表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/53

第12章 ブリタニア有志連合軍

「アルマリック卿の部隊も配置完了です。」

副官グナイウスの報告にアルトリウスは頷いた。

「諸侯の寄せ集め部隊で統制が取り難いだろうに、よくこの短時間で配置できたものだ。」

 感心した声を出してそれに答えたのは、アルトリウスの横にいるアンブロシウス。

 珍しく鎧兜姿のアンブロシウスは、ブリタニア軍と共に既に配置を完了しているカストゥス家の私兵部隊を率いている。

 最後のブリタニア元老院が終結してから5日後、ブリタニア有志連合軍1万はヒベルニア軍を迎え撃つべくローマ都市デーヴァ近郊の海岸に集結した。

 その構成は、中軸となるアルトリウス率いるブリタニア軍5000にアンブロシウス率いるカストゥス家私兵500、アルマリック率いるケルト豪族軍2500、カイウス・ロングス率いる退役兵部隊2000である。

ボルティゲルンの本拠領地からさほど離れている場所ではないにもかかわらず、ボルティゲルンらのケルトブリタニア軍は参加していない。

ブリタニア有志連合軍が敗れた場合、単独でヒベルニア軍と対決しなければならなく事を考えれば、ここで協力してヒベルニアを撃破しておく方がより望ましいのは明らかであったが、アンブロシウスの送った援軍要請にボルティゲルンからの返答はなかった。

「もう駄目だな、あの御仁は我々が憎くて仕方ないらしい、我らもヒベルニアも敵と言う意味で一緒くたなんだよ。」

アンブロシウスが諦めたようにアルトリウスにそう言った。

「・・・もうもとのブリタニアには戻る事は出来ないのですね・・・」

アルトリウスは戦場になるであろう海岸線を眺めながら、寂しそうにポツリとそう漏らした。

「もうあまり気に病むなアルトリウス、時代の流れは確実に世界の分裂と再構築の方向へ向かっているんだ、仕方ないだろう、古き秩序が打ち滅ぼされ、新しいものが生まれ育とうとしているこの時代においてブリタニアだけがその枠外にいる事は出来ないさ。」

 アルトリウスがアンブロシウスに苦笑交じりでそう諭された。

「それは分かっていますが・・・」

アルトリウスがなおも言い募ろうとしたとき、

「敵船発見!!」

 前方の丘に組み立てられた、木製の簡易見張り台に登っている見張り兵があらん限りの声を張り上げ、海岸線の彼方を旗で指し示した。

 薄い霞がかかっており、見通しは決して良くないが、アルトリウスが布陣している場所からも沖合いにうっすらと船らしきものが見えた、と思った瞬間、みるみるうちにその数が増え、沖合いはヒベルニアの船で埋め尽くされた。

「・・・さすがに分かっていてもこの数を見せられると震えが来るな・・・」

「コルウス提督の情報は正確でしたね、予想通りの場所へ来てくれて助かります。」

 アンブロシウスは顔を青くし、ぶるりと身を震わせて言ったが、アルトリウスはさらりとした顔で普段通りの声色で応じる。

 ヒベルニア船の群れは、ゆっくりと沖合いから海岸を目指して進んでいる。

 デーヴァ近郊は海岸線が複雑に入り組んでおり、また都市に一番近い河口は干潟が広がる湿地帯であるため大軍の進退に向いていないことから、アルトリウスは上陸はおそらく都市の北側であろうと当たりをつけ、ブリタニア軍を展開させていた。

「ガルス重兵器総監より伝令、火炎弾、石弾共に準備完了です、重兵器隊配置及び準備完了しました!」

「分かった、それでは合図があるまで待機。」

人伝いに聞いてはいたものの、アルトリウスがてきぱきと指示を下していく様子を実際目の当たりにしてアンブロシウスは内心舌を巻いた。

・・・これがあのアルトリウスか、いや違うな、もうここにいるのはブリタニア軍総司令官アルトリウスだ・・・

 戦場でのアルトリウスを見るのは実は今日が始めてのアンブロシウス、少年時代からアルトリウスを知っている身としては、普段の生活や態度からは窺い知れないアルトリウスの顔を見て感心仕切りであった。


「狼煙を上げろ!」

 アルトリウスの号令で、陣地後方に設置された狼煙台から真っ白な煙が立ち上った。

 靄のかかる見通しのかんばしくないデーヴァ近郊の天候であったが、無風状態に助けられ、狼煙は理想的な白い直線を描いて天へと登ってゆく。

 すると、ブリタニア軍の展開地域から南側にずれた地点で一斉にブリタニア軍の旗である赤い龍の旗が立てられた。

 アルトリウスは北岸への上陸が妥当な線と考えていたものの、万が一ブリタニア軍の展開を悟られて進路を変えられてしまった場合、デーヴァとの連携を断ち切られてしまう惧れがあった事から、100名ほどの兵と軍旗を偽装陣地に配置し、堅固な陣地があるように装って北岸以外への上陸を阻もうと意図したのである。

