28-風案内の家
――――風花の咲く丘は、今も変わらない。
小さな村の外れにあるその場所には、
今日もまた誰かが、「風を探しに」やってくる。
疲れた旅人。
番を失った者。
逃げ出した少年。
声をなくした少女。
そして、そのすべてを迎える者たちがいる。
レイと、カイル。
ふたりは、いま『風案内の家』を開いていた。
村の古い小屋を改装し、
誰でも泊まれて、話して、静かに過ごせる場所として。
門の表札には、こう書かれている。
「風は読まなくていい
感じられたら、それで充分」
カイルは、村の子どもたちに剣術と身体の使い方を教えていた。
もう王家の騎士ではない。
でも、守るべきものは、ずっと明確になった。
「強くなるって、こういうことなんだよ」と、
彼は子どもたちに立ち上がり方を教えていた。
レイは、旅人や来客の話を聞きながら、
薬草を煎じ、夜には火を灯して待っていた。
昔は風を読めなかった彼が、今では人の話す前の“呼吸”を読む。
それが「風を感じる力」だと、今なら知っている。
ある春の夜。
焚き火のそばに、若い男女が座っていた。
番制度に縛られていたふたり。
レイの語った昔話に、彼らは涙をこぼしていた。
「本当に……そんな愛し方が、あるんですね」
「うん。あったし、今もある。
ほら、ここに」
カイルがレイの指をとり、小指と小指を絡める。
見せびらかすようにではなく、ふたりにとって自然な仕草として。
風が吹いた。
そのふたりの影が、火の中で寄り添う。
「指きりげんまん。
何度だって、愛を選び直せる」
その夜、若いふたりもまた、指を重ねた。
風は変わっていく。
世界も、制度も、名前も、関係も。
けれど、風の中でつながった誓いは――
確かに誰かの背中を押していく。
そうやって、レイとカイルの物語は
――――――いま、誰かの未来になっていた。




