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第3章 ブリタニア軍創設

カストゥス家はエクイテス(騎士)階級では中級の家柄で、帝政初期にはるばるローマからブリタニアに徴税吏として赴任したのが始まりとされている。

やがて一族はコーンウォール地方一帯に広くすむようになり、土着のケルト系の人々と交わりながら、いつしか徴税吏から広大な土地を所有する地方豪族として、コーンウォール地方のいくつかの小さなキウィタスを任されるまでに勢力を拡張した。

キウィタスとは小規模都市を基盤とする、ブリタニア特有の地方行政組織で、ケルト系ブリタニア人部族の勢力地域をローマが支配すると、その中心地に小都市を築いて行政の単位としたものが起こりで、形としてはローマの行政組織を部族社会の上に乗せた形の折衷的なものである。

キウィタスは、支配された部族の領域ごとに置かれ、未開のケルト人諸部族に都市生活を受け入れさせ、ローマの文化を伝播する中心的な役割を果たしてきた。

キウィタスの行政官にはローマ人が就くものの、各キウィタスで100名が選出された都市参事議会にはローマ人以外のそれまで族長だったものや部族の主だった者も参事議員として列された。

アルトリウスの生きた時代、ローマ帝政末期になると、それまでうまく機能していたこのシステムが、ケルト人を起源とする地方豪族たちの伸張により阻害され始める。

ローマ軍の度重なる様々な形の引き抜きによって、力の後ろ盾を失った行政機構が弱体化し、各キウィタスや都市の参事議員や豪族達が専横を振るうようになったのである。

誰もが自らの小さな利のみを追求し始めた為、個々の領地や支配領域で細切れにされたブリタニアは、豊かな生産力を有しながらその経済基盤や流通に滞りを生じさせ、果ては軍事の基本たる兵士すら各豪族や部族がその小さな単位で保有し、あらゆる力をよりよく、そして効率的に集中させて使うことの出来ない、いびつな形になりつつあった。

それに加えて北、西、さらには東から敵性勢力の侵入が相次ぐようになったことで、その細切れの力は各個撃破され、ブリタニアの力は徐々に削ぎ落とされていたのである。


この斜陽の時代にあって、カストゥス家はうまくケルト起源、いわゆる土着の地方豪族と付き合い、交わりながら勢力を扶植し、ブリタニアで貴重なローマ人起源の地方豪族へと成長した。

カストゥス家は、地方豪族とは言いながらも、ローマ人起源であり、また失われつつあったローマの公共心を、辺境の地にありながら堅く守り続ける家であった。

歴代当主は、自身の勢力伸張とともに、ローマの行政組織の健全な維持にも腐心し、当主は、ブリタニアの主要都市であるロンデニィウムの行政長官を務めるまでになっていた。

一族の者達も同じくブリタニアのローマ側の組織の重職に就き、ローマから派遣されてくる官僚や軍指揮官と土着の地方豪族との橋渡し役として重きを為した。

 

その一族の現当主、アンブロシウス・アウレリアヌス・カストゥスは悩んでいた。

「・・・・・」

コンスタンティウスがブリタニア軍の大半を率いてガリアに出征してからすでに2ヶ月が過ぎた。

その出征に際し、ブリタニア各地の行政官達の多くが同行したため、それまでもうまく機能していたとは言い難いブリタニアの行政機構はかなりの痛手を被った。

「・・・参った、これ程までとは・・・・」

 徴税権が地方豪族の手で好きにされ始めてから久しいが、それでもこれまでブリタニア行政府と駐屯軍が必要とする物資や資金は確保されていた。

 それが軍の出征でほぼまったく機能しなくなった。

 いや、地方豪族があからさまに徴収した各税の供出を渋ってきたのだ。

 出征軍に同行したブリタニア総督から総督代行に任命され、ブリタニア各地の行政連絡機構を再構築した後、兵数の減った軍を立て直すべくブリタニア中から兵士を徴募して補充の目処をつけ、東海岸の砦と狼煙台を修築して海賊対策に一定の効果を収めるなど、わずか2ヶ月でその辣腕を思う存分振るってブリタニアの小康状態を現出したアンブロシウスであったが、その結果行政府の金庫はほぼ空になった。

