2話 迎撃
ゆ~きやコンコン、霰やコンコン、降って降ってもまだ降り止まぬ
凍は山へ芝刈りに、焔は隣り村へ虐殺に、雷は
凍「ちょっと待て。歌が変な方向に飛んでるし音程無視し過ぎだろ」
雷「音痴とか以前にまともに歌う気が無いでしょう?」
花子「……私と雷は何だったんでしょうか」
焔「虐殺なんてしないもん!」
今回は虐殺タイムとなります
トビ鶏を利用して魔都を脱出した俺たちは花子の背中から降りた。実はそんなに長時間飛べないから長距離を移動できないんだ。俺が船の上で花子に捕まったのは花子の飛べるギリギリの距離だったらしい。最後は空中で人化して慣性の法則で地面に辿り着いたんだと。
降り立った場所は王都と廃都市の間、でもかなり廃都市寄りで魔獣の嗅覚と視力ならある程度観察できる。メッチャ注目を集めている。
【幻狼様が蝶に乗っておられた】
【氷狼様なんて走った方が速いのに】
【ほら、炎狼様と雷狼様の早さが足りないから】
【ああ、嫁思いの方なのね】
何故か俺の株が上がった。意味が分からない。
「見る目のある魔獣たちだねっ」
「そうね。これで失礼なことでも言おうものなら虐殺しようと思っていたのに」
「雷、もう少し穏やかにしません?」
花子も呆れ顔だが疲れた様子だ。流石に俺たちを乗せてのドッグファイトは大変だったみたいだ。これはさっさと休憩しよう。
……雷狼の移動速度を考えたらノンビリしてられないけど。
王都に泊まるとすると、雷狼が来ても直ぐに騒ぎになって逃げる準備ができるけど魔獣だってバレるかも。でも休憩はしやすいよな。
でも逃げる方向は見られてるから雷狼が追い付いて来たら匂いで追跡されちまう。どっかで匂いの残らない移動をするか、匂いを追われても問題無い状況を作るか。それってどんなよ?
「八方塞ってこういうことを言うのかしら」
「え、全部殺しちゃえばいいんでしょ?」
「「「え?」」」
「だってあっち」
そういって焔が指差した方向を見る。魔都の方角なのだが、空にトビ鶏とそれに乗った人化した雷狼っぽい人間姿の何か。鶏の数もあって6匹ずつだ。
あいつら糞の河をトビ鶏で越えてきたか。
「皆考えることは一緒だねっ」
「黒スライムって俺たちと知能レベル一緒なのな」
「あと種族の垣根を越えて協力するのも証明されたわね」
「王都の時は色んな魔獣の混成だったんでしたっけ?」
あ、そういやそうだった。焔の親父さんが昆虫系の魔獣率いてた。率いてたってか、何かする前に焔に肉体的精神的にボコボコにされてたけど。
ともかく、花子がこの様子じゃ逃げるのは難しい。それに背中に大人の雷狼が乗ってるんじゃ俺も対処できない。
向こうのトビ鶏共も体力は限界みたいだが、こっちには足の遅い雷も居る。俺と焔は逃げ切れるが、背中に花子と雷を乗せたら確実に追い付かれる。
やっべ、完全に4倍の数の敵を相手にすることになった。しかも俺たちと違って向こうは体のできてる大人、戦闘能力は武器有でも同じかちょっと足らないくらいだ。
「大丈夫っ」
え、焔さん名案があるの?
「廃都市を使えば良いんだよっ」
はい?
焔が俺たちを率いて廃都市に向かうと魔獣たちが怯えた様子でどこに逃げるか迷っている。しかも逃げようとした奴から焔が殺気飛ばして腰抜かしてる。
御自分のおっかなさを良く理解してらっしゃる。
廃都市の魔獣はユニコーンに複数の狼に猿。どうしろと?
「ふっふ~ん、ここで迎え撃ってチクチク攻撃して罠に嵌めれば良いんだよっ」
「匂いは?」
「あっ」
「……魔獣たちの糞を使って誤魔化そう。短時間でもやらないよりマシだ」
接敵まで5分くらい。さっさと廃都市に入って魔獣たちに糞を街中に撒かせた。正直匂いが酷い。
【幻狼様たち魔獣使いが荒い】
【仕方あるめえ、炎狼様が怖すぎだ】
【それに匂いだけでも誤魔化さないと俺たちも雷狼たちに殺されちまう】
【何で目が赤く光ってんだ?】
気にしたら負け。
今の内に魔都側の廃都市入口を焔が火炎地獄にした。法剣に炎を纏わせて地面を一撫でしたら凄いことになった。もうこの入口使えないんじゃないかな?