 旗が見えたのかそれとも元々北岸を目指していたのか、ヒベルニア艦隊はそれまで向かっていた東方から一斉に北方へ進路を変える。

そしてそのまま航行して北岸へ近付き、蛮族特有である一枚甲板の小型船の姿がアルトリウスの位置からもはっきり確認できるようになった。

 ローマの戦艦のように漕ぎ手と兵士の区別が無く、戦士達がそのまま船を操船するため、乗り組員全員が上陸後戦闘員となる他、小型船で離岸が容易である事から小船を使って岸に向かうのではなく、直接船を砂浜や岸に乗り上げて上陸するのが彼らのやり方である。

 岸に近付いたヒベルニア艦隊は、帆を降ろし櫂走でみるみるうちに距離を詰め、たちまち上陸を始めた。

 わらわらと小型の戦艦からヒベルニアの戦士達が波打ち際に降り立ち、海水を跳ね上げながら自分達の船を砂浜へと引き込み始める。

 どうやら南岸の偽装陣地にブリタニア軍が展開していると勘違いしたようで、上陸したヒベルニアの戦士達は船を波にさらわれないよう、さらに岸の奥へと引き上げながら談笑するなど、その様子にはずいぶんと余裕が感じられた。

 それと言うのも、実は北岸に展開しているブリタニア有志連合軍は、海岸から続くなだらかな丘の、内陸側中腹に展開しており、海岸からは全くの死角になっているからである。

 北岸にあらかじめ展開している事が知られては、やはり上陸地点を変えられる惧れがあったために、アルトリウスは移動の困難な重兵器を含めて丘の中腹に展開させていた。

その布陣が功を奏したのか、ヒベルニア側は未だブリタニア軍の位置を南岸と思い込んでいる様子である。

「いいか、半分程度が上陸するまで決して動くな。」

アルトリウスがそう厳命している間にも、ヒベルニア戦士団は続々と海岸へ上陸し、各部族ごとに集合して後続の到着を待っている。

今までであれば、我先にと内陸部へ略奪に向かうはずのヒベルニア戦士達が、まとまりを持って動いている事で、ブリタニア有志連合軍の指揮官達は今回のヒベルニアの目的が単なる略奪ではなく、本腰を入れた侵略であることに勘付き、背筋を凍らせた。

