勇者様、神様と出会う
設定説明、なんか、うまくいかないもんですのぉ
目を開くとそこは雪国だった。
「しらない、天井だ・・・・」
ってまぁ、わかる人にしかわからない・・・いや、そうでもないかな?・・・・電波なことをいいながら身を起こす。
そこは白い、どこまでも白い世界だった。
木も、土も、空も、建物も、普段暮らしていて当然見るであろうものが何一つ無い、白一色の世界。
それはひどく無味で、空虚が心の中に押し寄せていくのを感じる。
当然人すらも・・・いや、なんか、ちっこいのが一人目の前にいるな。
小さすぎて見落とすところだったぜ。
そんなことを心の中でつぶやいてると、ちっこい女の子が上目遣いでこちらを睨む。
そのかわいらしい外見は、そういう趣味がある人にとってはクリティカルなヒットをぶちかまして、心を貫くだろうが、幸運なことに俺はそういう趣味は無い。
やっぱ、女の子は巨乳に限る・・・ってまぁ、俺の性癖はどうでもいいが、とりあえず、恋愛感情ではなく、普通に庇護欲は抱かされた。
簡単に言うと、ちっこくてかわいいなぁ、おいって感じだ。
その少女は上目遣いのまま、でも、ちょっとほほを赤く染めながら怒ったようにいう。
「我に対してちっこいちっこい言うな、無礼だぞ。ま、まぁ、かわいいとかっていうのは、素直に受け取っておくが」
おぉう、心を読んできたのか?
普段なら驚くところなんだろうけど、さっきからありえない状況ばっかり目の前に転がってくるから、どうやらびっくりするっていう機能が停止しちゃってるみたいだ。
そういうこともあるんだなぁ、くらいの気持ちで華麗にスルーしてみる。
細かいことは気にしない、それが紳士の美学!
なんか、怒っていたような目つきが呆れたものに変わってきてるが、まぁ、それも華麗にスルー。
それが、紳士の美「馬鹿なことばかりいってるでない」学・・って、心に突っ込みを入れるのはどうかと思うのですが。
しかも、突込みが全然面白くないのですが。
まぁ、あまりへんなことを思ってると、また怒られそうなので、とりあえず話しかけてみる。
「ここはどこで、あなたはどなた?」
ちょっとあほっぽいが、まぁ、まちがっていないだろう。
たぶん、テンプレどおりだと、この子が普通の少女なわけないし、敬語を使っておいたほうが無難な気がするし。
そんな俺の言葉を聞いたからか、心を読んだからかはわからないけど、少女はにやっと笑うと、得意げに言った。
「我は、神だ」
「・・・・・へぇ」
あまりにも手ごたえの無い返事を返す俺に、信じられてないと思ったのか、少女・・自称神様・・・は、もう一度言ってみたりする。
「我は、神だぞ」
「・・・・・・ほぉ」
またしても普通に返した俺に、怒ったのか、恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしながら少女は繰り返す。
「だから、我は神だと・・・・」
「あ、いや、信じてないわけじゃないですよ?あなたが神様っていうことを」
なんか、ちっちゃい子を馬鹿にした感じになっちゃってるのが人としてどうかと思ったので、あわてて否定してみた。
いぶかしげにこちらを向く少女の目線にあわせるために、しゃがみこんだまま話しかける。
「なんか、普通なら驚くところなんでしょうけど、あまりにもいろんなことがたくさんありすぎて、神様が目の前にいても、まぁ、普通のことなのかな~って。なんか、麻痺しちゃったっていうか、いままでの常識のほうがおかしいのかなぁと」
「それは人としてだめだと思うが」
あ~あ~き~こ~え~な~い~。自分に都合が悪いことは聞いちゃいけないって、死んだじいちゃんが言ってたんだ、うん(注・死んでません)
ジト目で睨む神様(仮)ににっこり笑い返し、口を開く俺。
「で、この状況だと、説明してくれる感じなんですよね、きっと?教えていただけますか??」
にっこりと微笑む俺を見る神様の顔が引きつる。
なんか都合の悪いことをしでかしたんだろうか?
それとも、単純に俺の顔が怖いから??・・いや、そんなことはないよな、うん、だって笑ってるもんな俺。
さらに引きつりだした神様に、事情を聞いてみた。
それをまとめてみると、こんな感じになるらしい。
ここは天界の謁見の間的な感じの場所であり、強い魂が来たときに暴れださないように隔離されている。
さっきまでいた場所は異世界。簡単に言うと、ゲームや小説にでてくるような、魔法が存在している中世ヨーロッパの文化基準に似た世界。
目の前の少女は、俺のいた世界の神様。なぜかこちらの世界に来てしまった俺を監視するために俺を呼んだ。
俺は魔王と対峙した勇者に憑依してしまったらしい。
以上がかいつまんだ情報である。
ってか、こういう状況って交通事故やら何やらで死んじまったやつが陥るんじゃねえのかね、普通は?
