8話 トーナメント参加者の紹介です
う~む、何だか魔都編は凄く長いです
この分だと20話近くになりそう
凍「8話でもまだトーナメント始まってねえしな」
そろそろ一気に進めたいと思いつつ、投稿
司会進行役の女が大会開催の宣言をしてから直ぐに会場は静かになった。女が後ろに居た老婆の紹介をしてマイクを渡したからだ。
老婆はこの街を治める政治家で、若い頃は王都で歌手をしていたそうだ。顔はどう見ても50歳手前だが、鍛えているのが分かるスマートな身体つきで背筋を伸ばして堂々と挨拶を始めた。
「今日から3日間は最強の冒険者を決めるための、人間の矛たる存在の頂点を決めるための3日間である!」
一瞬、スピーカー越しに良く通る大きな声が聞こえてきたと思ったが違った。半径100メートルくらいの空間に声を響かせているのはあの老婆の生の声だ。かなり大きな声を出せるんだな。
「魔獣の脅威から人間を守るのは騎士だ! しかし、人間には発展のための矛が必要である! それが冒険者、その頂点を決めるのが、この大会の趣旨である!!」
魔獣は脅威か。
言ってくれるな。人間は向こう大陸のジャングルを自分たちの発展のためだけに攻撃しただろうに。それは違う人間の行いで自分たちには関係無い、なんて言い分は知らないぞ?
俺たち魔獣からしたら人間は全部同じ、不当な略奪者だ。
「我々は、人間のための正義を欲する! そのための力を欲する! 立てよ冒険者、人間の矛よ! その身に宿りし力の全てを、此処で証明しろ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
何か分からんが凄いカリスマで観衆を盛り上げた老婆はさっさとマイクを女に返して闘技場の見える豪華な椅子に座ってしまった。早く試合を始めろとでも言いそうな表情だ。
女はハイテンションで老婆に礼を言って冒険者の紹介をすると言った。これで謎の4人の詳細が分かるな。冒険者か疑いたくなる服装の奴らばっかりなんだ。何でシェフとかピエロが混ざってるんだよ?
「まずはこの方! Bランクの挑戦者、甘いマスクに確かな実力、マイヨ・プ」
さて、モブは無視して肝心の4人を観察するか。
あ、さっき絡んできた熊みたいな大柄な奴も居る。名前は……聞いてなかった。見つけたと思ったら紹介が終わってた。
しかし、中々4人が呼ばれないな。
「では、ご紹介しましょう! 名誉あるSランカー、冒険者の中の冒険者、人間の矛にして、最強の切り札!」
あれ全部Sランカーかよ! コスプレイヤーしか居ねえじゃねえか!!
「炎の料理人、またの名をクッキングファイター、フレイム!! 今回は何と冒険者ではなく料理人としての参加、これが彼の本気だとでも言うのだろうか!?」
あ、前の大会では普通の冒険者の恰好してたのな。背中のデカい包丁とまな板はどうにかならんのか?
「お次は世界を笑いを届けるピエロ、ドナルド!! 彼も今回はピエロ姿での参戦、大会すらも笑いに包むのだと期待しちゃって良いのか!?」
あ、あれもコスプレ参加は初めてなんだ。お手玉止めい。
「さあさあ、3人目ですっ。各地の村々を救う救世主、自称『世界に仇成す黒雷の魔王(笑)』、バイラス!! 本日も右腕の包帯の封印は解かれないのか!?」
……ああ、厨二病の方ですか。唯一の一般的冒険者だと思っていたのに、その右腕の包帯は『静まれ俺の右腕えぇっ』ってやつですか。背中の黒くてギザギザした剣は電気を模しているのか?
「4人目はこの方! 協会に所属しながらも冒険者として頂点を極めた奇特な牧師、武器は教典に愛の拳、ザビエル!!」
いや、その名前は登頂ハゲなんだが。いいか、帽子脱ぐなよ。絶対だぞ?
そしてその手に抱えたハードカバーは武器なんかい!
「最後はこの方、現在最強の冒険者、歴代最強とも言われる鉄壁のお嬢様っ、エリーヌ! その鍛え上げられた巨躯は男なんざ薙ぎ払う!!」
あのドレスの筋肉マッチョ女、現在最強なのか。それにしてもドレスが似合わねえ。空色のドレスを着ているが、胸板に押し上げられて息苦しくないか?
ああ、巨乳だぞ。筋肉で。ついでに背丈は2メートルありそうだ。顔には斜めに傷が走ってるし背中には巨大な岩の棒を背負っている。アレ武器?
「さあ、ここに出揃った冒険者の中で、一体誰がランクを上げるのかっ、誰のランクが下がるのかっ、興味は尽きませんが、彼らの勇姿が見れるのは明日から! 皆さんお楽しみに!!」
ああ、そういやランカー決定戦は明日からだったな。今日はBランク以下の冒険者たちのチーム戦だ。
「待っていただきたい!」
低いが凛とした声が会場に響いた。
今まさにチーム戦の進行に入ろうとしていた司会者が声の主を直ぐに発見した。鉄壁のお嬢様、エリーヌだ。お嬢様と言うには厳つすぎる顔が司会に向けられている。
「今回の大会で私は不参加だが、それでは面白味が無い」
ん?
…………何で不参加なんだっけ?
