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勇者様、叫ぶ。

本当に時間をかけてしまいました。

これからは定期的に更新したいと思います。

 魔王と呼ばれる存在。

 その名から、いったいなにを想像するだろうか?

 絶対的な悪?

 力ある悪意?

 最後の敵?

 最強最悪の存在?

 妥当なのはそんなところだろう。

 そして、いま対峙している敵は、その印象を当てはめてあまりある存在だった。

 攻撃が・・・・あたらねぇっ!!


 「ちきしょう、こいつ、つええぞっ!!」


 吐き捨てる言葉と共に、するどい剣を振るうアレン。

 だが、その剣筋は見切られ、紙一重でかわされる。

 その攻撃を布石として、俺の剣も死角からきりつけるが、やはり空を斬る。

 掠るどころか防御すら必要ないらしい。

 こんなにコケにされても思考できる自分の冷静さに苦笑しつつ、頭に血が上りかけているアレンに釘を刺す。

 

 「焦るな。あたらなくても、こちらが倒れなければ負けじゃない」


 俺たちのパーティーはたぶん人類最強なのだろう。

 魔王討伐に選ばれているくらいなのだから。

 そして、アレンにも、おそらくリアラにもその自負があるに決まっている。

 そんな最強たる自分たちの攻撃がまったく通用しないことに焦りを浮かべるのは当然なのだろう。

 自分たちが勝てない敵は、つまり、人という種族がどんなにがんばっても勝てないということと同義なのだから。

 だが、俺にはそんな感覚がまったく存在しない。

 本物ではなく、なんちゃって勇者である自分が強いわけはないのだから。

 日常に接している「チートじゃね???」って叫びたくなる周りのやつらから逃げるために危険察知能力と防御能力には自信があるが、あくまでも平和であった現代日本の一般人の尺度。

 そんな俺が、魔物なんていう摩訶不思議な存在に勝てるわけないんだから、焦りなんてあるわけがない。

 何とか見逃してくれね~かなぁ?くらいの思考で戦っていたりするわけである。

 

 べ、別にふざけているわけなんかじゃないんだからねっ??

 

 気持ち悪いツンデレな真似事で自分自身が鬱になりながらも、再び剣を振るう。

 ・・・・・避けられたけどさ。

 なんか、焦りっていうよりも自分の弱さに悲しくなってきた俺の耳に、人を小ばかにしているような声が聞こえてきた。

 

 「ふふふっ、人類の刃であり希望であるあなたたちの力はそんなものですか?これでは暇つぶしにもならない」

 

 くやしそうに唇をかみ締めるアレンを制するように、軽口をたたきつけてやる。


 「そりゃぁもうしわけない。お客様の期待にこたえられないなんて、演者としては最低なやつかもな、俺は。だけど、礼儀がなってない観客はお客様なんてみとめねぇからな」


 「それはそれは心外なことを。これほどまでに敬意を払っているのに、理解してもらえないとは。私にとっては悲しむしかない結果になっておりますねぇ」


 「そんなに、人を、小ばかに、してる、口調で、なに言っちゃってんだよ、お前は?」


 剣を振るたびに言葉を途切れさせながら、馬鹿にしたような感情をこめてやる。

 

 面白そうに口元をゆがめ、さらに笑みを深くする男。


 「ほぉ・・・・?こちらがつかんでる情報では勇者ワタルは氷のように動じず、時に冷酷でさえもあるという話でしたが。なかなか面白い男ですね、あなたは。実に興味深い」


 「こんなに冷静で理知的な俺におもしろいなんて、失礼なやつだなぁ。それに、そっちが思い込んでるのは勝手だけど、自分たちの情報源の無能さを棚に置いて勝手なこといってるんじゃねぇよって感じなんだが、なっ!」


