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第35章 劣勢

アルトリウスは馬上から戦いの余燼冷めやらぬ戦場の様子を眺める。

周囲はかなり遠くまで火矢や放火の跡があちこちに残り、うっすらと煙を立ち昇らせていた。

血や泥で汚れてはいるが、金属のきらめきを失わない鎧を纏ったブリタニアの兵士や、粗末な上位を羽織っただけのサクソン人の槍戦士たちが、命の光を失った瞳を開いたまま折り重なって大地に倒れ伏している。

アルトリウスがいつも通りの戦場の凄惨な光景を無表情で眺めていると、後方からクイントゥスが同じように馬に乗ってやって来た。

後方に護衛の騎兵とは違う装いの騎馬兵士を数騎、伴っている。

おそらく各地の戦場から派遣されてきた伝令であろう。

多かれ少なかれ、長い距離を疾駆してきた事が容易に窺えるくらい装備は薄汚れ、顔は一様に髭面で、更には疲労の色が濃く見て取れた。

「総司令官、残念ながら勝ったのはこことアルマリック卿のところだけのようです、グナイウス副司令官が痛みわけ、ティトウス歩兵司令官は敗れましたが、サクソン人にも大打撃を与え、その進撃を押し止める事ができたようです、トゥルピリウス隊長の部隊も、サクソン人の数に圧倒されてまともには対戦できず、引き上げました。」

「そうか・・・他の諸侯はどうだ?」

「コリタニア卿は敗走、アンブロシウス総督、ボーティマー卿は惜敗、マグヌス卿、マグロクヌス卿は引き分け、との早馬が入っています。」

「・・・そうか・・・。」

 肩を落とすアルトリウスには、サクソン王ヘンギストの高笑いが聞こえる気がした。

 アルトリウス帰還の情報を得たサクソン軍は、1年の期間を置いて攻勢を手控えるどころか一斉に大規模な攻撃を仕掛けてきた。

 しかもサクソン人は、アルトリウスらローマの系譜を引く将官達が得意とする、正面切っての会戦方式の攻撃を仕掛けるのではなく、各地の都市や村邑を同時に攻撃するというゲリラ戦法的な方法を取ったのである。

 防備の薄い、しかも小規模な場所まで一斉に攻撃され、ブリタニアは大混乱に陥った。

 知らせを受けたアルトリウスが軍を整え、襲撃現場に急行したときには、焼け焦げた村の跡しか残っていないといった状況が更に3年間続く。

 こうした方法は本来の蛮族的な攻撃方法ではあるが、今までサクソン人はブリタニア側の防御拠点をすり抜けての攻撃はほとんど行っておらず、例えそうした場合でも急報を受けた近隣の軍駐屯地からブリタニア軍が駆けつけて、本隊が到着するまでの防御に当たっり、上手く対処していたのである。

 それがここに来て破綻してしまった。

 兵力を集中させるのではなく、逆に分散させてブリタニアを襲ったサクソン人に、ブリタニア軍は同じように軍を分散させて対応せざるを得なかったが、それが還って戦力差を広げてしまう結果となったのである。

基本的な兵力差に大きな差があるため、例えば全兵力を結集して戦えばそれなりにまとまった兵力を揃えられるブリタニア軍も、各地に兵力を分散させてしまった事で各個撃破される場面が増えてきた。

しかし不利であることが分かっていても、暴虐なサクソン人に襲われている村落を見捨てる事は出来ず、ブリタニア軍全体がじりじりと兵力を削ぎ落とされる事態となっていたのである。

今日、アルトリウス率いるブリタニア軍は各地のブリタニア勢力圏に浸透しているサクソン人を追い出すべく、地域の有力者達を巻き込み、ブリタニア全土での一斉反撃に出たが結果ははかばかしくない。

アルトリウスは3000の兵を率いてカストルム近郊まで迫ったサクソン人部族10000を撃破していたが、各地の兵力差は作戦や個人の武勇では埋めようが無いくらい広がっており、戦勝を得たのは僅かに2箇所のみ。