最初は先発した戦士団と偶発的な戦闘が勃発して伏兵に気づかれる心配をしなくても良いことに安堵していたアルトリウスも、さすがに表情が険しくなる。

アルトリウスはヒベルニア戦士団の半分が上陸し、もう半分が上陸し始めた時点で戦端を開こうと考えていたが、方針を変更せざるを得なくなったことに気がついた。

早速その指示を出し始めたアルトリウスを見て、副官のグナイウスは怪訝そうにアルトリウスを見ているアンブロシウスに状況を説明する。

「アンブロシウス卿、今回はただ追っ払えばよいと言う戦い方では駄目かもしれません・・・相当手酷く叩かなければ引き返さない惧れがあります、激戦は必至です。」

グナイウスのその言葉にアンブロシウスは引きつった笑みを返した。

「・・・あんまり脅かさないでくれ、戦に出るのは10年ぶりなんだからな。」

アルトリウスは各部隊へ伝令を出し、作戦の変更を伝達するための指示を出しながらアンブロシウスのほうへ顔を向けるとにやりと笑った。

「大丈夫ですよ従兄さん、ブリタニア軍の真髄は劣勢下における殲滅作戦です、今回は幸いにも敵の半分も味方に兵がいますから、まず間違いはありません!」

 ブリタニア有志連合軍の陣地が慌しくなり始めた頃、上陸を完了したヒベルニア軍が内陸のデーヴァ目指して徐々に、そして三々五々進軍を開始した。

「重兵器隊!前進!!配置完了次第火炎弾を発射!」

アルトリウスの鋭い指示が飛ぶ。

ついにヒベルニアとの戦端が開かれた。

「押せ押せ!」

ガルス重兵器総監の檄で重兵器兵が力いっぱい受け持ちの重兵器を丘の上に押し出す。

重兵器兵の護衛部隊である、カイウス・ロングス率いる退役兵たちも一緒になり、汗だくになって重兵器を丘の上に押し出し、次々と配置場所へ重兵器が推し並べられてゆく。

 あらかじめ設置場所を決めて地面を均しておいた効果もあって、通常では考えられないほどの迅速さで重兵器が設置され、発射準備が整えられてゆく。

 今回アルトリウスは長大射程のオナガー(投石器)を30基も用意させた一方、中射程のバリスタ(巨大弓)やスコルピオン(弾弓)は帯同していない。

 兜を被り諸肌になった重兵器兵は、杭を巨大なハンマーで打ち付けて支持架を地面に固定し、車輪に頑丈な樫で出来た車止めを3人がかりで噛ます。

固定されたオナガーを、今度は梃子と歯車を何回も作動させて鎹を掛け発射機構に力を込める。

そうして発射準備の完了したオナガーは、順番に火炎弾を装填されていった。

「火炎弾装填ようしっっっ!!!」

「装填よしっ!!」

 驚異的な短時間でオナガー全基が発射準備を完了した事を確認したアルトリウスが号令を下す。

「オナガー隊!!火炎弾発射!!!!!」

    がががん がん ががん がん がががん がん ががん がん

 次々と鎹を外されたオナガーはそのたわめられた力で発射機構を作動させ、火炎弾を吐き出す。

    ひゅひゅひゅふひゅひゅひゅううう

不気味な風切り音と黒煙の筋を中空に引き、火炎弾がヒベルニア軍に降り注いだ、一瞬後。

    どおおおおお どどどおお どどお どおん どおん どどおお

薄靄を切り裂く真っ赤な火炎が海岸のあちこちで立ち昇ったかと思うと、丸焦げになったヒベルニアの戦士達が声もなく倒れ伏し、また有る者は絶叫を上げながら火炎に巻かれ事切れた。

 全くの不意打ちとなったこの攻撃で、たちまち海岸は絶叫と怒号が錯綜する混乱の坩堝へと叩き込まれ、密集していた上に油断していたヒベルニア戦士たちは大混乱に陥る。

 早くも次弾の装填が済んだオナガーが火炎弾を発射し、再び火炎の波が海岸に打ち寄せる。

    どどどどどおおおん

 五月雨式に飛来する火炎弾に、未だどこから発射されているかも分からず右往左往しているヒベルニア戦士達が次々と生きた松明と化していった。

「よし!!いいぞ引き続きドンドン放て!!!」

ガルス重兵器総監までもが兵たちと一緒になって装填準備をしてヒベルニア戦士達に火炎弾を放ち続ける。

どどどおおん

丘の上から麓へと撃ち下ろす形である事から、火炎弾の勢いが強く、中には空中で火炎弾が破裂して網をかぶせるような状態で火炎が落ち、その一帯を焼き払ってしまうものまである。

 何時しか怒号は悲鳴に変わり、絶叫は断末魔の叫びとなっていた。

「弓兵隊前衛へ!!」

 さらにアルトリウスの号令で、弓兵隊3000が丘の上に進出する。

アルトリウスは地形や戦闘形態を予測し、今回は投射兵器兵を重点的に配備していたが、その内分けは、アルトリウス率いるブリタニア軍で重兵器兵450、石弓兵550、弓兵1000、歩兵2000、重装騎兵1000の計5000名であり、アルマリックが率いるケルト系豪族有志の兵は2500のうち1500が長弓を装備し、騎兵と歩兵が500ずつ、カイウス率いる退役兵部隊は1500が歩兵で、500が弓兵であった。

本来の編成であれば2割程度であるところが、実に全軍の4割が飛び道具を装備した部隊ということになる。

アルトリウスは逃げ惑うヒベルニア戦士達の狂態を眺めながら冷酷に命令を下した。

「弓兵隊!!射撃開始!!!」

       ずあっっ

引き絞られた弓から3000の矢が一斉に放たれ、山なりの軌跡を描いて混乱しているヒベルニア軍の上に振り注ぎ、吸い込まれてゆく。

まともな戦闘体制の取れていないヒベルニア戦士達は、盾を構える事すら忘れて空を黒く陰らせて迫るブリタニアの矢を呆然と眺めることしかできないでいた。

      ずどっ

風になぎ倒される草のように、ばたばたと矢に射抜かれ、体から針を生やしたようになった戦士達が倒れていく。


しかししばらくすると、雨のように降り注ぐブリタニア軍の矢を避けるように、ヒベルニア戦士達がその特徴的な縦長の盾を構え、部族ごとにようやくまとまり始めた。

因みにヒベルニアは地域の名称であって、国でも統一された集団でもない。

各地に小豪族が乱立する、今のブリタニアと変わらない状態を有史以来継続しているのがヒベルニアで、ローマ支配による地域統一の過程を経たブリタニアとは異なる歴史を歩んだもう一つのブリタニアである。

ヒベルニア軍とは言っても、全権を掌握している指揮官がいる訳ではなく、略奪侵攻という目的のために連合を組んで攻め寄せているだけなので、統一的な作戦はない。

しかしこの場合返ってその統一性の無さがヒベルニアを混乱から救おうとしていた。

さすがに2万から3万の大軍ともなると、少しずつ落ち着きを取り戻す部族も出てき始めており、あちこちで戦士の集合をかける号令や、命令が飛び交い始め、更にそれを見て周囲の戦士達が落ち着きを取り戻し、ヒベルニア軍全体が徐々に落ち着きを取り戻そうとしていた。