地面には法剣で薄く斬られた痕、そしてそこからマグマのように炎が吹き出した。
【ああ、俺たちの住処が】
【もうお終いだ】
【諦めんなよ! これからどっか住処を探すしかないだろ!】
何か熱い奴が居るが、この氷は俺の氷で少しはマシにするつもりだ。焼け石に水にならなきゃ良いが、自信は無いな。焔って能力の使い方1番上手いだろうし。俺の教育の賜物だ。
でもこんなことができるように教育した覚えは無い。
「あ、大丈夫だよっ。凍の氷を使わなくても私自分の火なら消せるからっ」
何この万能娘。俺だって自分で作った氷消せないのに。
自分で作ったものって消すの難しいんだよね。俺の場合は暑い所に置いておくしかない、昔の焔は俺の氷を炙って消したり水をぶっかけたりして消してたんだよな。
「最近できるようになったんだっ。いつも凍の氷に頼ってたら大事な時に大変でしょっ?」
「ああ、うん、そうね」
流石に雷狼とトビ鶏たちもあまりの火力に怯えている。突っ切るなんてもう見ても不可能な火力がそこにはあった。
地面のタイルに使われている石が少し溶けている。あれ何度よ?
仕方なく雷狼たちはトビ鶏に乗って廃都市のど真ん中に移動。焔の火力を警戒してか焔から離れた所に急いで着地した。
だが、甘い。
【氷狼は速さが持ち味なんだよ】
「凍の背中、フサフサトゲトゲの冷たい毛っ」
魔獣の姿で焔を乗せた俺が一気に距離を詰めて人化し銃を乱射。両方ともあらかじめ散弾にしてあるから面白いように雷狼もトビ鶏も怪我をする。ついでに焔が雷狼2体とトビ鶏2体が分断されるように法剣で炎の壁を作った。地面にはさっきと同じように軽く斬られた痕があった。
ちなみに、本当は当てるように狙ったんだが避けられた。その先で俺の散弾乱射の餌食になってトビ鶏が2体とも頭部破裂、傷口から黒スライムが出て来たが炎の直ぐ傍だったせいで苦しそうに呻いている。
焔の法剣が斬撃を飛ばし雷狼を巻き込むように黒スライムを斬ろうとした。
雷狼には避けられたけど。チッ
【何て危険なガキ共だ!】
【魔獣の住処を破壊するとか、常識が無いのか昨今の若者はっ!】
「この程度の炎簡単に消せるから、あなたたちを消したら直すよ?」
【【…………っ!!】】
凄く必死な形相で俺に助けを求められてもな。
肩を竦めて視線を逸らすと泣かれた。
【待ってくれ! 俺には魔都に残した家族が居、るううううううううっ!?】
【俺は将来を誓った初心な彼女おおおおおおおおおおっ!!】
焔に頭を垂れて命乞いを始めた2頭の雷狼の頭を杭で砕く。
焔に注目してて俺に意識を払ってなかったので遠慮無く散弾から杭にモードを変えて討たせてもらった。焔はニコニコと法剣を鞘に戻そうか悩んだ振りをしていたので少し安心したのが隙になった。
砕けけて脳とか頭蓋骨が見える頭部から滲むような動きで出て来た黒スライムを俺と焔が1体ずつ切って消滅させた。
【おいっ、どうしたんだ!?】
【まさか、やられたのか!?】
【くっそ、ガキだと思って油断した!】
1番の問題は血も涙も無い焔を敵に回したことだと思う。
背後に雷と花子が追い付いてきたので焔が炎の先に法剣を振り抜いた。向こうの様子は見えないしこの炎のせいで匂いも分からないが、確かに向こうに雷狼とトビ鶏は居るので数打ちゃ当たるの作戦を取った。俺も散弾を適当に撃ちまくっとく。
「あなたたち、容赦無いわね」
「凍君に乗ることで焔から離れた雷狼たちを追い詰める。軽くホラーですよね」
【くっ、分断された!?】
【またこの炎の壁か!?】
【トビ鶏たちがやられたぞ!】
【スライム形態ごと焼き鳥になっちまった!!】
ちょっと食べてみたい。
「なあ焔」
「黒スライム入りのトビ鶏を食べたいと言うなら止めるわよ」
「凍君、節操無さ過ぎですよ」
