2話 焔、正直に言ってください?
副題通りです
焔、正直に言ってくれ
凍「焔の悲しい過去に、俺たちはどうするのか?」
雷「お願いだから正直に話してほしい、でも聞きたくない」
花子「ああ、私たちはどうしたら良いのでしょうか?」
焔「何もしてないもんっ!」
いや、既に炎狼の村や氷狼の村で襲ってきた同年代ボコボコにしたような……
では、本編どうぞ~
とりあえずで王子の依頼を受けることにした俺たちは翌日にはオッチャンに預けていた武器を受け取って王都を出た。王都から魔都までは人間の徒歩で約3日、幻狼の姿ならば半日もかからないが、ここは全員が人化した状態でいることに意義があるので人化したまま徒歩で3日歩くつもりだ。
ちなみに、オッチャンが俺の銃にまたしても変な機能を入れようとしていたのでオバチャンの方に頼んでおいた。
「何でい何でい! 俺が何したってんでい!?」
「客の手に余る武器なんざ互いに可哀そうだろうさ」
「何だとう!?」
「やるかい!?」
オバチャンは、うん、オッチャンを真正面から拳で叩きのめしていたよ。
オッチャンは最強の武器職人だが、オバチャンの方は使用者に最適な武器を選ぶ天才らしい。焔の法剣も選んだのはオバチャンだったらしい。そしてオバチャン曰く俺に最も合う武器はナイフとかの超近距離武器で、今のゲテモノ性能の銃ならマッチしていると言われた。
ゲテモノは無いと思うんだ。結構気に入ってるのに……
「凍君、何か面白いことでも思い出したんですか?」
ノンビリと街道を歩いていたら花子にそんなことを聞かれた。
そんな顔してたか?
「何と言うんでしょうか、腐れ縁の友達のことを思い出している時にしそうな顔です」
ピンポイントな表情だな。
「オジサンのこと考えてたんじゃないっ?」
「……正解」
何で分かるんだ?
「焔の特技でしょう。ほら、風龍に潰された街の跡に着いたわよ」
雷に怖い答えを貰い、同時に廃墟となったレンガの街に到着した。
ここはずっと昔に俺たちの住んでいた魔獣の森を開拓しようとした人間たちの街。村長も生まれてない頃に起きた事件らしくて誰も真実を知らない。この前聞けば良かったと今更になって後悔するが、まあ良い。
街の名前も分からない。今は風を使う魔獣が生息する一種のダンジョン扱いだ。風を扱う魔獣以外にも移動の速い馬系の魔獣も住んでいるらしい。人間が森を襲撃した時に住処を失った種族が多いって言われている。
「人間の侵略の結果ね」
「私のジャングルも襲われましたし、人間の街がボロボロになっているのを見ると嬉しいですね」
そうだな。人間には自分たちの生息範囲は必要以上に広げないでほしい。正直言って撃退する労力が無駄で勿体ない。そして撃退しても良いことがない。いっそのこと滅ぼすって手もあるが、時間の無駄過ぎる。
前にも言ったが、人間は食える場所少ないし不味いしで食いたくないんだよ。
「少し見ていきませんか?」
「え?」
花子の思わぬ提案に驚いた。
まあどっちでも良いが、見ても面白いものじゃないだろう?
「ちょっとした興味です。ここの魔獣たちがどんな風に暮らしているのかとか、気になりませんか?」
確かに、この街は完全に外界からの干渉を受けないようになっている。この街に関われば風龍の逆鱗に触れるんじゃないかと誰もが恐れているからだ。
正直な話、風龍はきっとこの街を気にしてはいない。
でもイメージってあるんだよな。
それにしても、風龍は魔獣の森に人間たちが入っていることには気付いているのか? 風龍ほどの魔獣なら知覚範囲も大きいと思うが、何もしないところを見ると大したことじゃないのか?
街は北から南に大通りが通っている。俺たちはその通りを抜けて行くことにした。あんまり魔獣たちの住処を荒らすわけにもいかない。空腹でもないのに魔獣を襲う理由は無いからな。
と思っていたら通りに繋がる路地から白い馬のような魔獣の子供が出てきた。恐らく4歳くらい?
そいつが出てきた路地はよく見ると直ぐに小さな橋になっていた。街の中を川が流れているみたいでレンガの橋がアーチ状に架かっている。
そんな橋をカポカポと足音立てて出てきたのは普通の馬じゃなく、ユニコーンだった。特徴的な金色の角が頭から生えてるし間違いないだろう。
【お初にお目にかかります……って魔獣だし経験済みですか】
そう、ユニコーンだ。口調は一般的なユニコーンのそれだ。デフォで敬語なんだと。
人間の生娘が好きで神聖な魔獣の振りして近付き背に乗せて街に返してあげたりと親切だと言われているが、そんなもんは幻想だ。実際のコイツらは生娘を巧みに誘ってさり気なく自分のテリトリーに誘い込んで人化して襲う。ああ、性的な意味でな。
でも人化する瞬間は見えないから人間にはいきなりユニコーンが消えて人間の男に襲われたってことしか分からない。何より質が悪いのが襲っているユニコーンが満足すると他のユニコーンが人間を救いに来たかのように飛び出してくることだ。そして背に乗せて街に返すからユニコーンは人間の、特に生娘の見方みたいに見られている。
【ややっ、幻狼に蝶とは不思議な組み合わせで……氷狼と、炎狼?】
何だこの反応?
