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27-祝福の歌

 ――――季節はまた巡り、風花の咲く時期がやってきていた。


レイとカイルは、丘の村へと戻ってきた。

かつてレイが「風を読めない聖男」として、ひっそりと暮らしていた村。


そして――カイルとの約束を胸に、10年の歳月を待った場所。


二人が村に現れたとき、最初に気づいたのは子どもだった。


「あっ! 風花の聖男さまが、帰ってきた!」


その声が駆け回り、あっという間に、村中がざわめいた。


レイは少し困ったように笑い、

カイルは「君、人気者だったんだな」と囁いて、レイの手をそっと握った。


それを見た村の老婆が、目を細めた。


「そのお方……風の丘で待っていた『あの騎士様』じゃろ?

 よう戻ってきたねえ、レイさま。

 わたしたちは、いつも噂してたんじゃよ――

 きっと、風が吹く日がまた来るって」


広場に人が集まり、

ひとり、またひとりと、花を持ち寄る。


風花の冠を編んだ少女が、恥ずかしそうに近づいてきた。


「これ……聖男さまと、聖男さまの、大事な人に」


レイとカイルは、互いを見て、笑った。


レイは、冠の片方をカイルの頭に乗せる。


「君のこと、大事な人って呼ばれたの、今が初めてかも……

 ……ちょっと、僕泣きそうなんだけど……」


カイルは、小さく頷く。


「じゃあ、泣いていいよ。今日は、祝福の日だから」


風が吹いた。

誰かが笛を吹きはじめ、子どもたちが輪になって踊りだす。


村人たちは、自然に祝福の歌を口ずさみはじめた。


誰も命じていない。

でも、風に乗って、それは村全体へと広がっていった。


「制度がなくてもいい」

「わたしたちは、風の中で出会い、風の中でつながった――それでいい」


その夜、焚き火の火が空に舞い上がる中、

レイとカイルは丘の上に並んで座った。


レイが、小指をすっと差し出す。


カイルは、笑ってそれを絡めた。


「もう、何度目の指きりか分からないね」


「でも何度しても、毎回、いちばん大事だと思えるよ」


ふたりの指が、そっと結ばれる。


そのとき、風花の種が空に舞い――

丘の上に、ふたりだけの風が静かに吹いた。

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