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第42章 激突(その五)

    びゅうううううううう・・・・

    どどどおおおん・・・

    どかああん

    ぼわっ  ぼわっ

 火炎弾が次々とサクソン軍の陣営に炸裂し、少なくない損害を与え続けているが、サクソン軍はじわりじわりと丘の上のアルトリウスの元に迫る。

 火炎に巻かれ、熱風に肌を焼かれてサクソン戦士達は右往左往しているものの、ヘンギストが本陣を前に出し、後方から前線の戦士達に圧迫を加えることで指揮系統を維持していた。

 敗走しようとする者は容赦なく殺すよう護衛の戦士達に命令し、命令された戦士達もその命令を忠実に果たし、後方へと下がってきた槍戦士や下級戦士達が命乞いする暇も無く長剣がその首や身体に叩き付けられる。

 最早空腹を突き抜け、飢餓状態に近づきつつあったサクソンの下級戦士達に戦意は無く、ただ上級の戦士や族長から後退すると切り捨てられてしまう為に前へ進んでいるだけである。

 サクソンの下級戦士達にとっては、前にいるブリタニア軍の方が、後方に居る自分達の上位者達よりも与しやすいと思うほか無い状態であった。

「・・・総司令官、まだでしょうか・・・?」

「ああ、しかし、もう少し我慢してくれ、ヘンギストが心底しびれを切らして近寄って来ないことには話にならない・・・」

 サクソン軍の後方で繰り広げられている地獄絵図を薄々感じ取りながら、アルトリウスは周囲の護衛騎兵達が焦れて問い掛けてくる度にそう答えて宥めていた。

「もう少しだ、もう少しすれば、その時がやってくる。」

 誰に聞かせるとも無くつぶやくアルトリウス。

 その視線の前には、密に群がる蟻のようなサクソン軍10万が、丘を包囲し、じわじわと押し詰めて来る様子が映る。

 相変わらずラールシウス率いるサクソン軍左翼の動きは鈍いが、今この時点でその動きを宛てにすることは危険であろう。

 万が一、内応の約束自体が罠であった場合も考えておかなければならない。

 内応の約束が本当であっても、このままブリタニア軍が押し込まれて敗走するようなことになれば、約束をその時点で反故にする可能性もある。

 恐らく、ラールシウスとしてもブリタニア軍の有利不利を見極めた上で内応するか否かの判断を下すつもりであろう。

 今のところ進撃を遅らせている以外に目立った動きが無い事もそれを証明していた。

「一気に本陣を衝いてヘンギストの首を取る・・・!」

 愛馬の手綱を握りしめ、アルトリウスはその時が来るのを待つ。


「よおおし、仕上げだ!一斉連続射撃に入るぞ!!」

   うおっしゃあああ

ガルスのかけ声に、野太い重兵器兵達の唱和が答える。

「連続発射用意!補充兵と護衛兵は割り当て通り各重投石機に装填要員として入れ、危険は承知だ、火炎弾は割り当てられた重投石機の近くに寄せろ!」

 火炎弾の残りが各重投石機に付き30発を切り始めた事を見計らい、最期の仕上げに移るべくガルスが指示を下す。

 本来は事故が発生した際の誘爆を防ぐ為、火炎弾は発射兵器から少し離れた場所に保管されているが、装填時に保管場所からの搬送が必要で、発射速度が遅くなるという欠点がある。

 油のたっぷり詰まった火炎弾は、例え搬送だけと雖も気を遣う代物で、万が一落として割ってしまった時には大惨事となり兼ねない。

 火が無ければ当然点火はしないが、そこは戦場であり、火は敵味方を含めて至る所にある。

 火矢の一発、松明の落下事故で全滅という事態も起こり得る。

 その為、別の場所での保管という手段が取られているのであるが、ガルスは敢えてこの禁を破り、発射速度を上げる事に賭けた。

 幸い敵にはまだ発見されていない上に、超遠距離射撃の実現で、例え見つかった所で重兵器を持たない敵からの応射の心配も無い。

 またアルマリックとグラティアヌス、そしてアンブロシウスの率いるブリタニア諸侯軍がここからアルトリウスの後方へ向かい、アエギティウス率いる西ローマ軍がアルトリウスの左翼へと向かっている為直接弓矢の攻撃受けるまでに接近される心配も無い。

 もしヘンギストが重兵器隊の位置を何らかの方法で探り当て、分隊を派遣したとしても途中で迎撃される事は確実であるからで、また予期せぬ部隊の出現にサクソンは重兵器どころでは無くなるだろう。

「・・・よおおし、射撃止め!発射準備急げ、完了した基は全基装填終了までしばらく待て!!」

 ガルスの号令で、身体から湯気を立てて弾を発射していた重兵器兵達が大きく息をつき、しばしの休憩を取る。

 その間に補充兵と護衛兵が残った火炎弾を運び込み、発射台に火炎弾を装填してゆく。

「1号機装填完了!」

「2号機装填完了!!」

「7号機装填完了!

「10号機装填完了!」

 威勢の良い準備完了報告が次々と寄せられる。

 装填の完了状況をチェックしていたガルスの副官が、報告が聞こえる度に石版へチェックを入れる。

「18号機装填完了!!!」

そして副官は最後の報告を受け、石版へチェックを入れてからガルスに顔を向けて申告する。

「ガルス総監、全機装填完了です。」

「よし、なかなか早いじゃないか、日頃の訓練の成果が出たな!」

「はっ。」

 副官の報告に満足そうな笑みを浮かべて答えるガルスに、副官は律儀に一礼して返事を返した。

「・・・では、最期の仕上げだ!!ブリタニアの地獄の釜を開くぞ!!!」

   うおう!!!

「一斉連続射撃開始!!」

   了解!!!!

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