「凍に焔、白状しなさい」
「大丈夫、2匹がどんな罪を犯していても私たちはちゃんと受け止めてみせます!」
「全然信用ねえじゃん!?」
「私何もしてないもん!!」
【凍に、焔!?】
「焔、正直に言ってくれ。何をしたんだ?」
「そう、焔だったのね」
「焔、いつかやると思っていましたけど」
「ええ!? まだ何も言われてないよねっ!?」
いや、だって怯えてるぞ? 逃げるのも忘れてガタガタ震えだしたぞ? そして周辺の魔獣の気配が明らかに減ったぞ?
【もしかして、本名は、『林焔』ですかね?】
「あ、正解」
魔獣は結婚しても名字は変わらない。そもそも幻狼の子供の名前は5歳か6歳になってからつけられるのが習慣だ。それまでに死ぬ個体が多いからな。名字はその時に子供が選ぶ。俺はお袋のだ。理由は親父がお袋より弱いから。
【いやあああああああああああああああああああああああ!!】
はい?
「落ち着け。下手に暴れると危険だ。だから落ち着け」
【ああああああああああああああっ、はい!! 落ち着きました!!】
「焔、法剣から手をどけろ」
ユニコーンが腰を抜かして倒れそうになったところから綺麗な気を付けの姿勢に変わった。理由は簡単、焔が法剣に手を乗せたから。
「え~、凍の話を無視したんだよ?」
「どっちも落ち着きなさい」
本当にな。
「で、何で焔を知ってるんだ?」
【え~と、その~……】
言いづらそうだな。
「焔のことなら止めてやるから、教えてくれ」
【……夫の凍様がそう仰るなら】
……いや、何で知ってんだ?
【私の群には、いえ、この街にはある教えがあるんです。男に会ったら自分を呪え、ドラゴンに会ったら神を呪え、】
ありがちだな。
【林焔に会ったら、生まれたことを後悔しろ】
重い!! 教えが重すぎるって!!
何で焔に会っただけで生まれを後悔しなくちゃなんねえんだよ!
【以前、街の魔獣が1匹森に入って4日帰って来ないことがあったらしいです。私は生まれてなかったので聞いた話ですよ?】
分かった、必要以上に怯えなくて良いから先を話してくれ。生まれたての小鹿のようになってる。
【その、不安に思った家族が狩りも兼て森に確認に入ったそうなのです。そこで、彼らは見たそうです】
おい、何かオチが想像できるんだが?
【木に杭のように尖った太い枝で刺し貫かれ、死ぬこともできずに衰弱した我が子の姿を】
何て酷い殺し方だ! 狩りは一思いにサクッとやるべきだろう!
【ですが、彼らは直ぐにそこを離れなくてはなりませんでした。炎狼の匂いがしたからです。それでも彼らは残って子供を助けられないか粘ったそうです。ですが、1つ不思議なことに気付きました。何故、子供は食われていないのか? 杭に貫かれて木に磔、何故食われた痕が無い? その答えは簡単でした。近付いてくる炎狼の子供がそれを行ったそうです。人化して、手に同じような杭を持ち、泣き叫ぶ子供の手足を、1本1本、確実に、】
「いや、もう良い。よく話してくれた。てか直ぐにここから離れろ。後ろでこっち見てるのは親だろ?」
橋の向こう側には子供のユニコーンを心配そうというか、とても悲しそうに覚悟を決めてしまった表情のユニコーンが1対。きっと親だと思う。
親元から離れたばかりだから言える。心配させちゃ駄目。
【ありがとうございます!】
そう言ってダッシュで橋を渡って行くユニコーンを見送って、俺は焔に向き直った。
「何か申し開きはあるか?」
「なっ、何の話かな~」
良いから話せっての。
「うぅ~……長くなっちゃうんだけど良い?」
……きっと短いんだろうな。
でも焔にとっては長いんだろうな。
「魔都に着いてからで」
「は~い」
本当に分かってんのか?
焔、ヤンデレらしく過去にやらかしていたようだ、の巻
凍「ヤンデレが過去にやらかすって定番だよな」
雷「もはや一種の芸よね」
花子「焔、私たちは信じていますからね。罪を償ってくれるって」
焔「全然信じてないよねっ!?」
いや、何かしたって信じているんですよ?
では、次回~