そんなことを考えていたら、神様はひどく簡単に言ってくれた。
「ん?だいじょうぶじゃ、おぬしも死んだから」
「はっっっ??」
驚いてる俺に、非常とも言える事実をのたまう神様。
曰く、俺の部屋にピンポイントに米粒大の隕石が落下。
屋根とついでに俺の頭をぶちぬき、俺はおもいっきりTHE END。
その衝撃のエネルギーが時空をこえ、あの世界に飛ばしたと。
「なんてこった・・・神は俺を見放したか・・・」
若干、自分の不幸に絶望していると、目の前の神様がおっしゃるでごわす。
「いや、見放してはいないぞ?その証拠に、我がここにいるではないか」
「どうして神様なんて大きい存在が俺なんかを?」
「それは、すごい確率の不幸が襲った人間を見て笑ってや・・・いや、不憫だったから、少しは恩恵を与えてやろうと思ってな」
・・・・ぜって~遊んでやがる、この神様。まぁ、実際、説明されて助かったのは事実だから、文句は無いけど、納得はできんなこれは。
「まぁ、神様なんて存在がつくる理不尽を、納得なんてできるはずが無いかもしれないけどさ」
「そういうことじゃ」
運命はいつも理不尽で、どんなに願っても人はその理不尽に蹂躙される。
わかっているけど、それを簡単に肯定するのもどうかと思う、人として。
あ、神様ならいいのか、なんか、それもまた理不尽だな、おい。
「こほんっ、それで、何か願うことは無いのか?」
ごまかすかのように神様が言う。
「願い・・たとえば、お約束のように最強にしてくれたりとか、すごい魔法を使えるようにしてくれるとか、そんなチート機能をのぞんでもいいってこと?」
「簡単に言えば、そういうことじゃ。よほどのことが無い限りは、かなえてやるが、どうじゃ?」
俺は悩んだ。
どんなことを願おうか、悩んで悩んで・・・・。
「ん、やっぱ、なにもいらねぇ」
「どうしてじゃ?」
探るようにいう神様に、逆に尋ねる。
「あの世界に行くって事は、あの体に生まれ変わるって言うか、憑依するってことだろ?」
「そういうことになる」
「あの体の持ち主は、ものすごく強いって、さっきの状況で理解した。でも、それは、生まれたときの才能もあるけど、きっと、がんばってがんばって、想像もできないような努力をして、やっと手に入れたものなんだ。それなのに、そんな裏技みたいに手に入れた力で強くなりたくない。もっと強くなるなら、俺自身が努力しないといけないんだ。そうじゃないと、あの体の持ち主に失礼だと思う。それに、いつかはきっと、俺はあの体を返さなきゃいけないんだと思う。どんなに死にたくないって思っても、あの体は持ち主に返さないといけない。ほんとの魂は、まだあの体の中にあるんだから。しばらく借りることになるかもしれないけど、俺はいつか返さないと。だから、そのとき、胸を張って返せるように、おれ自身が努力していくよ」
楽をしたかった。死にたくなかった。もっと楽しみたかった。
だけど、あの瞬間、力を貸してくれたほんとの体の持ち主を、裏切れなかった。
どういう理由かわからないけど、いまは俺があの体を使わせてもらってる。
だからそのときには、笑って返せるように。
俺は俺自身であることを誇れるように、努力しようと思ったんだ。
そんな俺をまぶしそうに見つめる神様は、近づくなり服を引っ張る。
思いがけない力強さに前のめりになった俺の唇を、小さなぬくもりが包んだ。
いきなりキスされたことに驚いて、あわてる俺に笑いかける神様。
「せめて、祝福をやろう。そなたの道が、少しでも明るく照らされるように」
それは暖かな陽だまりのように暖かくて、幼さの中に優しさがにじみ出ていて。
不覚にも、少しだけ泣いた。
その泣き顔を困ったように見つめる彼女は、聞き取れないほど小さな声で何かをつぶやく。
それと同時に光に包まれた俺が、最後にみたのは、彼女の笑顔だった。
「がんばるのだぞ、わが息子よ」
「え、ちょっ、息子って・・・え???」
いたずら心は、最後まで抑えてくれなかったみたいだけど。