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25-二人で風を切って
「今、下で時間を稼いでくれてる」
カイルがレイの手を握る。
その手はまだ傷だらけで、熱を帯びていたけれど、力は確かだった。
レイは頷く。
「行こう。風があるうちに――君と一緒に」
ふたりは塔の非常階段を駆け下りた。
重い石の壁に、靴音が吸い込まれていく。
遠くで騎士たちの怒声が聞こえる。
でもレイは、怖くなかった。
だって、手を離していない。
もう、ひとりで走る道じゃない。
階段を下り、古い戸口を抜け、外の風が吹いた。
王都の朝はまだ始まったばかりで、街は眠気を残していた。
その隙間を縫うように、ふたりは石畳の道を走る。
「風が、……吹いてる!」
「うん。君といると、ちゃんと息ができる!」
かつて、別れたときと同じように。
でも今は、ふたりで並んでいる。
それは逃避じゃない。
――――この先に、なにかを取り戻すための“風の始まり”だった。




