8話 試合
最終章らしくシリアスなサブタイですが、中身はいつも通りです
凍「本当に戦争の話に繋がるのか?」
大丈夫、裏でちゃんと進行しています
君の一人称だと分かりづらいけど進んでます
雷「この作者に分かりやすさを求めても、ねえ?」
花子「コメディは乗りと勢いで解決してますからねぇ」
大丈夫、ちゃんと全部伏線になってるはずだから!
では、本編どうぞ~
さて、焔VS霊帝の水ゴーレム戦は面白いことになっている。
銀のゴーレムが巧みに位置を変えながら赤いゴーレムを叩こうとするのに焔はゴーレムに床を攻撃するように指示して無理矢理水状に変形させて回避している。中々嫌な戦法だ。
面倒なので霊帝のゴーレムを銀、焔のゴーレムを赤と呼称する。
霊帝が銀にパンチの指示をする瞬間に焔が赤に床を殴らせるように指示を出す。相手に近付いて殴らないといけない銀に対して床に拳を振り下ろせば良いだけの赤の方が動作が速いようで先に水状に変形して銀のパンチが空を切る。
「どんな戦い方だよ!?」
「凍が注目してたんだから当然だよ!」
あ、俺がさっき見てた子供たちのこと覚えてたのな。
ゴーレムが元の姿に戻ると同時に赤が銀に向けて拳を振るうが霊帝は経験者らしくヒットアンドアウェイで距離を取っている。ゴーレムは思っていた以上に動けるようで銀はズングリとした見た目とは裏腹に俊敏に下がっていった。
「もうっ、凍に良いところ見せたいのにっ」
「経験者が簡単に負けるわけにはいかないんだよ!」
銀はバックステップから一気に赤と距離を詰めて殴りかかる。流石に未経験者の焔の指示が間に合うことは無く赤は殴られて床に後頭部から倒れた。体を横に回転させながら距離を離して起き上がるように指示した焔だが、起き上がった赤を見て少し違和感を覚えた。
「あれ? ゴーレムが光ってる?」
「ダメージが溜まると魔石が光るんだ。その光が最大になると戦闘不能で水がボールになるよ」
ああ、床とかを濡らさない配慮か。
「ダメージが大きいのは人間の体のダメージが入りやすい場所と同じだよ。後頭部とか鳩尾とかだね」
「どうせなら狼型のゴーレムとか欲しいよな」
「あ、そのアイディア貰うよ。次の新商品にしよう」
人間に狼とかの動きを再現できるのだろうか?
銀は起き上がった赤に追撃を仕掛けるが赤はひたすらステップで避けていて中々当たらない。時間稼ぎだけかと思ったが、銀のパンチを避けた時に焔の狙いが分かった。
銀は赤の背後にある机の柱を殴ってしまい水状になる。そして直った瞬間を狙って足払いを仕掛け、銀にアイアンクローをしながら後頭部から床に叩き付けた。床に叩き付けた瞬間に銀は水状に変形し人型に戻る。赤よりも光が強くなっているし、ダメージは霊帝の方が喰らったみたいだ。
「何で炎狼が回避や罠が上手いのさ!? 自分の力でゴリ押しなんじゃないの!?」
「焔は昔はオス共から逃げないといけなかったからな」
「ついでに狩りや拷問で相手を嵌める手も覚えてるのよね」
「私そんなに酷いことしないもん!」
「凍君のために敵から情報を引き出さないといけない場合は?」
「まずは手足を折って、それでも答えなければ顔の皮を削ぐしかないよね!」
霊帝が呆れ顔で止まってしまった。その隙に赤を突撃させ連続で拳を繰り出し、偶々当たった数発が銀の体力を削りきったようで銀はボールのような姿になった。
「ああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「勝ったよっ!!」
「ああ、おめでとう」
嬉しそうに俺の腕を取ってピョンピョン跳ね回る焔を撫でてやると更に嬉しくなったのか更に強く跳ねた。それでも俺の痛覚のレベルを理解しているのか痛いと思うような跳ね方ではない。腕にはまあ、雷に吸収されて悲しくなる感触があったよ。
その後は俺たちの練習も兼てゴーレムで遊んだが、意外と対戦は面白くてサバイバルでは本当に雷が怖かった。あいつマジで相手が嫌がること考えるの上手いな。敢えて乱戦を作って自分は離脱、漁夫の利で一網打尽の手際の良さに感服したわ。
そんな風に遊び明かした日の夜、俺たちは霊帝に本来の用件を話すことにした。いや、遊びに夢中になって忘れてたわけじゃないぞ? 狩りを思い出して熱中しちゃったわけじゃないぞ?
霊帝が用意してくれた宿は前に俺たちが使った帝宅敷地内の家だ。平屋で障子と畳が和風な雰囲気を醸し出す良い家だ。元々誰が住んでいたのか知らないが前に俺たちが入った時には既に元の住人の匂いが無くなるほどに掃除されていた。今回は前の俺たちの匂いが少しだけ残っている。わざと匂いが残るように掃除の回数を減らしたのか?