重兵器隊も火炎弾を吐き出し続けているものの、さすがの重兵器兵たちにも疲労の色が濃くなり始めており、射撃に間隙が目立つようになり始めていた。

弓兵隊も、ドンドン矢を放つが盾に阻まれ思うように戦士達を倒せない。

逆に盾を貫ける威力のある石弓では射程が足らず、ヒベルニア戦士たちまで届かないためアルトリウスは射撃を禁じている。

「そろそろ頃合だが・・・攻撃の手は緩めるな。」

アルトリウスは冷静に戦場の様子を見極め、次の手を打つべく重兵器隊と弓兵隊に攻撃続行の指令を与え、ひたすら沖合いを見つめる。

膠着状態が生まれようとしたその瞬間、南方の沿岸からするすると白い帆を上げた船が現れ、その後続にも次々と船が現れ始めた。

「よし!最高のタイミングだ!!」

 アルトリウスは思わず叫んだ。

「・・・あれは・・?」

アルトリウスにつられるように沖合いを遠望していたアンブロシウスが尋ねる。

「従兄さんが再建させたブリタニア海軍ですよ、先程の狼煙はコルウス提督への合図もかねていたんです、間に合いました。」

 一方その沖合いのブリタニア海軍の旗艦上では、ブリタニア海軍提督のコルウスがほっと胸を撫で下ろしていた。

 コルウスはアルトリウスが上げさせた狼煙の合図と共に、停泊していたデーヴァの軍港を出航したものの、完熟訓練の済んでいない艦隊は、付近の干潟や潮に悩まされて思うように航行できず危うく刻限に間に合わなくなるところであった。

「このままデーヴァ北岸に近付け、射程に入り次第、戦艦用のバリスタ(大弓)で沿岸の敵を攻撃する。」

「了解!」

 一方、ブリタニア軍より遥かに海抜の低い海岸に布陣しているヒベルニア戦士団は、沖合いに現れたローマ型戦艦をアルトリウスに遅れて見つけ、やり過ごしたはずのブリタニア海軍が現れた事に気が付き色を失った。

 再び、動揺するヒベルニア戦士たち。

 慌てて自分の船に戻り海へ漕ぎ出そうとする者もいるが、陸上のアルトリウスから狙い打たれてたちまち船ごと戦士たちも火炎弾で燃え上がる。

 コルウスの旗艦からも沿岸のヒベルニア戦士たちが焦って右往左往している様子が見て取れる距離にまで近付いた。

ブリタニア海軍にも兵士達が乗り組んでいるが、蛮族船と違い直接岸につける事の出来ないローマ戦艦では今回あまり活躍の場が無いため、万が一戦艦同士の白兵戦になった場合に備えている他、今日活躍する船舶用に改造されたバリスタ(大弓)の操作に回っている。

「提督、射程に入りました!」

旗艦の艦長がコルウスにそう報告する。

「よろしい、では攻撃開始だ。」

 コルウスの命令に頷いた艦長は、向き直ると、甲板上の兵士達に手で合図を送った。

「攻撃開始!」

それを見た甲板の伝令兵が大声で攻撃開始の命令を伝達する。

「攻撃開始!」

「発射!」


 ブリタニア艦隊の右舷側に取り付けられたバリスタから、一斉に大矢がほとばしった。

   ばんばんばんばばばん

強力な力でバリスタの発射台から弾き出された大矢は目にも留まらない速さで海上を一直線に飛び、まずヒベルニア戦士たちの乗ってきた船に突き刺さった。

   ばきばき めきめきめき どかっ 

 舷側を射抜かれ、帆頭を吹き飛ばされた上に甲板を叩き割られてたちまちヒベルニア船はただの木片と化して行く。

 慌てて自分達の船を守ろうと盾をかざして船に寄り付いた戦士たちは、その強力な大矢を防ぐどころか、自らの頼みとした盾ごと船に縫い止められて絶叫する。

 200艘以上に上るヒベルニア船はたちまちその姿を失い、数を打ち減らし、海岸に打ち上げられた流木と混ざり、木片となり果てた。

「・・・後が無いぞヒベルニアの蛮兵ども!撃て撃て!矢が尽きるまで撃ち続けろ!!」

 コルウス提督が檄を発し、それに答えるかのようにブリタニア艦隊からの大矢が激しく降り注ぐ。

   しゅしゅしゅしゅ・・・・・どどどっ

 海面すれすれに飛び、水煙を立てながら海岸に殺到する大矢を防ぐ事すらできず、ヒベルニア戦士たちは海側からのバリスタと陸側からのオナガーの攻撃に次々と命を散らしていく。

