勇者様、戦いに巻き込まれる
ふと思いついて書いてしまいました。
プロットもあまりちゃんと作ってない、勢いだけの作品ですが、気に入ってもらえたら嬉しいです
一言で言うと、カオスだった。
なんだここは?
目の前には豪奢な内装。
まるで、中世の城のような、由緒正しい教会のような、厳かな空間。
光が差し込むステンドグラス。
黄金で作られる、調度品の数々。
そして、その広さ。
学校の体育館くらいの面積の空間の真ん中に俺は立っていた。
誰だ、こいつは?
漆黒のローブ。
血のように紅い宝石と黄金でできた留め具。
それ自体が光を帯びているのではないかと思われるくらい輝く冠。
神々しさと禍々しさが内包されたその服装に包まれているのは、高笑いをする少女だった。
そして、その後ろには小さく声援を送るじじぃの姿。
なんだ、これは?
俺の手の中には、一本の剣。
複雑な文様が彫りこまれた銀の柄には、こぶし大の蒼い宝石が埋め込まれている。
そして、その柄から伸びる刀身は、まるで鏡のように磨き上げられ、刃先からはきらきらと蒼い光が零れ落ちている。
・・・・誰でもいい。
誰でもいいから、誰かこの状況を説明しやがれ!!
俺の心の中の叫びは、目の前のよくわからんお子ちゃまに邪魔された。
「はっはっは・・・恐怖のあまり、声を発することすら忘れたか?さて・・・慈悲深い我がお前を救ってやろう。死という開放によってな!」
精一杯おどろおどろしい声を演出しようとしているのだろうが、いかんせん、声が高い上に可愛すぎる。
低くしようとする努力は買うが、これっぽっちも怖くない。
それに、後ろのじぃさんが「立派になられて・・・」とかいいつつ涙を滝のように流してるもんだから、怖がれというほうが無理ってもんだ。
まぁ、それはそれでいいとして・・ここはどこだ??
昨日、夜中に呼び出しやがった族どもをぼこぼこにしてから、ベッドに入ってそのまま寝た気がするんだが。
昨日着たままで寝ちまったジーンズも白いTシャツもなく。
100均で買ったお気に入りの腕時計もなく。
お守り代わりにつけてる、ムーンストーンで装飾されたシルバーリングもな・・・あれ、これはあるか。
なんで指輪だけあるのかはわからんが、他は普段とはまったく違う服装になっていた。
Tシャツは装飾の少ない、だが、重厚感を与える使い古された鎧になっていて。
ジーンズは黒いズボンに装甲をつけたものに変わっていて。
腕時計の変わりに、銀の手甲をはめていて。
まぁ、難しく説明するのはめんどくさいから、早い話がRPGの勇者とか騎士とか、そんなかっこになってたんだわ。
うん、何だこの状況?
どっかの撮影か、どっきりなのか???
なんて、最初は混乱してはいたんだが・・・、そんな俺の思考をかき消すかのように、後ろから怒声が聞こえた。
びっくりしちまって後ろを振り返ると、そこにはもう、なんていうか、テンプレな感じの方々がいましたですよ。
怒鳴ったのは赤毛の戦士。
まだ20台前半に見えるが、自分の背丈ほどもある槍を構え、油断なく構える姿は歴戦の兵を感じさせる。
10人中10人が「美形!!」と叫ぶ容姿は、真剣な表情に彩られ、男前度を天元突破させていた。
そして、その横にはこれまたテンプレな魔法使いの少女。
艶やかな水色のローブに身にまとい、手にしているのは複雑な文様を掘り込まれ、先端には大きなルビーらしき光沢のある石がつけられている。
それ自身が神々しいほどの光を放ち、禍々しさとゴージャスさで胸焼けを起こしそうな室内に清涼感をもたらしていた。
まぁ、赤い光っていうのも、信号の点滅みたいでなんだかなってかんじだけども。
そんな風に見つめていると、戦士は朗々とした声で再び叫ぶ。
「ふざけるな、魔王!!赤光の名を冠するアレン・シェフィールド、むざむざ死ぬことは無いと知れ!」
おぉ、かっちょええ。
セリフは短いし、ちょっと厨二病的な発言もあったけど、なんか、主人公!!ってかんじがして好感が持てますなぁ、トメさんや。
なんかちょっとよくわかんない人に電波を送りつつ感心していると、さらに声が続く。
「あなたが滅ぼして来た命。絶望と悲しみに泣いた人々の声。その全てを、ここで償ってもらいます・・・白き魔女、リリシアの名に懸けて」
小さいのに響き渡る声。
その声は、凛と澄んだ色をもって、この狭くない空間に響き渡っていく。
状況はまったくよくわからないけど、茶化すことなんてできない空気がそこにはあった。
そして、魔王って呼ばれているのにその覇気に当てられて泣きべそをかいている少女。
・・・・・・なんでやねん。
「こ、この魔王をあまくみるでないわ!・・・ヒック・・・私・・我は魔王なん・・・魔王ぞ!・・・ヒック・・・そのような振る舞い、ぜんぜん怖くないも・・・・我には通用せんわ・・・」
ガチに泣いてます。泣きべそかいてます。
後ろのじいやさん(仮名)もおろおろしてあわてまくってるし。
俺の後ろにいる二人も、ちょっとうろたえてバツの悪そうな顔してるし。
なにこのカオス?
