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19-風脈石

 騎士の腕に引きずられるようにして、カイルは馬車へ押し込まれた。


傷の痛みも、足の力の抜けも、もうどうでもよかった。

ただ――レイが、あの風の丘に立ったまま、小さくなっていくことだけが、たまらなかった。


「レイ……っ!」


叫ぶ。

風がその声を運んでくれることを願って。


だが、扉は無情に閉ざされる。

馬車が石畳を鳴らして走り出した。


丘にひとり残されたレイは、しばらくその場を動けなかった。


目を見開いたまま、無音の風の中に立ち尽くしていた。


小指には、まだカイルの温もりが残っている。

けれど、それは風のように、もうすぐ消えてしまう。


指を見つめたまま、レイは唇を震わせた。


「……また、待つだけなんて……

 今度は、もう、嫌だ……!」


風が吹く。


その風の中に、レイはもう、少年ではない自分を感じていた。


その夜。

レイは村の長老のもとを訪ねた。


「王都に行きたい。……彼を、取り戻しに行く」


静かな言葉に、長老は目を細めた。


「風が、ようやく通るようになったと思ったら――

 今度は、嵐を呼ぶ風になるんだな」


レイは答えなかった。

ただ、じっと前を見ていた。


「……だったら、聖男であるお前に、吹く風を託そう」


そう言って渡されたのは、風読みの一族に代々伝わる旅装束と、ひとつの封印袋。


袋の中には、白く透けた風脈石がひとつだけ。

この石は、地面に叩き付けると、爆風を起こす危険な石。


「風を読めなくても、道を通すことはできる。

 風花の咲く者よ、風の道を切り開け」


そして夜明け前。

レイは風花の丘をひとり下りて、旅に出た。


道も地図も持たない。

けれど、風はちゃんと吹いていた。


「待ってて、カイル。

 今度は、僕が――君を迎えに行く」


その言葉と共に、足音が静かに草を踏みしめた。


レイの背には、風がある。

――――そしてその先には、きっと再び指を絡める瞬間が、待っている。

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