「金がない・・・」

アンブロシウスは行政府をロンディニウムに設置し、北のエブラクム、リンドルム、西のグレバウム、そして南のポゥトルゥスマグナムを行政府の直轄都市として押さえ、流通と市場をまず掌握した。

各都市の参事議員はローマ人やローマに強く好意を寄せる部族長を送り込み、行政長官は全て自分の息の掛かった者を任命した。

それでもこの体たらくである。

アンブロシウスはしかし、一時頭を抱えただけで済まさざるを得なかった。

人心の荒廃を嫌と言うほど思い知らされる事となった自らの境遇を嘆く暇すら与えてもらえず、次から次へと難問が立ち塞がっているからだ。

サボタージュは今に始まったことではないものの、アンブロシウスの中途半端な権限と立場も、地方豪族の格好の理由となった。

いわく、正式な行政長官ではない、と言う事だ。

正規にはあくまでローマ皇帝から任命され、コンスタンティウスに同道してその職務を放棄した、ウィカリウス(総督)が行政機構の長であり、あくまでアンブロシウスはローマの正規官僚ではない、臨時の代行職である。

彼が正規に行政権限を持っていたのは自分のキウィタスに対してと、ブリタニア総督の命を受けて発するものだけであった。

アンブロシウスはかなりの私財を投入し、かろうじて残されたロンデニィウム行政府の公金とを併せて遣り繰りし、何とかこの2ヶ月の手当てを付けていたが、もはや限界であった。

「総督代行、知らせが・・・・来たのじゃが?」

アンブロシウスの悩める姿に、少し戸惑いを見せながら粗末な木片を握り締め、純白のトーガを纏った老人がアンブロシウスの執務室に入ってきた。

落ち着きに澄んだ黒い瞳を持ち、髪と長い顎鬚は纏っているトーガと同じ真っ白で、古代ギリシアの哲学者を髣髴とさせる風貌を持った老人は、顔を上げたアンブロシウスにゆっくりと近づいた。

「ああ、マヨリアヌス先生、少し哲学的な気持ちになっていたところです、ご心配には及びません」

「・・・その哲学とは、黄金の色をしているのかね?」

アンブロシウスの言葉に苦笑しながら、その老人、マヨリアヌス・エムリウスは答えた。

「正に、ですよ、先生・・・目まいがする位輝いています・・・ところで、また悪い知らせが来たのですか?」

アンブロシウスは目ざとくマヨリアヌスの手にある木片を見つけ、苦笑でそう返す。

「うむ、悪い知らせと少し良い知らせがある、まず・・・悪いほうからいこうかの?」

「御願いします。」

「・・西のカンブリア地方へヒベルニア(現アイルランド)の海賊が大規模な襲撃を掛けて来た、兵数や情報から見るに、ヒベルニアの族長どもが本腰を入れてきたようじゃな、幸いもう引き上げつつあるが・・・」

「・・・・少し良い知らせを御願いします・・・」

「うむ、北のエブラクム近郊で、アルトリウス軍がベリウス軍を撃破した、完勝じゃ。噂はすでにピクト人に聞こえ、北はこちらへの攻撃を手控える気配を見せておる、同時期に進行してきたダルリアダの軍は既に引き上げ始めとるらしいの」

 その知らせを聞き、アンブロシウスはほっと胸を撫で下ろす。

「そうですか、アルトリウスがやってくれましたか」

 ブリタニアからローマ軍が出征して以来、ほとんど見られなかった笑顔がアンブロシウスの顔に浮かんだ。

「わずか500の兵で・・・無理をさせてしまった・・・」

 アンブロシウスが一安心した様子に、マヨリアヌスはわずかにほほを緩め報告を続ける。

「ベリウスは敗死、一族の主だったものの討ち取られ、奴めの領地を狙って周囲の部族が早くも牽制しあっておるようじゃ、ダルリアダの連中が引き上げたのも、半分はそれが目的じゃろうて」