 2万余りを数えたヒベルニア戦士たちも既に3分の1近くが矢玉に撃たれ、さらに追い討ちを受けて数を減らしており、全滅も時間の問題という所まで追い込まれていた。

 既に反撃に移ろうという気力も失くし、ただ防戦に努める一方でブリタニア軍から撃たれるがままになってしまっている。

「・・・そろそろ白兵戦に移ります、グナイウスを置いていきますから従兄さんはここで総予備として残ってください、私は騎兵団を直接率います。」

アルトリウスのその言葉にアンブロシウスが首を傾げる。

「お前が騎兵を率いるのか?ボーティマー騎兵司令官はどうしたんだ、こちらに残っていないのか?」

その言葉に、アルトリウスは残念そうに首を左右に振った。

「残念ながら、ボーティマーの姿は既に駐屯地にはありませんでした、おそらくボルティゲルン殿の所かと・・・」

「・・・そうか、それは・・・仕方ないな。」

 ボルティゲルンの息子にしてブリタニア軍騎兵司令官を任じられていたボーティマーは最後のブリタニア元老院が決裂に終わった後、駐屯地から姿をくらました。

 官舎で一緒に暮らしていた妹のグィネビアも同時期に退去しており、ブリタニア軍は、ブリタニア有志連合軍へのボーティマーの不参加を非常に残念がったが、こればかりはどうする事も出来ずにあきらめたと言う経緯があった。

 ボルティゲルンの実の息子ではあるが、その父親とは全く異なる性格で、沈着冷静、どちらかと言うと寡黙な部類に入るボーティマーは、その実力でブリタニア軍における確かな地位を築いていたが、今回はその去就で大分悩んでいた。

 本来、父親率いる一族の大半が参加を表明した一派に加わるのは、総領であるボルティゲルンの息子である以上当然の事であるが、ボーティマーは何とか分裂其のものを押し留めようと頑張っていた。

結果的にブリタニアは分裂し、ボーティマーは父親の元に戻らざるを得なかったが、この一事を持ってもその誠実な人柄が窺われる。

 アルトリウスはそれでも新たに騎兵司令官を任命する事はせずに、ボーティマーを慰留する形でその退官を認めず、騎兵は自分が率いる事として司令官を空席のままにしていた。

「歩兵隊は石弓隊の一斉射撃の後突撃を開始しろ!」

「騎兵隊はその後時間をずらして左翼から突撃を開始する、歩兵隊との兼ね合いもあるから頃合を見て重兵器と弓隊の射撃を停止させてくれ。」

 アルトリウスは歩兵隊や重兵器隊、弓兵隊の司令官に細かい指示を与えながら騎兵隊の指揮を執るために騎乗で左翼方向へ向かった。

 

「いいか!石弓隊が一斉射撃でヒベルニアのクソ忌々しい盾列に風穴を開けてくれる!その後にピルム(投槍)を全部ぶち込め!!再度の石弓の一斉射撃の後に突撃だ!!」

歩兵司令官のティトウスは指揮下の歩兵達が敵に聞こえるのではないかとハラハラするぐらいの大声で指示をしながら、ブリタニア軍歩兵隊を率いて味方の弓が飛ぶ丘の坂を下り始めた。

歩兵の最前列と次列の間には石弓隊が緊張した面持ちで挟まれている。

 またブリタニア軍歩兵隊の左翼にはケルト豪族軍歩兵、右翼には退役歩兵が続く。

 ティトウスは一旦丘の中腹で歩兵隊を止めて、鯨波を作らせた。

   うおおおおおおおお

 盾を持って整列し、剣を抜き放ったブリタニア歩兵隊が一斉に剣を突き上げ鯨波を作る。

   うおおおおおおおお

 それを合図に重兵器と弓の射撃が一旦停止した。

 ヒベルニア戦士たちはかつて受けた事の無い強力な反撃の予感に度肝を抜かれている。

「いいか!棺桶に片足突っ込んだじじいや、部族戦士に負けるんじゃねえぞ!ブリタニアは俺たちブリタニア軍が守る!今この時にこそ気概を示せ!!」

   おおっ

 一方右翼の退役兵を率いるカイウス・ロングス議長改め退役兵総監は、ティトウスの檄ににやりとした。

「ふむ、ブリタニア軍とやらも壮観だのう・・」

「はっ、生意気では有りますが、訓練もなかなかに行き届いて居ります様ですじゃ。」

 カイウスの副官を長年務めたプリムス退役兵副官が答える。

「・・・ふふっ、お互い年を取ったものだ、今や孫子の世代が戦場に出ておるわ、そこに混じろうとは御主等も酔狂よな。」

「何を仰います、招集を掛けられたのは御仁では御座いませんか。」

 カイウスが含み笑いを漏らしながら言うと、憮然とプリムスがそう答えた。

「・・・アルトリウスのブリタニアを守ると言う言葉に掛けて見ようと思うたのよ、わしらも精一杯やって来たが、完全な平和の実現は果たせなんだ、蛮族は年々強力に成って来て居るしの。」

 左翼にいる重騎兵隊を指揮するアルトリウス見据えたカイウスは、口を横一文字に引き結んだ。

「あやつの言葉に安閑と退役人生をやって居られ無くなったわ。」

「其れはわし等2000名皆同じ気持ちで御座いまするぞ。」


 右翼のケルト系豪族の私兵隊を率いるアルマリック。

 豪族とは言っても既にブリタニアの豪族社会はローマの制度の下に組み込まれて久しく、かつての部族戦士たちは豪族当主の血縁や地縁関係にあるという以外は他と変わらない私兵と言う形で残った。

