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9話 水龍

バレンタインでした


凍「他の作者さんたちはバレンタイン企画の話とかやってるぞ。ウチは?」


ウチはウチ、余所は余所です

てか君はリア獣でしょうが


凍「最近嫁たちが苛めるんだ」


……傍から見たらイチャついてるようにしか見えん


凍「まあ良い。今回は水龍か」


はい。彼には色々とバレンタインな話となっています

では本編~


凍「……何だ?」

霊帝はその日は自分の部屋に戻らないで俺たちの宿に泊まった。まあ帝宅の家は全部霊帝の物だからどこで寝ようがあいつの自由だよな。

順番は霊帝を焔と花子が挟み、焔の隣に俺と雷が続いている。布団は3枚を横に並べているが使っているのは実質2枚だけだ。最初は焔と花子と色々話したいこともあるし夜更かしをするんだと子供っぽく意気込んでいたが、2匹に抱き締められるように挟まれていると昼間の疲れもあってか直ぐに寝てしまった。


「可愛いねっ」

「遊び疲れちゃったのかもしれませんね」


焔も花子も寝てしまった霊帝を起こさないように小声だ。それにしても、小さい妹を可愛がる姉にしか見えない。花子が腕枕をしてあげてる辺りも姉のイメージを高めている。焔は頭を撫でてあげている。霊帝は魔獣としては有り得ないくらい気の緩んだ顔で寝ている。

……こいつ野生で生きて行けるのだろうか?


何事も無く翌朝を迎えた。

今日の予定はまずギルドへ行く。それで水龍の湖近くで魔石を回収する依頼でも受けてから湖に行く予定だ。霊帝も付いてくると言う。まあ水龍が俺の話を聞くとも思えないから丁度良い。最悪の場合は盾にするさ。


「凍、君は何か酷いことを考えてないかい?」

「まさか」

「はっ、レイちゃんを盾にしようだなんていくら凍でも酷過ぎるよ! でもその自分勝手さが良い!!」

「本当なのかい凍!? スイの攻撃なんて受けたらボクは塵も残らないよ!! そしてそれが良いって焔の趣味が本当に分からない!!」

「大丈夫よ、私たちも分からないから」

「はい。焔の趣味は不思議です」

「君らも凍のつがいじゃないかよう!!」

「何で番になったのだったかしら?」

「勢いって大事ですよね」

「ちょっと待て! 勢いで番になったのかよ!?」

「メスなんてそんなものよ」

「愛してますよ凍君」

「何か釈然としねえ」


てか花子さん棒読みだったんですが……そして雷はオスの夢を壊さないでくれ。

こんなこと言われたら俺、もうメスを信用できなくなっちまうよ。


「ボクは君が信用できないけどね」

「私は凍を信用してるよっ!」


何だろう、対照的な台詞に俺の心が傷ついてんだか癒されたんだがさっぱり分からない。

ギルドには都合良く湖近くの森で魔石を6個拾って来いって依頼があったから受けて行く。魔石の研究が盛んな帝都では魔石を拾って来いって依頼が非常に多い。別に水龍の湖の近くでなくてもいくらでも魔石回収の依頼はあったし、単純に魔石を持って来いって依頼も結構あった。

霊帝は俺たちと一緒ということもあって簡単に帝都を出れた。天使様と一緒に遊びに行くのを見送る、みたいな表情だった。子供を見送る親の目ってやつだ。

帝都を出て少し行くと森がある。入って直ぐに魔石の匂いがあるかを探す。こう、獣臭い石の匂いが魔石の匂いだ。特に狼とか猿とかの魔石はよく分かる。逆に昆虫の匂いはあんまり正確に嗅ぎ取れない。

森の中を匂いを頼りに進むと狼が巣にしている木の穴を見つけた。穴に向けて魔石があったらくれと言ったら子供が快く巣の奥にあった魔石をくわえて持ってきてくれた。親はオドオドと奥で困っていたが子供は嬉しそうに尻尾を振っていた。頭から顎にかけてを撫でてやると嬉しそうにゴロゴロ鳴いて可愛かった。

指定された数は手に入ったので水龍の湖に向かう。

うん、もう近付くだけで酷く怒っている気配が伝わってくる。前にやっちゃったこと本気で怒っているみたいだ。

しかし黒スライムのことを話さなければならないのは変わらない。意を決して湖の前まで行くと中心で異常に気泡がボコボコしている。そこから濃密な怒った気配が漂ってくる。


「凍、悪いことは言わないから土下座しておきなさい。辛うじて肉片くらいは残るかもしれないわ」

「色々と水龍さんに迷惑をかけちゃったみたいですし、仕方ないと思います」

「ああ、そう言えばスイに妙な匂いが付いてたのは凍のせいだったね」

「いや、その、あれには訳があってだな?」


【ほう、訳があれば何をしても良いわけだな?】


3匹のチクチクした責めに言い訳していると、背後から声がした。いや、湖に背中向けちまってたんだよ。

その声は凄い怒気を孕んだ重く低い声だった。腹の底に響くような恨みの言葉に恐怖でガタガタ震えながら振り返ると、湖の上に今にも襲い掛かってきそうな水龍が浮いていた。目は怒りで爛々と輝き怒りを抑えているのか口の端からちょっと溶けた魔石が垂れている。怒りで体内の魔石が口から逆流し始めているようだ。


「あ~、その、この間は済まなかった」

【素直に謝罪するか。そうだな、自分の非を認められるのは素晴らしいことだ。その責任を取る覚悟もちゃんとあるのだろうなぁ?】

「いや、えっと、どうしたら良いでしょうかねえ?」

【なぁに、少し体の半分を噛み千切らせてくれればそれで良い。それで終わりだ】


ちょっと待てそれは死ぬ!!