 袈裟懸けに振り下ろすと同時に、回転しながら横に飛ぶ。


 避けた俺を掠めるように、後ろから極大のレーザーが通過した。


 白き魔女の名をもつリアラが得意とする光魔法、その上位呪文であるそれは普通の魔物であれば一瞬で蒸発させるだろうが、男は意に返さずに手で振り払う。


 まるで手品のように、その光は手の動きと同時に光の粒子へと変わった。


 その光景を見て、一瞬息を呑むアレンとリアラが見えた。


 「どうですか、このような手品は?美しくて私は気に入っているのですが・・・お気に召しましたでしょうか?」


 慇懃無礼。まさにその言葉がぴったりと当てはまるような態度にちょっといらっときながら、そのイライラをこめて剣を握り締めると、頭に浮かんだ技を繰り広げてやる。


 「だから、そんな態度やめろっていってんだよ、このやろう!!」


 神速・・・いや、縮地ともいえるべき速さで男の前に突っ込むと、フェイント代わりに大振りを一回、そして、そのまま後ろに回りこむと十二回もの突きを一瞬で叩き込む。

 もとの体の持ち主であるワタル君のもっている技の中でも、上位に位置するその技の名を大声で叫びたい欲求に駆られながらも、次の技につなげるために必死に我慢する。

 突きを放ち終えた一瞬の停止、その隙を見逃さずに、全ての軌跡をかわした男がいつのまにか手にしていたステッキで殴りかかる・・・が、その隙はブラフだったりして。


 「甘いっ!」


 叫んで男のもつステッキに剣を添えると、そのままくるりと回転させて地面に叩き落し、反動で男のあごに向かって剣跡をぶちかます。

 両刃でなければできないこの技に若干の驚きを浮かべながらも、ボクシングのスウェイバックの要領でかわす男。

 そして、俺たちは弾けるように離れた。


 「さっすが最終ボス。これでもかなりがんばったんだけど、全然きかねぇでやんの」


 「そんなことはありませんよ?いまのはさすがに驚きました。やはり、人類最高の剣として希望を司っているのは伊達ではありませんね」


 「この状況で褒められても、嬉しくもなんともないっての」


 「それは残念。それと、ひとつ訂正させていただきますと、私は最終ボスなどという恐れ多い存在ではありませんよ?ただの道化、それ以上でもそれ以下でもありませんので」


 「いつからピエロってやつはこんなに強くなったのかって言うのを、丸一日問い詰めてやりたいけどな」


 俺たちの表情に、苦笑が生まれる。

 最高のゲームを繰り広げる俺たちの間に生まれる、不思議な連帯感。

 だが、賭けるのは命という名のチップ。

 ただの現実が、そこにはあった。


 「や~れやれ、ほんとにつええなぁ、こりゃ。俺もだいぶ強くなったと思ったけど、世の中は広いねぇ。胃の中のカラス、たいがいにせ~よってやつだな」


 「アレン様・・・・それをいうなら、井の中の蛙、大海を知らずですよ?」


 呆れをちょっとだけ織り交ぜたリアラの言葉に、開き直ったアホは言い切った。


 「そうともいう!」


 「いや、いわねぇっての、アホ」


 この最終局面で緊張感がないにもほどがあるなぁって思いつつ、こういう所が俺たちの強さなんだよな、きっとなんていつものように思いながら・・・・いつものように?

 たった数時間前にあったばかりのやつらに、信頼と親しみを持つことを不思議に思いながらも、でも、なんとなく納得する。

 それは、ワタル・ブランデッドとしての記憶なのだ。

 それは、ワタル・ブランデッドが彼らに寄せている信頼なのだ。

 それに気づいた俺は、元の世界で馬鹿をやらかすときにいつも傍らにいる大馬鹿のことを思い出して・・・寂しくなる。

 だが、記憶の中のそいつは、おもいっきり気持ち悪そうな顔をした後、俺を小馬鹿にしたように、笑った。


 ああ・・・そうだな。いまは懐かしむのも嘆くのも、後だな。

 ・・・・・・・・・守るぞ、こいつら。


 心に浮かぶ悪友の顔に誓いを立てると、俺は手に馴染みだした剣を握りなおし、黒尽くめの執事に向き直る。


 「ほぉ・・・?覚悟を決めた顔、ですか。恐怖にゆがむ顔が人間の本質かと思いましたが。なかなかいいものですね・・・・その顔を絶望に変える瞬間を想像すると、あまりの楽しみに笑い出してしまいそうだ」


 「あいにくと、諦めの悪さと腰の低さは近所でも評判だったもんでね?どんなにかっこ悪かろうが、足掻きまくらせてもらうぜ」


 「それはそれで、楽しみです。もっと、私を、楽しませてください」


 気持ちのよい微笑を浮かべると、奴は手を前にかざした。

 その手の中に生まれるのは、禍々しくのたうちまわる漆黒の闇。

 一目見て、相当の力を秘めてるのがわかった。

 だって、赤い血管みたいなのが、どくどくと脈動してるんだもん。

 正直、めっちゃ気持ちわりぃ。


 「そうそう、忘れていました。目障りな脇役には、退場してもらわなければ」

 

