーレムには魔石が2つ入っている状態だ。俺のゴーレムも実体化させてみたら魔石が2つだった。面白かった。
新しい魔石は透明で綺麗な色をしている。何でも帝都の科学者が色抜きをしたのだという。科学ってスゲー。
焔も霊帝も透明な魔石を見て楽しんでいるようで開始5分前だろうと関係無くゴーレムを実体化させて楽しんでいる。ゴーレムどうしがダンスして遊んでいるのは用途を間違えている気がしてならない。
「そろそろ始まるわね」
「細かいルールの説明、始まったな」
帝都に響く拡声器、と言う名のただの筒によって増幅された変態淑女の声。非常にテンションが高いが、奴はどこに居るんだ?
『ルールは簡単、魔石が2つ入っているゴーレムを倒して、倒して、倒しまくってね!! 優勝賞品は倒した人誰か1人を大会終了後に自由にできる!! 2つある魔石の内、片方が壊れている人はもうゴーレムを実体化でないから生き残っているふりして戦おうとしても無駄よ!! それでは、ゴーレムファイト、レディイイイイイイイイイイイイイイッ、ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
「おおおおおおおおおおっ!!」
「絶対にナナには負けないからな!!」
「ふふっ、どんな大会になるのかしら」
「何でしょう、寒気がしました」
いや、そもそも俺は変態淑女の掛け声が危な過ぎて怖いよ。何であんなギリギリな掛け声なんだよ。
しかし、ゴーレムによる大会だと聞いてから不思議だったんだが変態淑女はどんな勝算があってこんな大会を開いたんだ?
勝算が無いのにこんな自信満々に大会を開くとは思えない。普通に考えて何か勝算があってのことだと思う。無いのならば相当な馬鹿だ。
ともかく、焔たちと別れて俺は帝都の街の中に溶け込むことにした。いや、早速俺と勝負しようとゴーレムを実体化されそうになったけど逃げたんだよ。
ちなみに、俺たちは負けて誰かに指名されても従う気は無い。その時はさっさと帝都から逃げ出してハワイアン民主国で遊ぶつもりだ。
煉瓦造りの3階建て、ちょっと丸みのある家の屋上から帝都を見下ろしてみるとそこかしこでゴーレム同士が戦っている。驚くのは男ばかりかと思ったが意外と女も参加しているようで、ゴーレムに棒などを持たせて戦うことだ。何か男よりも凶暴な気がしてならない。
「キタッ! 俺が優勝したらその胸を描かせてもらう!」
「私が優勝したらBLのデッサンに使わせてもらうわ!」
どっちもただの変態だった。うん、お前らもう付き合っちゃえよ。
何か見覚えがあると思ったら帝都の学校の研究会の連中だ。確か『オッパイ研究会』と『BL研究会』だったか。よく設立が許可されたものだ。
他の場所では『晩飯毎晩カレーが良い!』と言う息子VS『家の手伝い毎日しな!』と言う母親との熱き攻防が繰り広げられている。
ちなみに、『時間だ。答えを聞こう』と言った男が対戦相手の女に『これが答えだ馬鹿野郎!』と綺麗なストレートパンチをくらって敗北していた。あ、ゴーレムと男の両方がノックアウトされてるぞ。女強い。
その横の通りではババアが『グヘヘヘヘ、良い体してるじゃないのさ』と10歳にも満たない少年に戦いを挑んでいた。犯罪にしか見えないが、一応は国が認めた対戦です。
そして、俺は恐ろしいものを発見してしまった。
「うへあははははっ! 美少女祭りよ美少女祭り!!」
目をギラギラ輝かせ白衣を纏った幼女。言うまでも無く変態淑女、というか変態幼女、いや、変態だ。魔石の色は桃色のようで、可愛らしい少女から綺麗なお姉さんまで見境無く攻撃を仕掛けている。今回のルールでは大戦中に乱入されることについて何も触れてない。それを良いことに変態は対戦中でダメージの蓄積されたゴーレムを強襲し確実に屠って行く。あまりにも鮮やかな手並みに惚れ惚れしてしまうくらいだ。その背後から数人の侍が奇襲をかけようとしているが帝宅のメイドたちが妨害している。どうやら同盟を組んでいるようだ。
むっ、この匂いは!?