「消しちゃうよ~」
あ、目の前の炎が法剣で撫でられて消えた。代わりに法剣が凄い炎を纏ってるけど。触れたら溶けそう。
「あ~、焼き過ぎちゃった。ゴメンね凍ぅ~」
はいはい、泣きそうにならないの。上目遣いとかこんな状況なのにドキドキするから。
炎の壁の向こうには炭になったトビ鶏が4頭。口から黒スライムらしきものが出かかっているが、炭の塊にしか見えない。
市街地の中心ということもあって俺たちの向かいには雷狼が4頭、交差点の塀に2頭ずつ分断された状態でこっちを睨んでいる。片方は背後が壁で逃げられなかったようで少し髭が焦げている。
これで4対4だが、花子は幻狼よりも少し戦闘力が低い。花子は焔と組ませるのが得策だな、戦闘力の問題で。
地面には焔が描いた十字傷が走っている。しかも斬られて出来た谷が溶けて丸くなっている。雷狼はそれを見てビビりまくりだ。
「ゴメンなおっさんたち。俺も嫁に雷狼が居るからこんなことするのは気が引けるんだが、まあ運が悪かったと思ってくれ」
「凍、それ完全に悪役の台詞よ」
【そうだっ、何で雷狼が居るんだよ!?】
【そうだそうだっ! そんな巨乳、雷狼の村に1匹しか居なかったはずだ!】
【……え、マジで本人? あの胸の女神様ご本人?】
【俺たちから逃げおおせていたというのか!? 雷狼界最大の損失ではないか!!】
「雷、お前女神様って」
「私は知らないわよっ!」
「吸乳」
「焔、言わないでちょうだい!」
「村のメスたちも可哀そうですよね」
「好きで吸乳してるんじゃないわよっ!」
血涙を流して前の見えない2匹に雷がキレて斧槍を頭部から真っ二つにした。腹の中に居た黒スライムまで切り殺されたらしい。
残るは背後に壁があって逃げられない2頭だ。
【同族を殺すなんて、そんな酷い奴が女神を名乗っていただなんて!!】
「名乗ってないわよ!!」
もはやバーサーカーと化した雷が怯える雷狼2頭に迫る。逃げようにも背後の壁、斧槍という間合いの広い武器のせいで逃げられない雷狼たち。
片方の頭部に小さい動きで石突きを叩き込んで怯ませ、その間に片方を斧槍のレンジギリギリで攻撃した。相手は右前足でガードしたが強靭な毛と爪を刃が質量で叩き折った。
「あ、今の内に殺っておきましょう」
前足を折られて痛みに怯む雷狼と、頭部を石突きで叩かれ動きの鈍い雷狼。その鈍い方に花子の居合によって飛んだ縦切りの水刃が迫り、正面からザックリと体全体に食い込んで水は地面に落ちた。
確実に顔の半分くらいまで刃が食い込んでいたので死亡確定だ。傷口から出て来た黒スライム、花子が流れるような踏込みで距離を詰め、居合によって振り上げた刀を両手で振り下ろした。
【人間の武器とか卑怯だろ!?】
「あなたにそんなことを言う権利があるとでも?」
花子に向けて全力で文句を言った雷狼の頭を後ろから鷲掴みにする者が居た。槍斧に変形させた得物を雷狼の頭部に突きつける雷だ。
躊躇い無く頭部に突き刺し、地面にキスした雷狼の胴体に向けて刃を走らせ黒スライムを消した。
さて、結論を言おう。
惨殺現場だ。
そして生かしておかなかったせいで尋問ができないと気付いたのは俺たちが王都に着いてベットに倒れ込んでからだった。
おかしい、本当なら凍が頭脳派主人公ばりに作戦を考えて廃都を舞台に焔とか雷とか花子とか現地魔獣を使って雷狼を血祭りにする予定だったのに
いざ蓋を開けてみたらいつもの焔暴走で終わってしまった
凍「いや、最初から俺が頭脳プレイしたことないから。脳筋プレイ一直線だから」
……あれ?
ほら、転生もの主人公ってもっとこう、色々考えて動くものじゃないの?
凍「いや、ウチはヒロイン無双ものだろ?」
……そういやそうでした
そんなわけで、次回をお楽しみに~