 アルマリックの一族は特にローマ化の進んだ家であり、装備や戦法もローマのものを取り入れているが、全ての豪族がそうなったわけではない。

未だ300年前の伝統を受け継ぐ豪族達もおり、その装備や戦術、錬度はまちまちであったが、志を同じくする者としてアルマリックを豪族連合の首長に選び、ブリタニアのアルトリウスの下に馳せ参じる事を決めた彼らの士気は高かった。 

「ブリタニア軍か・・・」

 カイウスと同じような位置の反対側でティトウスの檄を聞いていたアルマリックは苦笑してそう言った。

「・・・我らとてブリタニアの一員である、その志の高さでは何者にも負けるものではないという所を存分に見せてやろうではないか!!」

  おおおおお!!

 静かな闘志を燃やすアルマリックの檄に、豪族連合軍は地を唸らせる様な鬨の声で答えた。


 白兵戦に移るため一旦射撃を停止したブリタニア軍の隙を突いて、ヒベルニア戦士団は必死に立て直しを図り、部族単位ではあるものの、怖気に震っている戦士たちを叱咤激励し、族長達はなんとかブリタニア軍を迎え撃つ体制を取りつつあった。

「フン、腰が引けて構えがなっちゃ無いぜ!」

嘲る様にティトウスがヒベルニア戦士に一喝したのを合図にしてブリタニア軍の石弓隊が歩兵部隊の間を縫って前面に飛び出した。

最前列に躍り出た石弓隊は素早く矢を装填すると、片膝を立てて狙いを定め一斉に引き金を引き絞る。

   ばばばばばばばばばっ

強力な短矢がヒベルニア戦士の構える大きな盾に吸い込まれるように殺到し、やすやすとその盾を貫通してヒベルニア戦士の身体へと到達した。

盾を貫通した短矢は微妙にその軌道を変え、ある矢はヒベルニア戦士の顔面や首筋に突き刺さり、またある矢は太ももや膝頭に突き立つ。

また、貫通後直進したものはそのままヒベルニア戦士の腹や胸に埋まった。

    ばきばきばき・・・どどどどっ

 大きめに作られているヒベルニアの盾を粉砕することは出来ないものの、貫通した矢は確実にヒベルニア戦士の身体を食い破り、命と闘志を奪い去る。

 くぐもった悲鳴が盾の向こう側から漏れ伝わり、ヒベルニア戦士の第一列は倒れ伏したり、盾を取り落として乱れ始める。

「未だヤロウども!!ありったけの投槍を喰らわしてやれっ!!」

再度ティトウスの号令が飛び、今度は歩兵隊が前に進み出ると一斉に盾の裏に付けてある投槍を力いっぱい投げつけ始める。

   びゅんびゅんびゅんびゅん

最前列が乱れているために効果的な盾壁戦法が取れないヒベルニア戦士たちはたちまち投槍の餌食となってばたばたと倒れる。

中には上手く盾を使って投槍を凌ぐ戦士たちもいたが、装填の終わった石弓隊の一斉射撃を再び受け、絶叫を遺して倒れる。

「全隊吶喊!!!おらあああああ!!!」

ティトウスは号令を下すと同時に一番前に躍り出て、ヒベルニア戦士の戦列に突撃する。

うわあああああああ

それに続いて剣を抜き放ったブリタニア歩兵が丘の上側からヒベルニア軍に向かって突撃を始め、激突した。

  あああああああああ・・・どかどかどかっ

盾同士をぶつけ合い、身体を浴びせ掛けて揉み合い、互いの盾の隙間から自分の剣を押し込んで相手を刺す。

直ぐにブリタニア軍とヒベルニア軍は血煙と砂煙の中乱戦に陥った。

「ううむ、中々に猛々しい者共よな、若い頃を思い出すわ!!」

それを見ていたカイウスは直ちに自分の率いる退役兵隊に戦闘準備を命じた。

退役兵部隊は主に今回長槍を装備している。

 体力的にはどうしても劣る部分が否めない退役歩兵を率いるに当たって、カイウスは乱戦を避け、秩序だった戦闘に努める様に腐心していた。

 歩兵隊が主力であるにもかかわらず、乱戦を避けるために、武器は長槍を選択せざるを得なかったが、そうすると今度は敵の矢や剣兵に弱くなるため、カイウスは古来の戦法である密集戦術を復活させた。

 とは言っても時間的に付焼刃の訓練しか施せないため、ただ槍を構えて段列を作り前進後退左右の進退を行うだけの単純なもので、今も中央のブリタニア軍歩兵の脇を固める形でヒベルニア戦士たちと対峙していた。

