6話 依頼って色々ですね
本当に久しぶりに冒険者ギルドのお仕事です
地味に冒険者ギルドに登録しているって忘れがちです
凍「王子に会って最初にしたのって登録じゃね?」
花子「私が帝都に入って最初にしたのは登録でしたね」
あ~、そうだったかもしれません
まあ、そんなことより本編どうぞ~
会計を済ませて外に出ると以上に注目された。周囲の通行人全員が俺たちを見ていると言っても過言じゃない。
一瞬別に目立つものでもあったのかと思ったが完全に俺たち4匹が注目されている。
「何だこれ?」
「凍が見られてる……」
「どちらかと言えば、あなたよ」
「雷もです。特に胸です」
花子が指摘した瞬間に数名の男たちが視線を無理矢理逸らした。
分かりやすいな通行人ども。俺も寝惚けてるとガン見するけど。躍動感が凄いんだ。
ともかく無視してギルドに向かう。流石に通行人たちもガン見を悪いと思ったのか日常生活に戻って行った。
ちなみに狼の聴力で聞き取れた会話がこちら。
『おいっ、あの紅い娘すげえぜっ』
『マジだなっ! まな板だけど、それが良い!! ……何だ、男付きかよ』
『いや、顔は紅い方が良いかもしんねえけど金髪巨乳だって!』
『あれも男付きじゃね?』
『清楚なお姉さんハァハァ』
『残念、それも男付きだ』
『『『全部じゃねえかよ!!』』』
俺が原因だった。
そして俺の方を見て数名の女子が良い感じの話を小声でしてくれてるが、残念俺には嫁が3匹も居るのだ。下手すると俺のSAN値を削りかねない危険嫁だが。
そして、
「焔、落ち着け」
「だって凍の腕見て良い体って」
「放っておけ。俺も聞かなかったことにしたい」
この街、男より女の方が危険だ。欲望に忠実なのか生唾を飲み込んだ音もした。
全部無視してギルドに行くとしよう。焔が完全に法剣に手を掛けてる。屋台のオッチャンの話だとこの街の法律はヤバそうだ。
コロシアムみたいな闘技場に埋め込まれたギルドに到着。道中の注目集め具合は安定の無視。
でも焔は無視できない。早く法剣から手を離せ。
「何だか騒がしいと思ったら、またあなたたちなのね」
「ご挨拶だな。仮にも後で来いって言ってたくせに」
ギルドのカウンター嬢は俺たちを見て呆れ顔だ。嬢と言うには年齢がアレだがな。
ドレス姿の焔と雷と花子が注目を集めているのが妬ましいのか歯軋りしそうな顔だ。
「で、何しに来たの?」
「大会の日程を教えてもらえないか? 知らないんだ」
「明日からよ。大会は3つあってね、Bランクの自由参加チーム戦、Aランカー決定戦、Sランカー決定戦とチーム戦の決勝の3日間ね。チーム戦に出るのかしら? ……というか、それくらい街で話題になってるでしょうが」
「知らんな。俺たちは観戦だな、折角の新品が勿体ない」
新品の服はこの言い訳のためでもあったのさ!
本当なら全く攻撃に当たらないような動きも可能だが、正直目立つので参加したくないだけです。
しかし、意外と直ぐに大会だったな。
「ほほう、怖いの?」
「そ、善良な一般人だから無理はしないんだ」
「善良な一般人、ねえ?」
何か含みのありそうな表情だが、気にしてもしょうがないのでさっさと観光に行こう。一応探し物系の街中で済ませられる依頼を受けておく。失くした物が依頼人の鍵だから匂いで分かるだろ。
ここで魔都のギルドと王都のギルドの違いを紹介しよう。
依頼人が受領した冒険者によっては依頼を取り下げることができる。犯罪歴や問題を起こす冒険者に仕事を任せるのは不安だという依頼人のために作られた制度らしい。だからこの街の冒険者は結構モラルを持っているらしい。
この制度を使うかは依頼人の自由らしいが、依頼人が冒険者を気にする場合は依頼を受けるのに時間が掛かる時があるようだ。依頼者が確認するのがその日にできるかどうかはその時次第だからな。
俺たちが受けようかと思った依頼は依頼人が冒険者の情報を知りたがっていた。受けるのに時間が掛かると思ったが、そうでもなかった。
依頼人はギルド内に居た。結構ヨボヨボな老婆で普通の鍵はあるんだが合鍵を落としたらしい。場所は俺たちのホテルの近くだった。大会が終わるまでには見つけられると思うと言ったら安心した様子で本物のちょっと無骨な鍵を見せてから『じゃあね』と言ってくれた。何故か焔にご執心、相変わらず顔が良いのに女にも好感を持たれるな。去り際は孫が家に帰っちゃうときのお婆ちゃんみたいだった。
お婆ちゃんと鍵の匂いは覚えたのでホテルの近くでこの2つの匂いを探そう。
「この匂い、ホテルの東側にあったかな?」
……またしても焔の超記憶が発動しやがった。
「凍がホテルに入る時に入口の右側、隣の建物の間からした匂いがこんなだったかもっ。風は髪が少し揺れるくらいだったから結構通りに近い位置かな? 肉の匂いとかは無かったからゴミ箱からは離れてるはずだよっ。あとあとっ、オバアサンの匂いは薄いけど凍の匂いに混じって鍵に使われてる金属の匂いは普通にあったから鍵の位置はそこから変わってないのかもっ。きっとホテルの東側を探せば直ぐだよっ!」
何だこの探偵狼、そんじょそこらの探偵じゃ不可能な推理が可能じゃないか? 俺を中心に匂いの密度で何がどこにあるか予測するなんて普通の幻狼にはできないぞ?