「・・・このままでは、ブリタニアが負けてしまう。」


 アルトリウスは天を見上げ、悔しそうに歯噛みすると、傍らからクイントゥスが声を掛けてきた。

「我々も勝ったとはいえ、戦果は芳しくありません、辛勝といったところです。」

 無言で天に向けていた視線をクイントゥスに戻すと、アルトリウスは力なく頷く。

 撃破と言えば聞こえは良いものの、実際は追い払ったという表現がより的確であろう。

 さすがのアルトリウスも3倍以上の兵力差で、自分の手持ちがわずか3000ではやれる事は限られている。

 かつてはこれ以上の兵力差で蛮族軍を討ち破った事もあったが、今回は長年の戦いで手の内を互いに知り尽くしているサクソン人相手であり、また10000という数字はあくまでも男の戦士の数だけを示したもの。

実際戦闘に加わる女子供や老人を入れた数字ではない。

 戦いに参加していた人数という事であれば、20000近くなるサクソン軍を相手に、味方を敗走させずに拠点防御を行うのが精一杯であったアルトリウス自身がその事実よりよく知っていた。

「しかし、勝ちは勝ちだ、カストルム近郊のサクソン勢力はこれで減退した、各地も負けたり引き分けたりだが、反撃されたという事で少しは攻勢も鈍るだろう・・・」

 半ばそうあって欲しいという期待を込めてアルトリウスはつぶやくと、クイントゥスの方を振り返って配下の兵士達をまとめるよう指示を出す。

「・・・ひとまず引き上げだ、全体の損害と戦果の確認をする必要がある。」

「分かりました、各地からの伝令に休息を取らせた後、再びもとの場所へ派遣し、各地の長をカストルムに召集します。」

「うん、頼む。」

 アルトリウスの返事を聞いたクイントゥスは、さっと馬首を返し兵士達に指示を伝えるべくその場から立ち去った。

 伝令たちもため息を吐きつつクイントゥスに続いて馬首を返す。

 その後姿を見送ったアルトリウスは、再び眼前に広がる戦場へと目を移した。

「・・・果たして生ある内に平穏なブリタニアを見ることが出来るのだろうか・・・」

 アルトリウスの言葉に還ってくるのは、生臭い戦場の臭気を含んだ微風だけだった。


 1週間後、カストルムの会議場には錚々たる顔ぶれが集まった。

ブリタニア並びにアルモリカ総督アンブロシウス・アウレリアヌス・カストゥス。

ブリタニア軍総司令官、ルキウス・アルトリウス・カストゥス。

ブリタニア軍副司令官、グナイウス・タルギニウス。

ブリタニア軍歩兵司令官、ティトゥス・クロビウス。

護衛騎兵隊長、トゥルピリウス。

 ブリガンテス王マグヌス。

 ダヴニー地方知事アルマリック。

 ブリガント地方知事ボーティマー卿。

 北カンブリア地方知事マグロクヌス卿。

 エボラクム市長コリタニア卿。

 1週間前の総反撃作戦に参加した主だった者だけでも、これだけの有力者がいる。

その他にもブリタニア総督府の主要官僚や将官、グラティアヌスら今回の総反撃には参加しなかった地方有力者達も参加していた。

「残念ながら、一時サクソン人を押し留める事は出来たようだが、期待していたような停滞状態を作り出す事は出来なかった、作戦は失敗したと言わざるを得ない。」

 開口一番、アンブロシウスがそう言うと、議場からはため息とも悲鳴とも取れるうめき声が上がった。

 アルトリウスが諸侯やブリタニア総督府の面々を説得し、徐々に後退していた勢力圏を一時なりとも押し戻すべく敢行された作戦であったが、寄せる波をほんの一瞬防いで消え去る砂の堤にしかなり得なかったのである。