 やつが飄々とつぶやくと同時に、俺たちとアレン・リアラの間に闇の壁が地面から沸きあがった。

 漆黒の漆黒の、どこまでも黒いペンキを壁にこれでもかっちゅ~くらいぶちまけてできたようなその壁は、ご丁寧なことに髑髏の模様まで浮かび上がる手の込みよう。


 「まったく・・・最終奥義ってやつをぶっ放すしかないんじゃね?この状況?」


 そういいつつ、俺は記憶を探った。

 俺の記憶と、ワタル・ブランデッドが体で覚えた力の記憶。

 そのすべてから、この現状を打破する方法を探る。

 そして、答えを・・・・・導きだすっ!


 「勇者としての一撃を。ワタル・ブランデッド、いざ、参る!」


 俺は、手にした剣に、斬るという概念を加えた。

 人としての限界を超える、世界という情報を上書きする概念を。

 それは、まさに神の領域だった。

 俺が憑依しているこの男は、才能と鍛錬と、自らの信念で神へも届く一撃を手に入れていたんだ。

 闇、邪悪、悪・・・・そういった負の属性をもつ存在を、愚直なまでに素直に、ただ、斬るというための技。


 「おのれが修めたセシルファードという流派を極め、昇華し、新たな技を生み出す・・か。本当に、ワタルっていうやつは、勇者っていえる存在だったんだなぁ・・・」


 子供のころにあこがれたヒーローを実感し、知らず知らずのうちに胸が熱くなる。

 勇者。

 それは御伽噺の中の存在だと思っていたけれど。


 「やっぱ、かっこいいな・・・勇者って言うやつは・・・・」

 しみじみとつぶやく俺に答えるように、震える手の中の剣。

 強く優しく柔らかい光を放つその剣が、緊張する俺を力づけてくれる。


 「まったく・・・すこしは俺も近づかねぇとな・・・うっし、いくぞっ!!!」


 俺は走り出した。

 空間を切り取るように時折加速をかけながら、ただ突っ立ってるだけの男に剣を叩き込む。

 そして、その一撃は。

 男が手にした闇の玉を浄化した。

 雪が熱線に触れたときのように一瞬に蒸発したその玉の先にある男の体に、剣が届き、そしてすり抜ける。


 「は?」


 間が抜けた声を出した俺の耳に、影の男の諭すような声が響く。

 

 「すべての魔を断ち切る剣。勇者にはふさわしいですが、欠点もありますね?魔ではないものは斬れない・・・つまり、聖の属性を持っているものは、斬れないということになります。つまりは、そういうことです、勇者殿?」


 生徒を諭す教師のような丁寧な、そして優しい物言い。

 それが、俺の神経を逆なでする。

 粟立つ肌の感覚を強引に押さえ込み体を翻すが、だが、しかし。

 致命的なまでに遅かった。

 爽やかな微笑を浮かべる影の男の伸ばした腕が、俺に向かって伸ばされる。

 その手にあるのは、なんの装飾もされていない漆黒の小剣。

 刃渡り三十センチほどの剣が、俺に吸い込まれるように近づいてくる。

 死を覚悟した。

 不思議と怖くなかった。

 たぶん、あまりの現実味のなさに、俺の頭はおかしくなってしまったんだろう。

 その、コマ送りのようにゆっくりと繰り広げられる光景を、人事のように見つめていた。

 距離が縮まる。

 ゼロになる。

 

 その、瞬間。


 痛みも衝撃も、俺の体には走らなかった。

 俺と刃の間に、小さな存在が割り込んだから。


 「・・・いた・・・・い」


 小さな呟きが、桜の花びらのように可憐な唇からもれた。

 その声は、春風のように優しくて、儚くて・・・・だからこそ、その現実はありえないくらいに残酷に思えたんだよ。


 呼吸が、とまる。

 声なんか出なかった。

 なにをいっていいかわからなくて、何が起こってるのかすら理解できなくて。

 

 だから、俺は、自分の口から出た叫びに、どんな感情がこめられているかすら、わからなかったんだよ。




 「まおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉううううう!!!!」



 それは、倒すべき存在を守りたいと願った、馬鹿な道化の産声だったのかもしれない。


 


 

 

 

 

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