「前進!!」

カイウスが戦場で鍛えた大音声で号令を下し、退役歩兵隊は足並みを揃えて前進を開始した。

剣が全く届かない長い槍を構えられ、ヒベルニア軍は戸惑いを隠せない。

そうこうしている内に、槍の穂先がヒベルニア軍の最前列に到達し、そのまま押し込まれた。

  ぶさ ずぶ ぐぼ

戸惑っているヒベルニア戦士たちの身体打に容赦なく槍の穂先が押し当てられ、そして緩慢な動作で突き込まれる。

ゆっくりと自分の体に入る槍の感触に目を見開き、その一瞬後戦士は絶叫した。

それを見ていた他の戦士たちは慌てて剣で槍の穂先を払おうとするものの、重量がある上に根元でしっかり押さえ付けられている槍の進路を変える事が出来ず、ずぶりと体に槍を突き込まれた戦士が白目を剥いて事切れた。

盾を粉砕し、剣の払いを受け付けず、じわりじわりと迫る長槍の恐怖に、ヒベルニア軍の左翼が壊走し始める。


アルマリックは中央と右翼の動向を見極めつつ慎重に前進するよう指揮下の豪族軍に命じた。

アルマリックの左方からアルトリウス率いる騎兵団が突入する事になっており、余り乱戦に巻き込まれてしまうと、アルトリウスの突撃に巻き込まれかねない上に、味方撃ちを怖れたアルトリウスが突撃のタイミングを逃す事も考えられる事から、どうしても慎重な用兵が求められる。

アルマリックは自らが率いる私兵300を中核に、諸侯ごとに小部隊を編成し、盾を前面に構えさせたままじわりじわりとヒベルニア軍陣地に迫る戦法を取った。

乱戦に巻き込まれないようにすると共に、訓練不足の否めない豪族軍の損害を抑えるために取った戦法であったが、右翼と中央で打ち破られつつあったヒベルニア戦士たちが左翼へ敗走し、その戦士たちがアルマリックの堅陣を認めてたたらを踏み、結果的に逃走を阻止した形になってしまった。

みるみるうちにアルマリックの前にいるヒベルニア陣の厚みが増し、豪族連合軍の数倍の兵数になった事で、逆にアルマリックが危機感を覚えるまでになった。

「・・・包囲されないように中央との連携を保て、盾壁は崩すな!左方へ陣を傾けて圧力を逃がせ。」

アルマリックの号令で、拙い動きながらも豪族連合軍は右へ矢や陣を寄せ、さらに突入口を開くように少し陣を傾けた。

一瞬、ヒベルニア戦士は逃げ道が開けた事で壊走しそうな気配を見せたが、例えこの場で逃れられたとしても、敵地の真ん中で帰還する船も既に破壊された今、最終的な末路は変わらない事に気が付いたものか、踏み止まって戦う事を選んだようである。

「よし、袋は完成した、あとは口を閉めるだけだ、合図を送れ。」

 アルマリックはその状況を確認すると、しばらくそのまま動きが無い事を認めてから、火矢を用意していた配下の兵にそう命じた。

「了解!」

命じられた兵はすぐさま火矢を番えると、天空に向かって真っ直ぐにそれを放った。


「合図だ、みんな準備は良いか!?」

 丘の影から戦いの様子を窺っていたアルトリウスは火矢を認めるや否や、騎兵たちにそう尋ねた。

  おおおお

 勇ましい返事がアルトリウスに返る。

 アルトリウスはその様子を頼もしそうに眺めて頷くと、すらりと自分の長剣を抜き放った。

 それに倣って騎兵達も次々と騎兵用の長剣を抜き放つ。

「行くぞ勇壮なるブリタニアの騎士達!!」

 そう叫ぶと一気に駆け出したアルトリウスを先頭に、ブリタニア騎兵団は一丸となって丘を乗り越え、駆け下り、ヒベルニア軍へと突入した。

  うああああああああああ

靄が晴れ、陽光が斜めから差し込み始めた戦場に、全身鎧を纏い、長剣を抜き放った騎兵団が走る。

 キラキラと陽光を反射させ、海岸線を真っ直ぐ疾走するブリタニア騎兵団の姿は、洋上のコルウス提督率いるブリタニア海軍の戦艦からも良く見えた。

「バリスタ射撃止め!」

「撃ち方やめ!!!」

「やめ!!!」

コルウスの号令が復唱され、また旗信号で他の戦艦にも伝えられ、海上からの攻撃が止み、それと同時に喚声が沸き起こった。

   わああああああ

 海兵たちが騎兵団の先頭を疾走するアルトリウスに気が付いたのだ。

 斜め上空を指した長剣を煌かせ、ヒベルニア軍へ突撃するアルトリウスに海兵たちは船端を叩き、あらん限りの声をあげて声援を送る。

 中にはその姿に感極まって泣き出した兵もおり、ブリタニア海軍はバリスタの射撃を止めはしたものの、声の援護射撃を継続して行う事となった。

 コルウスは海兵たちが狂ったように声援を送る様子に苦笑しながら、つぶやいた。

「・・・アルトリウス総司令官がいる限り、ブリタニア軍は無敵だな・・・」


「突撃隊形陣!!」

 アルトリウスがそう短く叫ぶと、ブリタニア重騎兵団はアルトリウスを先頭にした楔形隊形を形作る。

 丘を越え、砂浜を疾走して来たブリタニア騎兵団は、ヒベルニア戦士の密集した敵右翼に向かって迫る。

 何時しか地面は土から砂に変わり、軍馬の蹴上げた砂煙が後方にもうもうと立ちこめており、ヒベルニア戦士の目には、はまるで1万騎の騎兵が突撃して来るかのように映る。

    わああああああああ!!