 しかし、波は次々に押し寄せてきている。

「折角確保していた優位も、わずかな月日が元に戻してしまった、と言う訳か・・・」

 グラティアヌスがつぶやくようにそう言うと、それを聞きとがめたアルマリックが言葉を投げかける。

「それはアルモリカ遠征のことを言っているのか、グラティアヌス?」

「・・・」

 黙りこんだグラティアヌスに、怒りも露わなアルマリックが言葉を更にぶつける。

「あの情勢で遠征は仕方なかったのだ、それを今更蒸し返してどうなるというのだ。」


「おいおい、よせやいアルマリック、ここでいがみ合ってもしかたねえぞ?普段冷静なお前さんらしくもねえな。」

 マグヌスがおどけた様子でそう言いながら、掴み合いを始めそうな勢いでにらみ合う2人の間に入る。

 アルマリックは握り締めた拳を解き、グラティアヌスは眉間のしわを薄めてしぶしぶながらもマグヌスの仲裁を受け入れようとしたが、そこにまた新たな火種を投げ込む者が現われた。

「・・・ふん、王などと名乗っていてもまともな戦勝も上げられん無能が仲介とはな、ブリタニアとやらも墜ちたものだ。」

 傍らでアルマリックとグラティアヌスのいがみ合いを眺めていたマグロクヌスがじろりとマグヌスを睨みつけながら言うと、思わぬ所からの罵声に一瞬鼻白んだマグヌスだったが、直ぐに額に青筋を浮べる。

「・・・何だとてめえ・・・高見の見物で日和見こいてた奴が言う台詞かよ!城を攻め立てられて泣きいれた屁垂れが偉そうに語ってんじゃねえぞ!」

「・・・敗北を喫した我々に発言権は無いとでもいうのかな?」

 マグヌスの言葉に穏やかな口調ですかさず反応を示したのは北のエボラクム市長を務めるコリタニア卿。

 サクソン人の北進に悩まされ続けていた北の有力者は、ブリタニアへの参加を早い段階で表明してはいたものの、遠隔地であるが故に本格的な参加は今回が初めてとなる。

 しかし初陣を飾る事ができず、残念ながら今回の総反撃では良い所無く敗北を喫していた。

「ふん、誰かと思えば大儀に阿る事が好きな御仁ではないか、その通り、敗れた者は口をつぐめ!」

 マグロクヌスがせせら笑うように嘯くと、コリタニア卿は表情を強張らせる。

「・・・ならば貴殿などアルトリウス総司令官に敗れた日から発言権など無いのでは?」

 穏やかながら鋭い刃のような言葉を放ったボーティマーに、思わず目を剥くマグロクヌス。

 マグロクヌスはマヨリアヌスの誘降工作に従わず、アルトリウス率いるブリタニア軍の急襲を受けて敢え無く降伏したという経歴を持つ。

「若造が・・・!」

 その過去を、未だ年若いボーティマーに揶揄され、マグロクヌスの怒気が目に見えるように広がった。

「・・・そこまでにして戴きたい、暴言の応酬をしてもらう為にわざわざ集まってもらったのではないのですよ。」

 アルトリウスの発言にようやく議場は少し落ち着きを取り戻した。

「・・・とにかく、今の劣勢を覆せるだけの画期的な材料が無い限りは、サクソン人の挑戦や挑発は敢えて受け、反撃を逐一加えていくしか方法がない、黙って侵攻を放置する事は許されず、これを許した場合はブリタニアは薄皮を剥ぐように領土を少しずつ削ぎ落とされ、最後には全てを失ってしまう。」

「しかし、『逐一反撃しろ』といわれても、我が兵は少なく敵は多い、まともにぶつかっては少しずつどころか、一発で全てを失ってしまう。」

 アルトリウスの言葉に、コリタニア卿が反論する。

「隙を作って会戦方式の戦いに巻き込むしかないのではないでしょうか?」

 アルトリウスに代わって、グナイウスがそう発言すると、マグロクヌスが皮肉っぽく口を歪めながら発言する。

「・・・その誘いに乗ってこないから、我々は苦戦を強いられているのだぞ、会戦では我々が常に勝利を収めてきた、それ故に今の戦い方を敵が選択したのであろう?敵も馬鹿ではない。」