「Aランク上位4人とSランク下位4人で入れ替わりトーナメントだから最強の人は出ないんでしょ?」
「焔、何の話?」
「えっ? 最初に王都でリーガルさんが言ってたよ?」
リーガル、リーガル……ああ、王都のギルド長!!
「よく覚えてたなそんなこと」
完全に忘れてたぞ。
「凍と一緒に聞いた話なんだから全部覚えてるよっ」
そうでした。しかし、これって俺は焔よりも馬鹿ってことになるんじゃ……考えるのは止そう。
「是非、私に挑戦権を頂きたい。本当の最強、先代最強Sランカー、リーガルさんに!!」
…………はい?
「来ているのでしょう? 各地のギルド長は大会を見る義務がある。会場に来ているのでしょう? ねえ?」
そう言ってエリーヌが観覧席を見渡す。声は低いが話し方は女でもう訳が分からない。
そして俺たちが居る通路の一番前の観客席に立ち上がる巨躯が居た。後ろからでも分かる筋肉隆々な頼もしい背中と趣味の良いジャケット。あれは、あいつか!?
「まさか引退した老いぼれに指名が入るとはな」
渋い声に話し方、誰!? またリーガルのパパモード!? あ、隣に綺麗な奥さんと可愛らしい娘さんが居る!! あの野郎、中身はカマ野郎のくせになんであんなリア充なんだ!?
……方々から『お前が言うな!』と言われた気がする。
「凍君、あれ、誰ですか!?」
「ああ、花子もとうとう見てしまったのね。あれがパパモードのリーガルよ」
「嘘です! あんなのリーガルさんじゃありません! リーガルさんはもっとこうっ、腰がクネクネしてますし話し方も気持ち悪い人でした!!」
花子、酷いぞ。俺だって思ってても言わないことってあるんだぞ?
そして雷もリーガルのパパモードは初見じゃね?
てか周辺の人間たちがリーガル見て驚愕している。そして指名した筋肉お嬢様がポカーンとしてる。
「すまないが、私は君と戦う気は無い。私は見ての通り王都のしがないギルド長だ。戦う力も残ってはいないよ」
「いや、それ以前にあなたの性格の変化に驚くのですが」
「しかぁしっ、折角のお誘いを無下に断るのも君に失礼だ。何か代案を考えなければな」
「パパカッコイー!」
「そうかい?」
「…………誰?」
筋肉お嬢様、誰もが同じ気持ちだよ。
てかリーガルって有名人なんだな。初めて知ったよ。性格的にも冒険者的にも。
あ、Sランクの時点で有名じゃないとおかしいのか。
「では、本日の大会時間が終了するまでには考えて……ふむ」
ヤバい。目が合った。
凄く良い笑顔だ。まるで最高の適任者を見つけたかのような笑顔だ。お願いだからこっち見んな。
後ろ向くな笑うな見るな歯見せるなパパモード止めろお姉も止めろ息を吸うな生きるの止めろ!!
…………疲れた。
「面白い相手を紹介しよう。将来有望な冒険者の少年だ」
「……まさか、その少年のことでしょうか?」
いや待て、筋肉お嬢様は俺を目の敵のように見るんじゃねえ。俺は出る気なんて全く無いぞ。お前と戦うなんて考えたくも無い。どうやって勝負着ければ良いか分からん。
普通に戦うと、肉体スペックで普通に勝てる。焔と花子が期待している。
負けようとすると、かなり難しい。雷がニタニタしてて何されるか分からん。
おい、どうしろと?
出ないって選択しかないんじゃね?
「王都が魔獣の進行に遭った際に騎士や冒険者の混乱を治めた少年だ、荒削りだが得るものはあると思うぞ」
「……では」
「ちょおおおおおおおおおおおおっと、待ったああああああああああああああ!!」
「何だね?」
何を迷惑そうに眉間に皺寄せてんだよ迷惑被ってんのはコッチなんだよお前の勝手なプランに俺を巻き込んでんじゃねえよ! 何で俺が会場中から注目集めなきゃなんねえんだ!? 焔が少しでも殺気を出したら会場中がパニックだぞ!!
あ。
「何で、私たち以外の女が凍を見てるの? 死ぬの? 殺すの? 目を刺して抉ってくり抜いて口に放り込んで噛み噛みさせるの? 指を切り落としてコンガリ炙って美味しくいただくの? お腹を切って胃で直接味わうの? 凍を見る」
「はい焔ストップ、落ち着いてこのまま会場から離れような? どうせだからホテルで俺に料理作ってくれよ、なっ?」
ヤバい。本格的に殺気が周囲に撒き散らされて呼吸困難になる人間が出始めた。リーガルも何が起こってるのか理解したみたいで冷や汗ダラダラだ。
最初から指名すんなっつの!!
「や、彼は新婚なようだしここはやはり別の案を考えるとするよ。では、今日の最後にでも話そう」
「いや、しかし」
「彼らは新婚なのだ、察してくれ」
酷い言い訳を聞いた。そして筋肉お嬢様が納得して『では、後程』なんて言いやがったから逆に目立つ。
……どうあっても俺たちは目立つのか。
久しぶりにパパモードのリーガルでした
ええ、もう周囲の観客も冒険者たちもお姉なリーガルのことは知っていますが今のリーガルには戸惑っています
パパ「全く、失礼しちゃうわっ」
ママ「それだけ皆から愛されているのよ、ね~?」
娘「ね~っ!」
パパ「ふむ、そういうことなら良いだろう」
……後書きにまで侵食してこないでください
では、次回~