「凍、見つけたよっ」
俺の背後、屋上の反対側に何やら香炉のような物を持った焔が立っている。既に実体化されたゴーレムが焔の肩の上から飛び降りた。
「雷と花子は置いてきたのか?」
「後で敵になるんだから分かれてきちゃったっ。凍を倒したら確実に狩るよっ」
「おっかねえな。その香炉は匂いを誤魔化すためか?」
「うんっ。凍と戦うなら確実に近付かないとねっ。1度捕捉されたら、逃げられないでしょ?」
よくお分かりで。焔は並みの炎狼ではない。氷狼の速さを持っていると思っても良い。
覚悟を決めた俺は魔石を右手に持ち、左手の水筒から水を掛ける。俺の手から零れ落ちようとした水は見える速さで形を整え、俺の掌に収まらないサイズの人型として実体化し、屋上の床に着地した。
「凍と本気で戦うなんて、久しぶりだねっ」
「俺はお前に捕食されるんじゃないかって怖かったよ」
「私は凍が逃げちゃうのが悲しかったよ?」
お互いに相手に色々な意味で恐怖を抱いていたのは同じだ。だが恐怖の種類がかなり違う。それでも、俺たちは今は番だ。
だからこそ、ここで負けるわけにはいかない。焔が俺を自由にできるなんて状況になったら何を言いだすか分からない。怖くて想像したくない。
「えへへっ、ゴー!」
「迎え撃て!」
焔の赤ゴーレムが俺の青ゴーレムに迫る。
正面から突進してきた赤の拳を青が躱し、クロスカウンターの要領で顔面に拳を打つ。しかし、最初から赤は力を込めていなかったようで拳を避けられて直ぐに体勢を立て直しカウンターを首を横に曲げることで躱した。その際に踏み込んだ青と赤は正面からぶつかり双方とも後ろに後ずさる。
「初撃は緩く、か?」
「凍なら後のことを考えてカウンターで来ると思ったよっ」
くっ、流石に俺のことを良く理解している。ここでダメージを喰らい過ぎると回復が間に合わなくて次の戦闘に支障が出る。そう考えると無理はできない。
「大丈夫、凍は私が倒してあげるっ。その後私が他の参加者を屠って、優勝して、凍を守ってあげる。ねえ、何をしようか? 一緒にご飯? 雷と花子が居ない2匹っきりっていうのも良いよねっ。ねえ、どうしようか?」
息も荒く顔を紅潮させて両手で自分の頬を抑える様は、何と言うか久々にどこか理性のタガが外れた笑みだな。最近は無かった色ボケヤンデレはちょっと新鮮にも感じる。
「甘いわよ、焔!」
そう言って俺の右側、焔の左側から飛び移って来たのは雷、既に黄色ゴーレムを実体化させ着地と同時に地面に立たせた。
「私だって色々と楽しみにしているのよ。どこに行こうか、何をしようか、本当に夢が膨らむわ。凍の屈辱に満ちた睨み目を想像するだけでゾクゾクする、泣いて止めてと懇願するなんて考えるだけで達しそうだわ」
いや、そんなSな笑顔で言われても全然嬉しくねえから。何が悲しくてSMプレイ推奨の変態に負けなきゃなんねえんだよ。自分を抱きしめて顔赤くすんの止めてくれ。
「私だけ仲間はずれですか?」
ああ、花子も来てしまった。雷と反対な。
これで4匹がこの場に揃った。焔、雷、花子の狙いは俺だが、俺の目的はコイツらから逃げ切って尚且つ俺たちに関係無い人間が関係無く優勝景品を使うことだ。
「凍君と帝都でデートしたいですっ。一緒に服を選んだり、ご飯を食べに行ったり、誰も居ないホテルに行ったり、2匹だけで甘い夜を過ごしたいです! いつもいつも焔や雷に負けていられません! 今日こそは私が凍君を落としてみせます!」
そう人差し指で俺を指した。焔と雷に比べると真っ当な考え方で安心した。少しだけ花子に負けるのが1番平和な気がしたが、良く考えたら最近の花子は焔と同類な部分があるから結局負けるのは危険だと思う。
いや、別に3匹と色々するのは良いんだよ。でも平等じゃないってのが俺の中で引っ掛かってるんだよな。
「くっ、見つかったか!」
「霊帝様発見ペロペロペロペロペロペロぺロおおおおおおおおおおおおお!!」
建物の下から色々と人間性を疑う発言が聞こえてきた。嫁たちが互いを牽制し合ってくれているのを見計らってチラッと下を覗いてみると霊帝が変態にゴーレムファイトを挑まれていた。霊帝が押されているようだ。それにしても、変態は異常に指示の回数が少なく感じる。かなりの行動をゴーレムに任せているようだが、指示無しであんなに優秀な動きをするものだっただろうか? もしかして魔石に何か細工でもしてあるのか?
「じゃあそれで行こう!」
「そうね。それが良いわ」
「やっぱり皆で楽しまないとですよねっ」
……え、何の話?
「凍、あなたにはここで果ててもらうわ。理由は分かっているわね?」
「凍にあんなことやこんなことっ」
「これも運命です。諦めてください」
だから何の話!?
「今からあなたは3対1、私たちの誰が優勝しても最終的に全員で拘束した凍で楽しむことにしたわ」
「流石雷さん、分かりやすい報告ありがとう」
「雷だけ褒められたっ!?」
「まとめ役って得ですよね」
こいつら、まさか最終的に俺を玩具にすることで合意しやがるとは思わなかった。今回ばかりは、終わったかもしれん。
凍終了のお知らせ
凍「いやいやいやいや、何で最後の最後であいつら結託してんだよ!?」
雷は快楽主義者だし、花子は調和を大事にしますし、焔は仲が良ければ何でも良しなので
凍「もうちょっと独占欲見せて!!」
だが断る……独占欲は無いわけでは無いような?
では、次回~