 マグロクヌスの言葉を、アルマリックが補足する。

「それに、こちらから攻め込もうとすると、必ず遠隔地で大軍を催しているしな、慌ててこちらが軍を返すと、もう事は終わった後で、ブリタニア軍はいつも間に合わない。」

「・・・」

「・・・」

 議場の参加者がマグロクヌスとアルマリックの言葉に黙りこくってしまう。

「・・・打つ手なしか・・・」

アンブロシウスがぽつりとこぼした言葉が、今のブリタニアの情勢の全てであった。


アルトリウスは閑散とした議場に、居残ったグナイウスらブリタニア軍の将官達を集めた。

先程までの喧騒が嘘のように静まり返った薄暗い議場に、続々と集まってくる将官達。

一様に暗く、沈痛な表情をしている。

「戦闘に、会議にと疲れているところすまないな。」

 アルトリウスの言葉に、グナイウスが首を左右に振る。

「いえ、今は疲れなど感じている場合ではありません、自分たちの力不足を痛感するばかりです。」

「総司令官の足を引っぱちまうとは、不甲斐なくてため息も出ませんや。」

 肩をすくめながらそう言ったのは、歩兵司令官のティトウス。

 先の総反撃では活躍したものの一歩及ばず、サクソン人の部族長こそ1人討ち取ったものの、敗北を喫して駐屯地へ引き上げを余儀なくされていた。

「気持ちは・・・同じです、自分はため息しか出ませんが・・・」

 護衛騎兵隊長のトゥルピリウスは、ため息を吐きながらうなだれる。

「・・・我が力も不足・・・折角帰参したが・・・これでは立つ瀬が無い。」

 総反撃ではブリタニア軍としてではなく、地方有力者としての立場から参戦していたボーティマーも、肩を落としていた。

 多かれ少なかれ、ブリタニア軍の将官達は今回の作戦失敗に責任を感じている。

今回の敗戦以外にも、最近の如何ともし難い劣勢、更には先行きの見通しが立たない事が、将官達の表情をより一層暗いものとしていた。

「一つだけ手が、無いでもない・・・が、危険も大きい、みんなの意見を聞きたい。」

 それまで集まった将官達の暗い表情を眺め、その将官達が不安や後悔、謝罪の言葉を口にする様子を黙ったまま聞いていたアルトリウスが、徐に口を開いた。

「・・・会戦に乗ってこない敵を誘い出す。」

「しかし、敵がその会戦へ容易に乗ってこないが故に、我々は苦戦を強いられているのだと思いますが・・・?」

 アルトリウスの言葉にすかさずグナイウスが疑問を呈した。

 アルトリウスは、グナイウスの言葉に苦笑しつつ、言葉を継ぐ。

「その通りだが、良い方法がある、私自身を囮にするのだ。」

「・・・!」

「それは・・・余り賛同できませんな。」

 副官のクイントゥスが棒を呑んだような顔でアルトリウスを振り返り、ティトゥスが渋面で苦言を呈す。

そして徐にグナイウスがすかさず反対意見を述べた。

「・・・ブリタニア軍は今や精強の名を持つにふさわしい軍とはなりましたが、未だ総司令官あってこその軍であるという面もあります、ブリタニア軍は、ルキウス・アルトリウス・カストゥス総司令官が率いてこそ、その威力と盛名を得ているのです。」

 それは、この場に集まったブリタニア軍の将官達全員の意見を集約したものであった。

「・・・故に、我々はその案に断固反対いたします。」

 グナイウスが自分の言葉をそう締めくくると、アルトリウスは首を左右に振りながら、諭すように口を開く。

「そうではない、相手がこちらの動きをほぼ完全に読んでいるのは、以前に我々が構築した地域住民による早期発見警戒の情報網を真似たからだ、脅迫と暴力によって、だがな。」

 かつてアルトリウスが構築したこの情報網は、大陸出征によってアトラティヌスらが抜け、更にはブリタニア軍が徹底した守勢に回ってしまった事で、上手く機能しなくなってしまった。