あ、顔をごしごし拭きながら、魔王が気合い入れた。
なんか、がんばってます!ってかんじが、ちょっとときめきますな、ほほえましくて。
キッとしてこっちを睨む顔に、逆に癒されました、ごちそうさまです。
だが、そこで変わったのは表情だけじゃなかった。
それまでグダグダな感じがしていた部屋の中の空気が、研ぎ澄まされたかのような鋭いものへと変わったんだ。
それは、命を刈り取ろうとするものたちが、己の存在を誇示するかのような強さと厳しさを持っていた。
・・・・気圧されるほどに。
会話も無い。
怒号も無い。
呼吸をする音さえも聞こえない。
だけど、そこには、気が狂うほどの濃密な殺意があった。
そして、行き場の無くなった殺意は、不意にはじけた。
獣のような叫びをあげ、アレンが飛び出す。
その様はまさに赤光。
残像が残るほどの速さで、魔王と呼ばれる少女に肉薄する。
それと同時に、リリシアの形のよい唇から紡がれる詠唱。
意味を汲み取れないそれは、歌のように、波のように、室内を満たしていく。
対する魔王も、己の纏う漆黒の闇に厚みを増し、押しつぶされるような禍々しい存在感を示す。
そして
気がつくと俺は飛び出していた。
体は軽い。
文化部の、しかも文芸部なんてもんに所属している俺は、運動なんて体育くらいしかしたことないのに、信じられないくらいの速さで足は進む。
世界がコマ送りに見える。
三人の動きが、パントマイムをしているかのようにゆっくりと見えて、おもわず笑う。
そんな異常な行動を、この異常な世界の中で、異常な状況であると認めつつも、どこかで納得している自分がいた。
再び口の端に笑みを乗せ、足に力をこめる。
肉薄する二人の間に入り込むのと、剣を鞘ごとはずし、さらに鞘から抜くという行為を同時に行った。
地面を滑りながら、 鋭い剣先をアレンへ、鞘の先を魔王へと向け、二人を睨みつける。
驚愕に彩られる二人へ、想いのままに声をたたきつける。
「なんだかよくわかんねー!ここがどこなのか、いまなんで二人が殺し合いを始めたのか、そんなもん全然わかんねーし、頭が悪いおれに理解できるとは思えねえ。だけどな!だけど、俺の目の前で、殺し合いなんてさせねーよ!」
叫ぶと同時に、重圧を感じて振り返る。
そこには、巨大な炎の塊。
その向こう側に、リリシアの驚いた表情が見える。
俺の予期せぬ行動に、とめれなかったんだろうな、詠唱。そう思うことにする。
ってか、俺が何もしなくても、アレンは巻き込まれちゃったんじゃね??
ま、まぁ、アレンだったらだいじょぶそうだからいっか・・・いいよね?うん。
そんな風に若干の現実逃避をしながらも、炎の塊は迫ってくる。
焦る俺。
でも、なんとなくだけど、何とかなるような気がした。
根拠は無いけど、なんとなく。
ただ、守れるって。
そんな風に思って、目を閉じる。
不意に頭に響く、力強い声。
それは聞いたことも無いような、でも、どこかで聞いたことのあるような、懐かしくて、冷静に聞こえて、でも、暖かい声。
その声に従い、俺は二人に向けていた剣と鞘を、炎に向けて構える。
ちょっと恥ずかしいけど、その声が教えてくれるとおりの文言を口に乗せる。
「セシルファード流防衛術 水鏡」
二つの剣先で宙に円を描くと、その内部で空間がゆがむ。
それと同時に生まれる不可視の障壁と、力ある炎塊がぶつかり合った。
空間がきしむ音が聞こえる。
物理的な力ではないはずなのに、その音はやけに大きく部屋の中に響いた。
俺の中から、障壁に力が注がれる感覚がある。
抜けていく、力が、抜けていく。
だが、それでも、崩れ落ちそうになるその感覚に俺は耐えた。
自らだけじゃなく、その後ろには、守るべきものがあったから。
「がああああああああああ!!!」
生まれて初めての叫び。
心のそこからの、叫び。
そして、世界は光に包まれた。
意識を失う瞬間、俺の中で誰かが満足そうに笑った。