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第42章 激突(その七)

「9、10、11・・・」

 ルカニウスは火の壁が立ち上る数を指折り馬上で数える。

 火の壁はサクソン陣営の、特に中央部に集中して次々と立ち上がり、空腹とはいえ大柄で屈強なサクソン戦士達をその火勢で焼き尽くしてゆく。

 火の壁が立ち上がる度にサクソン戦士がなぎ倒され、火炎に巻かれて倒れ行く様はさながら地獄の釜の底を垣間見たような不気味さであり、精強なブリタニア騎兵達も異様さにゴクリとつばを呑む。

 絶叫と悲鳴が重なり合い、サクソン軍の戦士達は激しく動揺するが、後方からヘンギストが督戦している事もあって今までのように右往左往すること無く、まっすぐブリタニア軍の待ち構える丘の陣まで迫る。

「17、18、19・・・」

「・・・・」

「騎馬兵前へ!!」

 ルカニウスが立ち上る火の壁を数える横で、アルトリウスがクイントゥスに頷く。

それを見たクイントゥスもうなずき返し、そして後方に連なる騎馬兵へと指示を出した。

「歩兵は下がれ、騎兵の左右に展開しろ!!」

 前へ進み始めた騎兵達に気付き、歩兵司令官のティトウスが配下の歩兵達の陣替えをすかさず指示する。

 アルトリウスを先頭に、左翼にトゥルピリウス、右翼にクイントゥスとルカニウスが続く。

 落ち着き払ったアルトリウスらとは対照的に、ルカニウスは火の壁の数を必死に数えながら緊張で顔を紅潮させている。

「22、23、24・・・25」

 それを見ながらアルトリウスらは、互いに顔を見合わせ、好ましいものを見る目で微笑みを浮かべていたが、ルカニウスの口から25の数が出ると、にわかに顔を引き締めた。

    しゅっ

 静かな刃音をさせアルトリウスが長剣を抜くと、アルトリウスらの様子を見守っていたブリタニアの兵士達は瞬時に身構えた。

「ブリタニアの勇敢なる兵士諸君!!」

 前を見たまま、アルトリウスが言う。

「長い道のりだった!回り道もした!!しかしそれは我々が考え得る最善で最高で、そして唯一の道だったのだ!!時が過ぎ、我らの名前が忘れ去られようとも我らが此処でこの時に為した事は忘れ去られる事は無い!!!」

    ばっ

 長剣を天へと突き上げ、アルトリウスは後ろを振り返る。

「恐怖を、怠惰を、卑怯心を忘れず、これを克服してこそ、真の勇気と知恵、そして努力による結果が我が物となるのだ!!勇者英雄は私では無い!!真の勇者とは、真の英雄とは、それを知り尽くした諸君達兵士である!」

    ががっ

 愛馬を後ろ立ちにさせ、アルトリウスがあらん限りの声で叫ぶ。

「諸君ら真の勇者と共にあらんっ!勇気をっ!!!!!!」

    うおおおおおお

 火炎の壁が立ち上る中、1万2千のブリタニア軍は雪崩を打ったように正面のサクソン軍に突撃を開始した。

 

 アルトリウスが直卒する重装騎兵を先頭に、ブリタニア軍は旗を前に倒し、一気に丘を駆け下る。

 今まで小競り合いに終始してきただけで、兵士達の体力にはまだまだ余裕がある。

 一方でサクソン戦士達は空腹で弱っている上に火炎弾の一斉射撃に酷く打ちのめされている上に、度重なった無茶な作戦行動ですっかりやる気をなくしていた。

 左右に立ち上る火炎弾の着弾の衝撃をモノともせず、ブリタニア軍はサクソン軍の正面前衛へと真っ直ぐ突入した。

「踏み破れ!!!」

     どどどどどどどどどどどどっっ

     おおおおおおっ!!!!

     ばがああああんん

 進撃を一旦止め、慌てて槍や剣、そして盾を構えるサクソン戦士達。

 しかし、ブリタニア騎兵の猛烈な突撃はそれらを意に介する事無くあっさりと崩し去り、そしてずたずたに切り裂いた。

    ぎゃああああ

    うげええええ

 戦士達の悲鳴が戦場に響く。

 火炎弾にやられて混乱している所へ、それまで守勢一方であったブリタニア軍が突如突撃を開始し、さらに混乱へ拍車がかかった。

「何てことだ・・・」

 前衛を受持つ戦士長がつぶやくと同時に、騎兵の一撃を受け額を割られる。

 品種改良された大型の馬を操るブリタニア重装騎兵の突撃に、せっかく装備した長槍を役立たせる間もなく、下級戦士達で構成されたサクソン軍の前衛は破られてしまった。

 戦士長が慌てて命令し、槍を立て騎兵の突撃を防ごうとする者達も居たが、後方から続く歩兵の投げ矢や投げ槍にその試みをくじかれる。

    どおおん どおおん・・・

 未だ火炎弾の射撃は止んでいないが、ブリタニア軍は迷う事無く火炎弾の熱風の中に突き進む。

 一方、恐慌状態に陥りつつあるサクソン軍は、一部の気の利いた者達以外は為す術無くブリタニア軍の蹂躙を受けた。

    がん どか べこ どす ばり

    ぐああああ 

    うおええええ

 馬の体当たりを受け、戦列を組もうと試みていた戦士達が吹っ飛ばされる。

 煽りを受けて怯んだ横の下級戦士は、長剣の一撃を受け、くるりと回転しながら倒れ、長槍を騎兵へ刺し込もうとした別の下級戦士は、後ろから来た騎兵の手投げ矢を顔に叩き付けられ、物言わず後ろへ倒れる。   

 たちまちブリタニア重装騎兵団はサクソン軍の中段にまで達した。

「足を止めるな!!!本陣まで駆け抜けるんだ!!!」

    おおう

 アルトリウスの叱咤激励に引っ張られ、ブリタニア騎兵は勢いを落とす事無く次々とサクソン戦士を馬蹄に掛け、突き進む。

    どどおおおおおおおんん・・・・

    ぼあっ

 進路上に火柱が上がるが、熱風がやむと同時にブリタニア騎兵が突っ込み、その先で火炎や熱風から身を庇うサクソン戦士達が立ち直る前にその命を奪う。

    どかっ

    おうえっ

    ばしっ

    ぎあっ!!

 愛馬の前足で下級戦士の胸板を踏み抜き、掴み掛かってきた戦士長の顔面に剣を突き立て、アルトリウスが叫ぶ。

「行き足を鈍らせるな!間もなく射撃は終了だ!!」

 よく訓練されたブリタニア騎兵の馬は日之影に怯んだり怯えたりせず、実によく騎兵達の操縦に従っている。

 たまに横合いから槍を突き立てられ、命を散らす騎兵や馬もいるが、驚く程犠牲は少ない。

「進め!!!ブリタニアの兵士達!!!勝利は目前だ!!」

 しかし、アルトリウスはそういった瞬間、目を見張った。

    うおおおおお

 突如、サクソン軍右翼からの喊声が上がる。

 サクソン軍右翼が本陣の危機を見て、慌てて駆けつけてきたのだ。

    どどどっ

 未だ統制を保っていた右翼のサクソン戦士達が、ブリタニア軍の横合いから長槍を連ねて迫り来る。

「ぐっ!?此処まで来て・・・・っ!!」

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