どどどどどどどどど!!

 必死に盾を構えてブリタニア騎兵団に備えようとするヒベルニア戦士たちは、その一瞬後に全てが無駄であった事に命で代償を払って気が付いた。

 アルトリウスは長剣を振るい、正面のヒベルニア戦士が構えた盾を真っ二つに裂く。

 驚愕の表情を浮かべたヒベルニア戦士は、自身も真っ二つになっている事に気が付く間も無く事切れた。

 アルトリウスに続いた騎兵達が次々とヒベルニア戦士たちを長剣で血祭りに上げ、手槍を繰り出し串刺し、軍馬を乗り崩して盾ごと陣を突き崩していく。

ブリタニア有志連合軍に押し込まれた結果、細長く海岸線に沿った形に変形していたヒベルニア軍の陣営は、ブリタニア騎兵団の猛烈な突撃を受けてさらに細切れの烏合の衆へと変貌した。

「勢いを殺すな!深く突き崩せ!!」

 再度のアルトリウスの号令に、周囲に分散しようとしていたブリタニア騎兵団はアルトリウスの下に集結しながらヒベルニア戦士を蹴散らして、陣の奥深くに進む。

 ブリタニア騎兵団の猛攻から外れ、後方に取り残されてほっと一息ついたヒベルニア戦士は、盾壁を形作って圧力を掛けてきていた豪族連合軍が一気に雪崩れ込んでくるのを見て戦意を喪失した。

「敵を残すな!!撃ち漏らしは足下をすくわれるぞ!!」

 アルマリックの号令で長剣や短剣、槍を構えた豪族軍が盾を放り投げ、それまでの鬱憤を晴らすかのように爆発的な勢いでヒベルニアの残存兵に躍りかかった。

   どわああああああ

 剣と槍を突きこまれ、降伏の礼を執る時すら与えられず、ヒベルニア戦士は次々とブリタニア軍の刃にかかって物言わぬ骸と化して言った。

 後方の安全がアルマリックによって確保された事を確認したアルトリウスは、更に突き進み、乱戦状態のティトウス率いるブリタニア歩兵を後方から援護する。

 正面から来るブリタニア歩兵と後方から迫るブリタニア騎兵に挟撃された中央部のヒベルニア戦士たちは混乱に陥ると同時に次々と戦場の露と化した。

「生残りを許すな!!襲撃の代償は蛮族自身の命のみ!!」

 一しきり後方からヒベルニア戦士を叩いたブリタニア騎兵団は、疲労をものともせずそのまま退役兵部隊と対峙していたヒベルニア軍に襲い掛かった。

 2万を数えたヒベルニア軍は四分五裂の状態となり、みるみる内に数を撃ち減らし、それに代わってディーヴァ北岸の砂浜と波はヒベルニア戦士の血で真っ赤に染まった。

 ブリタニア兵は降伏を許さず容赦無くヒベルニア戦士に斬り付け、槍を突き込んでとどめを刺している。


 その様子を流れ矢の届かない安全な位置から眺めている者たちがいた。

「やはり、アルトリウスは我にとって邪魔であるな・・・まさか敵の半数の兵でこうも一方的な展開を作り出せるとは・・・もはやヤツめは軍神の域に達しておるのであるな。」

 アンブロシウスの援軍要請を黙殺したボルティゲルンが馬上からそう独り言を言った。

 一見して蛮族と分かる数人の男を従えたボルティゲルンは、眼下の戦場で指揮を執っているアルトリウスを遠望し、その男達に指さしてその名を教えた。

「ヤツを、アルトリウスを排除せん事には真のブリタニアの覇権は我の物とはならんであるな・・・」

「親方はあの男が邪魔カ。」

 錆びた声色で男の中でも一際体格のいい男がそう尋ねた。

「・・・ああ、邪魔であるな。」

 むっつりとした表情でボルティゲルンがそう言うと、その男は低く笑った。

「任せろ、わしらサクソン戦士がアイツを撃つ、なんならわしがヤル。」

「ふむ、ヘンギスト殿自らか・・・まあ頼むのである・・・」

そうつぶやくように答えたボルティゲルンの傍らには、サクソン族長達の姿と共に、苦しそうな表情のボーティマーの姿もあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