話し合いは俺たちの宿で行われることになった。侍たちが居るとできない話だったこともあったので侍が客人の家に入るわけにはいかないことを利用した。
「さて、帝都にこんなに早く戻ってきた理由を教えてもらおうか?」
集団のトップに立っている者特有の落ち着いた余裕のある声で霊帝が机を挟んで正面の俺に言った。しかしまあ、声とは裏腹に色々と様にならない絵となっている。
なんてったって、焔の膝の上にチョコンと座っているんだからな。焔が人形遊びしているようにしか見えない。髪をツインテールにしたり団子にしたりして遊んでるし。
「あ~、実は向こうの大陸でちょっと面倒なことになっててな」
そう切り出すと霊帝はあからさまに嫌そうな顔をした。子供にそんな顔されると傷つくんだけどな。
ともかく話を続けよう。まずは魔都で開かれた人間たちのお祭り騒ぎに黒スライム騒動の順番で、最後に雷狼とか数種類の魔獣が俺たちに差し向けられたことか?
「俺が前に話した黒スライムが魔都で作られてたみたいでな、Sランカーを決める大会があっただろ?」
「ああ、あの恒例行事ね。今回は首になった政治家が多いからジンに行ってもらったんだ。もう少ししたら帰ってくるだろうね」
「そのことなんだがな、もしかしたら時間が掛かるかもしれない」
「は?」
「魔都のトップが魔獣の中に人化できるのが居るってバラしやがった」
「なん、だと?」
「しかも雷狼を黒スライムで支配してて俺たちのこと知られた。雷狼の群に追われてヒヤヒヤしたぜ」
「そりゃひどい状況だね。でもよく逃げ切れたね?」
「焔が無双した」
「うん。大体分かった」
あ、納得してもらえた?
「でもそれの何が問題なんだい? ジンの帰りが遅れる理由にもなっていないよ?」
「多分だが、魔獣に対策するための会議が開かれると思う。その上で各国に黒スライムの情報とかが出回るかもしれないし、下手したら俺たちの逃げた先として帝都に調査が入るかもしれない」
「おいいいいいいいっ!? 君らはボクを危険に晒すつもりなのかい!? 雷狼の群なんて片腕の無いボクじゃ逃げることも難しいよ!!」
「だからちゃんと教えに来てやっただろ?」
「解決策が無いんじゃ意味無いだろおおおおおおおおお!!」
「レイちゃん、叫ぶと喉痛めるよ?」
「そう言う問題じゃないよ!?」
じゃあどんな問題だよ。てか雷狼がいくら来ても察知して直ぐに水龍と合流したら良いだろ。きっと瞬殺してくれるぞ。地上戦は厳しくても空中から高圧力の水の弾で倒してくれるさ。あいつロリコンだから。
どっちかと言うと問題は帝都の人間たちに霊帝が霊竜だと暴露されるような事態が起きることなんだが、流石に霊帝が魔獣だとは知らないと思いたい……あ、雷狼連れて来られたら匂いでバレるじゃん。やっぱり逃げるしかないか。
水ゴーレムと雷狼の群とか考えたら俺たちでも逃げたくなる。前回は焔と俺の連携で奇襲を成功させたから上手く行ったけど同じ手が通じるかは未知数だ。
まあ、そん時になって考えれば良いよな。
「つまり、ボクは雷狼や向こうの大陸の人間の気配を常に気にしないといけないというわけだね?」
「俺たちのせいじゃねえぞ、人間たちが雷狼使って人化を暴露したんだ。黒スライムを作ったのが魔都だって知れただけでも儲けものだっただろ?」
「それで自分の身を危険に晒すのはどうなんだい?」
さて、これで霊帝への情報提供と一時的な寝床が確保できたな。
「あれ? ボクが霊竜だって帝都の人間たちが知ったら出て行けって騒ぐ? 合法的に人間の街から出れる?」
「考えてるとこ悪いが、霊帝の帝都脱出計画が成功した例を俺は知らない」
「台無しにしているのはいつだって君だよ!!」
「凍とレイちゃんって愛称悪いよねっ」
「もう油と水のようにしか見えないわ」
「ある意味似ている気もしますけどね」
こんな子供に似ていると言われても嬉しくない。霊竜の強さなら似ていても大歓迎だがな。氷狼1匹よりも絶対に強いし。
「あ、そう言えば今回はどれくらい滞在するつもりなんだい?」
「何だ急に?」
「魔都とか雷狼とかが来なければずっと居ても良いんだけどねっ。ずっとは無理かも」
「それに凍がまたどこかに行きたがるから、きっと長居はしないでしょうね」
「凍君はもう少し落ち着きを持ちましょう?」
何で俺のせいになっているのだろうか?
「じゃあ1週間くらいは居るんだね。なら良いものを見せてあげられるはずだ」
良いもの?
俺たちの疑問の視線にフフンと胸を張って隠し事をする霊帝だが、一瞬だけ自分の左肩を見た。そこには肩から先にあるはずの二の腕や肘や手は無く、不便そうだ。雷も花子も俺と同じように直ぐに気付いたみたいだ。
「楽しみにしていてよっ」
「何かな何かな? 気になるねっ」
笑う霊帝を後ろから頬擦りする焔は、多分義手のことだって気付いてないんだろうな。
霊帝に義手が付きそうです
焔「レイちゃんの手治るの!?」
多分、恐らく、作者の思いつきで失敗しなければ
焔「レイちゃんが悲しむ思いつきは焼却処分するよっ」
……それって作者を焼却するってことなんじゃ
考えるのは止めておきましょう
では次回~