「焔って、凍が少しでも絡んでいれば本当に何でも覚えているわよね」
「何で金属の匂いからオバアサンの匂いまで覚えてるんでしょう?」
焔の俺への拘りは本当に怖いよ。
だって行き過ぎてるんだもん! 俺の匂いに金属の匂いが混じってるとか分かんねえよ! 誰か焔の嗅覚と記憶力を解析してよ! これで勉強できないとか訳分かんねえよ! 俺が近くに居てミスを直されると完全に覚えてんだよ怖いんだよ!!
まあ良い、気にしたら負けな気がする。
「じゃあホテルに戻りましょうか?」
「そうですね。オバアサンも今日見つかるとは思っていないみたいですし、渡すのは明日にしましょう」
何か依頼人に確認したりすることが多いせいか魔都のギルドには裏方で働く人間が結構な数居るみたいだ。俺たちが鍵を見つけたらギルドに届ける。それをお婆ちゃんに渡しに行く係も居るらしい。
お婆ちゃんが言ってた。焔ちゃんは良い娘だねえ、と。
……特に意味は無いよ?
ともかく、ホテルに戻ってみるともう日は沈みそうだ。焔の記憶を頼りにホテルの東側に行ってみると確かにお婆ちゃんと鍵の金属の匂いがした。目を凝らしてみるとキラリと光る金属を発見、拾い上げてみるとお婆ちゃんが使っている少し無骨な鍵を手に入れた。
何でこんな無骨な鍵をあんなお婆ちゃんが使っているんだろうな?
「見つかったわね、部屋に戻りましょう」
「凍の尋問! 私だけに時間を使ってくれるっ!」
「……あれ? 何は違うような? あれ?」
花子、落ち着け。
ロビーを抜けて5階の部屋まで行く。鍵は先に渡されているのでロビーで何かを言う必要は無い。フロントの姉ちゃんは俺たちを見て驚いていたが、あの白衣やナース服はコスプレなんで忘れて欲しい。
今の俺たちは執事とお嬢様だ! ……結局ネタなのは変わってなくね?
で、実は焔の過去よりも大事な話がある。
「そうね、王子からの依頼をどうしましょうか?」
「へ? 私の話は?」
部屋に戻り魔都に来る前の話をしたらベットに腰かけた雷が乗ってきた。焔の話はスルーの方針で決めたらしい。
「まずはこの街でお偉いさんが集まる場所を知らないとな」
「豪華な服を着ている人が会議をする場所まで付いて行ってみますか?」
ストーカーじゃないよ、スネーキングミッションだよ。
むさいオッサンをストーキングとか考えただけで依頼放棄したくなるっての。
「でも、どこに行ったら会えるんでしょうか?」
「それこそ、何か街全体のイベントでもない限りは……」
「王子のやつ、これを見越してたな」
今回の大会は街全体が協力している。つまり、お偉いさんの博覧会になってもおかしくない。しかもさっきの噂話だとお偉いさんたちは何かイベントをするつもりみたいだし、見る機会には事欠かないだろう。あとは幻狼の身体能力で近付いて匂いを覚えておけば良いだけだ。
「動けるのは明日から、開会式くらいあるでしょう」
「そこで魔都の有力者を見つけたら凍君たちが匂いを覚えて」
「研究所とかで何か変な実験してないかを探ってくると」
方針、というかやることは決まった。つまり今日はもう何もすることがないということで、
「凍ぅ~」
はい、焔が涙目で袖をクイクイ引っ張っております。上目づかいで正直鼻血が出そうだが、ここは我慢。
「分かった、聞いてやる。で、お前昔何したんだ? あのユニコーンがしてた話はいつくらいのことだ?」
「えっとね、10歳の頃だったと思う!」
はい、元気良く答えられました、偉いね~
……これ、聞かなきゃダメなんだろうか?
次回、焔の過去が明らかに!
雷「……聞かなくても想像できるのだけど」
焔「エスパー!?」
いや~、誰でも想像できるんじゃないでしょうか?
では、次回~