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22-風の途絶えた都

王都の空気は、重かった。


建物が石造りで高く、空が狭く見える。

道は真っ直ぐで整っているのに、風が曲がっているように感じられた。


レイは、モールと並んで歩いていた。


「大丈夫かい? 王都は谷と違って、「耳に届かない音」が多いからね」


「平気。……でも、息がしづらい」


「ここは『秩序』と『契約』の街。

 風も感情も、みんな仕立てられたまま動いてる。

 でも、君みたいな人には、だからこそ『本当の風』がわかる」


ふたりは、城の外周をぐるりと囲む内堀沿いの道に入った。


高い塀の向こうには、王家の学び舎や、貴族用の図書塔、そして――

目的の塔があるはずだった。


「彼が閉じ込められているのは、東の塔のはず。

 本来は外交官のための施設だった場所だ。今は、番契約の準備用に使われてるらしい」


「……そこに、カイルが?」


レイの胸が静かに脈打つ。

小指が、じわりと熱を持ちはじめた。


ふと、足を止める。


「どうした?」


「今、風が……かすかに動いた」


高い壁の向こうから、ほんの一瞬、草の匂いと金属の匂いが混じった風が抜けた気がした。


それは、レイが知っているカイルの匂いだった。


「この道じゃない。こっち」


レイは細い路地に足を踏み入れた。

モールが軽く驚いたように目を細める。


「……やっぱり、君は風を読んでるよ」


壁に沿って歩くうち、苔むした裏門が現れた。


「ここからなら、古い通用路を辿って塔の下まで行ける。

 僕が昔、逃げたときと同じ道だ」


モールが懐から取り出したのは、小さな鍵と風紋の入った銀の飾り。


「これは、もう使われていない家系の証印。

 警備に気づかれずに通るには十分だよ」


レイはうなずいた。


門が開き、石造りの通路に踏み入れる。


湿った空気。埃の匂い。けれど、ここにもかすかに、風花に似た香りが混じっていた。


ひとつ、ひとつ、確かめるように階段を昇る。


そして、石の扉の向こうに――


カイルの気配が、ある。


レイの指が震える。


「彼は、ここにいる」


モールはそっと、扉の前で立ち止まる。


「ここから先は、君の言葉で開けなきゃならない。

 君の風を、君の声で通すんだ」


レイは目を閉じ、小さく息を吸い、手のひらを扉に触れた。


「……カイル。

 また会おうって言ったよね。

 でももう、待たなくていい。

 今度は、『連れて帰る』って、誓うよ」


扉が、音もなく開いた。


暗い石室の中――

光の中で、カイルが、ゆっくりと顔を上げた。

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