 アンブロシウスは額に拳を当てて、うつむいた後、顔を上げた。

「アルトリウスは、他に何か行って寄越していますか?」

「・・・いや、何も言ってはおらなんだようじゃ、伝令は戦場の見たままを伝えるよう託されたそうじゃがな」

 アンブロシウスは再び額に拳を当て、今度はしかめ面で考え込んだ後、おもむろに口を開く。

「本当ならベリウスの領地を接収するべく動くべきですが、兵も将も余裕がありません、アルトリウスは一旦ロンデニィウムへ撤収させ、都市参事議会へ出席させましょう、せめてブリタニア残留軍の司令官へしてやらねば」

アンブロシウスのその言葉にマヨリアヌスは顔をしかめる。

「時期尚早ではないかの、アルトリウスはまだ若すぎる、それにブリタニアをカストゥス家で掠め取る算段だと無用の誹りを受けかねん、マルクスやグラティアヌスの二の舞じゃ」

マルクスとグラティアヌス、この2人は既にこの世の人ではない。

両名とも、ブリタニア総督府の正式なローマ帝国官僚としてそれなりの地位と能力を持った人間であったが、その責任をブリタニアの、主にブリタニアの豪族達の意に沿う形で果たせなかったがために、何者かに相次いで暗殺されてしまった。

たった数年前のことであるのに、暗殺者が誰であったか、またその暗殺者に影響力を行使したのが何者であったかということは、暗黙のうちに闇へと葬り去られてしまった。

しかし、アンブロシウスは師の言葉にもきっぱりとした表情で動揺なく言い切った。

「いえ、せめてアルトリウスに残留軍の指揮権だけでも正規に持たせなければ、ブリタニアそのものが立ち行かなくなります、幸い今回の戦闘で実力は証明できたでしょう」

その言葉にマヨリアヌスは、ふ~むと顎鬚をしごきながらしばらく考えてから口を開いた。

「・・・アルトリウスの部隊にはしばらく北方に留まるよう指示し北の守りを手厚くすれば、北方の大豪族ボルティゲルンとその係累、およびローマ都市ディーバ(チェスター)の支持は取り付けられよう、今回の戦勝で利を受けておるし、部隊の駐留でこれからも利を受けられると思わせられる」

マヨリアヌスの言葉に、アンブロシウスは肩を落としながら応じた。

「ボルティゲルン殿などは、今回アルトリウスの協力依頼にも、支度と言いながら自分の城館へ引きこもってしまっていたそうですから・・・期間は伏せてアルトリウスに北方の守備に当たるよう指示しましょう」

「うむ、私兵を領地に引き上げて戦々恐々の他の豪族共も、否とは言うまい、自らの兵を損なわず領地を守れるのじゃからな」

 苦笑いを浮かべマヨリアヌスはアンブロシウスの言葉を継いだ。

「全く、今のブリタニアは直に利益を受けなければ動かない者ばかりじゃ、ローマ気風は正に字の如く、どこ吹く風、と言う訳じゃ」

「しかし、利さえ与えれば動かすのは容易いということでもあります」

 アンブロシウスがそう言うと、マヨリアヌスはニッと笑みを作った。

「わしは優秀な生徒を2人も持てて実に幸せ者じゃな、家庭教師冥利に尽きるわい!それでは、総督代理、ブリタニアの属州会議をロンデニィウムで開くということで、如何?」


アンブロシウスとマヨリアヌスは、アルトリウスにそのまま北方に留まるよう、アルトリウス軍の伝令に伝えて返すと、早速貴重なパピルス紙や羊皮紙を使用し、ブリタニア各地の有力者や官僚へ手紙を書き始めた。

ブリタニア全土で28あるキウィタスや1ロンデニィウム以外の10大都市の都市行政長官、また有力な豪族や参事会議員宛のその手紙には、ブリタニア全体の会議を催す事、この会議で暫定的と前置きをしながらも、ブリタニア軍司令官と、行政長官を選出することを明記した。