それどころか、この情報網の存在を察知したサクソン王ヘンギストの策謀により、協力者だったブリタニア農民達は放逐され、更には脅迫と暴力で逆にブリタニア軍の動向を探る役目を負わされていたのである。

その報酬は、自分の命と農地の保全。

本来自分のものであるはずの命と財産を質に取られ、サクソンとブリタニアの勢力境界付近の農民達はサクソン人の威令に服せられる事態となっている。


 アルトリウスは、この事態を更に逆手に取る事を思いついたのである。

「私が少数の部隊を率いて出陣するという情報を察知したヘンギストはどう動くか?おそらく大挙してサクソン人を私の元へと雪崩れ込ませるだろう。」

 アルトリウスの言葉に頷く将官達。

「そこであらかじめ主力を率いたグナイウスが別の場所にいると見せかけて、私の率いる少数の騎兵隊から少し離れた位置に隠れ、サクソンが迫った時に大きく迂回して、サクソン人の後ろに回る、そうしてサクソン人の裏をかくのだ。」

 アルトリウスが言うと、将官達に少し不安を覗かせる者が出る。

 今まで言いようにしてやられていたのに、そう簡単に事が運ぶだろうか?

 そうした将官達の不安を代弁するべく、グナイウスがアルトリウスに疑問を呈した。

「・・・しかし、そう簡単に敵がその手に乗ってくるでしょうか?総司令官も先程言われたとおり、敵も馬鹿ではありません、しかも情報網を握っているのは今やサクソン人なのです、逆に罠に嵌めれるのは我々、という事も有り得ます。」

 アルトリウスは首を左右に振りながら静かに微笑んだ。

「情報網に関しては、私に考えがある、任せて貰いたい。」

「・・・それは・・・了解しました。」

 グナイウスはなおも言い募ろうとするが、アルトリウスの抱える間諜集団に思い至ったのか、途中で口をつぐんだ。

 その様子を見たアルトリウスは笑みを深くしながら頷くと、更に言葉を継ぐ。

「情勢といった点も心配ないだろう、敵は勝ちに驕っている、更には我々が起死回生の一手を打って来る事も不思議ではない情勢であるし、おそらく情報を得た時点でヘンギストはブリタニアのアルトリウスが破れかぶれになったとほくそ笑むだろう。」

 アルトリウスの言葉に、ようやく将官達は顔を上げ始める。

 段々と、勝てる気がしてきたのである。

 将官達から何をやっても無駄だという陰気さが消え、全力で事に当たろうという気概が満ち始めた事を感じ取ったアルトリウスは、声を励まし、将官達へ指示を下した。

「・・・作戦開始は1週間後、疲れている所悪いが、兵には3日だけ休養を取らせた後、直ちに準備に入ってくれ!・・・それから、本作戦は情報秘匿を第一にしたい、官僚や議員、地方有力者達には一切伝えないように、部隊移動の名目は周辺地域の哨戒と訓練、部隊は一度分散して出陣した上で、集結し、敵の情報網が崩壊したのを確認した後、予想される戦場へグナイウスの指揮の下向かう事とする!・・・それから、トゥルピリウス!」

「・・・はっ!」

 それまで脇に控えていたトゥルピリウスが、アルトリウスの呼びかけに応え、一歩前へと進み出る。

「ご苦労だが、私と共に護衛騎兵を率いて貰う、危険な役目だが、よろしく頼む。」

「・・・一命に変えましても、先の戦いの汚名を濯いで見せます。」

きりっと表情を引き締め、胸に手を当てたトゥルピリウスはそう言うと、直ぐにマントを翻して議場から立ち去った。

「それでは散会!作戦秘匿のため、1週間後まで将官達の会合は禁ずる、以上!」

アルトリウスの言葉をきっかけにして、出入り口に近い将官達から、次々と議場を立ち去ってゆく。

そこに敗軍の将の姿はない。

 強大な敵に立ち向かう、勇気ある男達の背中だけがアルトリウスの目に映っていた。


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