「凍、ボクの邪魔をしたりスイに妙な匂いを付けたりした罰だ。潔く受けろ」

「死んじまうよ!!」

「凍が死んじゃうのは駄目っ!!」

「未亡人は嫌です!!」

「……でも、仕方が無いような気もするわ」

「勘弁してくれ!!」


ちょっと、雷はどっちの味方だよ!? 何でつがいが死んじゃうことを容認してんだよ!? 俺はまだ生きていたいぞ!? 子供も残してないのに死ねるか! 子供作ったら死んでも良いってわけでもないけども!! そして花子は俺のこと心配してるのか謎だなおい!! 唯一ちゃんと心配してくれるのが焔だけってどゆこと!?


【で、貴様何しに来た。よくもまあ吾輩の前に出て来れたものだな。面の皮の厚さは生物一ではないか?】

「いや、ホントその件ではご迷惑おかけしました」

【本当にな。貴様のせいで大変だったのだぞ。レイに怒られるし肩を外されそうになるし魚たちは匂いに怯えて吾輩の周囲20メートルでは過呼吸になるし!!】


魚に過呼吸ってあるのか?


【まあ、レイの嫉妬深い一面や可愛らしい怒り顔が見えたから、少しは許してやらんことも無いでもない】


やっぱロリコンだったか。


「なあ、どうしたら吾輩は貴様を許せると思う?」


何故か人化した水龍がスッゲー握力でギリギリと俺の肩を握って耳元で囁く。

黒いような明るい青のような不思議な色合いの長い髪は濡れたような艶を持っている。身長190センチは超えてる上に目は切れ長でかなり威圧感がある。着物は髪の色に似て黒いような明るいような青色だが、鱗のような模様があしらわれている。


「どうだ、この着物は? レイが選んでくれたのだ」


あ、自慢したいのな……これはチャンスか?


「そうか。凄く似合っているぞ。霊帝と並んだらお似合いの組み合わせだろうな」

「ほほう、貴様のような奴でもこの良さが分かるか?」

「ああ、ここまで似合っていると少し怖いくらいだ」


チキンプレイ、チキンプレイを心掛けるんだ! 古今東西調子に乗って褒め過ぎて墓穴を掘った馬鹿は事欠かない! ここは少しずつ水龍のボーダーラインを探るんだ!


「ふっ、似合いすぎて怖いとは貴様も上手いことを言うではないか」

「……凍は保身に走っているのか?」

「保身に走る凍はちょっと凄いわよ」

「私から逃げる凍は素早かったなぁ」

「凍君は同年代の中では色々と優秀なんですよね」


色々って言うな。何か含みがあるだろう。

そして言わせてくれ。焔は炎狼としては規格外に早かったよ、俺を追う時は。


「まあ良い、吾輩は気分が良いし、心も広いから許してやろう」


ああ、確信した。水龍は脳筋でロリコンだ。

何となく霊帝の背中を押して水龍の足元に移動させると水龍が胡坐をかいて座り、霊帝はその膝の上に乗って俺たちの方を向いた。後ろから水龍が緩く手を回している。霊帝からした濃密な水龍の匂いの理由が分かった気がする。

俺たちも倣って水龍から放射状に並んで座った。俺の両隣りに焔と花子で焔の隣が雷だ。


「で、何用でここに来た?」

「話が早くて助かる。実は向こうの大陸で問題が起きて、霊帝がそれに巻き込まれるかもしれない」

「そこに直れこの疫病神が!!」

「変わり身速いなオイ!?」


俺の言葉を聞いた瞬間に優しく、しかし素早く霊帝を膝から降ろした水龍が立ち上がって俺に水を纏った手刀を向けた。誰も反応できないような超スピードに速さ専門の俺はギリギリ反応してバックステップ。隣には焔……はい?


「……炎狼とはそんなに速く動けるものだっただろうか?」

「いや、コイツは特殊」

「凍!?」

「そうか」

「納得されちゃった!?」


いや、普通は無理だって。水龍に降ろされた霊帝も雷も花子も誰も気付いてすらいないぞ?


というわけで、水龍に復讐の機会をプレゼントしました

ついでに霊帝から着物をプレゼントされています


凍「お前は何でいつも俺に危険をプレゼントするんだよ!!」


リア獣など爆発してしまえば良いのです


凍「書いてんのはお前だあああああああああああああああ!!」


では、次回~

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