また、当然その個人に宛てた協力依頼と見返りも記入し、アンブロシウスは自分の望む形で会議が進むよう根回しと多数派工作を行うことも忘れなかった。

近隣の豪族や都市、キウィタスへは直接出向いて自分の動議に賛成をすること、その賛成については金銭を含む様々な形での見返りを約束し、協力を取り付けた。

内部分裂の様相を濃くするブリタニアではあったが、団結して事に当たってこの難局を乗り切ろうとする意志はかろうじて残されていた。

誰もがこのままでは身の破滅を迎えるしかないという事は感じているものの、ではそれに対して一体何をどうすれば良いかと言う事については、誰も答えを出せないでいるのだ。 

しかしながら、答えはある。

強いローマを再建することである。

だが、最近のブリタニアの人々にとって、ローマとは自分達の生命家族、財産やそれらの未来を守り、維持してくれるものではあったが、自らの財産や生命を投げ出し、犠牲にして保つものでは無かった。

かつてはローマ帝国に住まう、全ての臣民が持っていた公共道徳や社会正義に対する精神は、ここブリタニアでも失われて久しい。

団結、と聞こえはいいが、実際はお互いにもたれあいで何とかなるだろうという打算的で子供のような甘えの気持ちが有力者の間にある事は、アンブロシウスも分かってはいたが、それでも無関心では無い事がせめてもの救いであると思っていた。

そして、アンブロシウスとマヨリアヌスの工作は功を奏しつつある。

全ての有力者達が、属州会議に参加すると表明をしてきたのだ。

有力者達も今の状況が打開できるのであれば、という気持ちが参加表明の文書や返答に現れていた。

皮肉にもコンスタンティウスのブリタニア軍大陸出征で、ブリタニアの有力者達の危機感を強く刺激していたのである。

属州会議は1週間後に開くことが決められた。


属州会議の開会が決定されてから予定通り1週間後、ロンディニウム都市参事議会議場は、百人あまりの様々な男達に埋め尽くされていた。

 かつては身分序列や行政官の職名順で席次が決定され、その席次の決定に数日を必要とした参事議会議場であるが、この日は概ね到着したものから順番に議席へ着くことがあらかじめ伝達されていた。

しかし長年の習慣からか、演台右側にトーガを着たローマ人官僚や各都市、及び各キウィタスの参事議員代表や行政長官、左手に戦装束を身に付けたケルト系の有力豪族が座り、その中間にケルト系の官僚や参事議員、及び数は多くないもののローマ系の豪族達と言う、中立的な立場にある者たちが席に付いていた。

実のところ、席次については一悶着あり、のっけからアンブロシウスを悩ました。

元々アンブロシウスと同格だった、10人の都市行政長官のうち、アンブロシウスが掌握した以外の5つの都市行政長官が、アンブロシウスと同格の司会側の席次を要求したのだ。

つまり、会議自体を取り仕切る立場にあるアンブロシウスと同格の席次を獲得し、他の有力者達より一段高い立場に立ち発言力を確保しようと狙ってのことであるが、アンブロシウスはこの要求を峻拒した。

アンブロシウスは断りも無くどかどかと執務室に乱入し、一方的に自分達の要求を叩きつける5人の都市行政長官を、机に着いたまま冷ややかな目で見つめた続けた。

一通りの要求が終わり、言葉が途切れ、奇妙な沈黙が流れる。

何の反応も示さないアンブロシウスに都市行政長官達が気まずそうな表情を浮かべたとき、アンブロシウスは徐に口を開いた。

「私はブリタニア総督から特に任じられて総督代行の地位にあるのです、もし私ではなくほかの方が総督代行になっておられれば、私は同じ要求は致しません!」

 そう押し殺した声で言うと、アンブロシウスはブリタニア総督の署名が入った辞令を突き付け5人を火の出るような眼差しで睨み付けた。

 アンブロシウスを若輩者と侮った、ヴェネト=イケニ都市行政長官のタウルスは、その気迫に押され、顔を赤らめ、肥大した体を精一杯怒らせながらも、他の行政長官を引き連れてロンディニウム行政長官執務室から退出する羽目となり、その後席次について意見する者は居なくなると同時に、アンブロシウスに対する見方も一変することとなる。


 ドアを閉める音も荒々しくタウルスらが立ち去ったすぐ後に、戦装束のままのアルトリウスが入室してきた。

 戦塵にまみれてはいるものの、鎧や手に持つ兜は綺麗に手入れされており、いつもの颯爽とした雰囲気を些かも損なわないばかりか、実戦経験を積んだ事によるものか、不思議な威圧感を身に付けて現れた従弟に、アンブロシウスは思わず息を呑んだ。

「・・・?どうかなさいましたか、従兄さん」

 その様子にアルトリウスは訝しげに眉をひそめてアンブロシウスに声を掛けた。

「ああ、いや、苦労させてばかりですまないな、しかし、見ちがえたよ、もうひとかどの軍司令官だな」

 アルトリウスの言葉に我に返ったアンブロシウスはそう言うと、椅子から立ち上がり、苦笑しているアルトリウスの脇へ歩み寄るとその肩を抱いた。

「その後北方の様子はどうだ?」

「ベリウス一族が壊滅した後、周辺部族やダルリアダの連中がその領地を狙って蠢動していますよ、少しでも南下の気配を見せた部族は積極的に叩いておきましたから、しばらくは安全でしょうが・・」

 アルトリウスは、ベリウス軍を壊滅させてから数度出撃し、敵対勢力の牽制に努めるとともに、ブリタニア領へ例え一時的にせよ越境しそうな気配を見せた部族には打撃を与えた。

「そうか、よく頑張ってくれた、おかげで今日は平穏に属州会議が開けそうだ」

 人好きのする笑みを浮かべたアンブロシウスはそう言うと、自分の席に着き、アルトリウスに向かいの席へ腰掛けるよう勧めた。

「さて、今回この属州会議へお前を召喚したのは、他でもない、ブリタニア軍の総司令官を引き受けて貰うためだ、何、序列は問題ない、お前より地位の高い司令官は皆ガリアへ言ってしまったから」

机の上で手を組んだアンブロシウスは、アルトリウスを上目がちに見ながらそう切り出した。

「・・・無理です、従兄さん。そういう問題ではありません」

 しかし、アルトリウスはいきなりそう言い放った。

「今のブリタニアにはローマの残存兵がやっと1個軍団分しかいないのですよ、従兄さんの尽力で兵士の補充に目処がついたとは言え、増強には程遠い、軍と言える実体のない現状では司令官を決める意味がありません」

一息ついたアルトリウスは、アンブロシウスの反応を見たが、従兄は不思議な笑みを浮かべているだけで、先を続けるようアルトリウスを促した。

「・・・従兄さんもご存知のように、その数少ない軍団兵は各地の守備に分散配置されていて、まともに迎撃で動かせるのは最大で1000程度です、たった1000で総司令官などと称せば、敵だけではなく、味方にも馬鹿にされるだけです」

 まだ言い募ろうとするアルトリウスを片手で制して、アンブロシウスは口を開いた。

「アルトリウス、勘違いをして貰っては困る、私はローマ軍とは言っていない、ブリタニア軍総司令官と言ったのだ」

「・・・・・・?」

「ブリタニアにはローマ兵以外にも、兵と呼べるものはいくつかある、都市の治安維持兵、沿岸警備兵、辺境兵、そして各有力者達の私兵だ、その全てを指揮する権限を与えられるのがブリタニア軍総司令官だ」

 その言葉にますますアルトリウスは眉間のしわを深くした。

「・・・それこそ無理、無茶ですよ従兄さん、豪族達が私兵を供出する訳がありません、それに集めた兵に渡す給料や武具類は手配できるのですか?」

「まあ、その辺については私とマヨリアヌス先生に任せてくれないか、お前は総司令官を引き受けるかどうかについて今は考えて貰いたいんだが」

 アルトリウスの疑問をはぐらかして、アンブロシウスは再び人好きのする笑顔でアルトリウスを見つめた。

 アルトリウスはしばらく見つめ返していたものの、居心地悪そうにもじもじとし始め、ついには視線をアンブロシウスから外してしまった。

「では、引き受けてくれるのだな」

 してやったりとばかりに、アンブロシウスが畳み掛けると、アルトリウスは不承不承肯いて言った。

「・・・従兄さんは子供のころから変わらずズルイですね・・・仕方ありません、ほかに手立ても無さそうです、精一杯頑張ろうと思います」

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