18-もう一度、君と誓った朝に
――――朝の風は、やさしかった。
丘の上空には、薄雲が流れ、陽の光がまだ柔らかく地面を照らしている。
カイルが目を覚ましたのは、そんな風の音が木々を揺らす静かな朝だった。
目を開けた先に見えたのは、レイの姿。
風花の咲く丘で、いつか見たままの、けれど少しだけ大人になったレイが、こちらを見つめていた。
「……おはよう」
カイルがそう呟くと、レイはほっとしたように微笑んだ。
「おはよう。……今度はちゃんと、朝まで寝てくれたね」
「君がいてくれたから。……夢だと思わなかった」
「夢だったら、もっと優しくできたのに」
「現実の方がいいよ。……痛くても、君の手のぬくもりがある方が、ずっと」
ふたりはゆっくりと手を伸ばし合い、小指と小指を絡める。
かつて子どもの頃に交わした“指きり”の、10年越しの再誓約。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら――」
「風に嫌われる」
「絶対、また君と――」
――――その瞬間だった。
「そこにいるのは、カイル=ヴァレンティだな!」
鋭い声が、木々の奥から響いた。
レイが息をのむと同時に、数人の騎士が林を割って姿を現す。
銀の鎧。王都の紋章。
一人は弓を構え、もう一人は剣に手をかけていた。
「反逆罪により拘束する! 抵抗するなら力ずくで連れて行く!」
カイルが咄嗟にレイを庇うように前に出ようとする。
だが足の傷がまだ癒えておらず、膝が崩れかけた。
「カイル!」
レイが慌てて支える。
その腕の中で、カイルは唇を噛んだ。
「くそ……今だけは……誓ったばかりなのに……」
「大丈夫」
レイの声は、静かだった。
怯えも、怒りもない。ただ真っすぐに、風の通り道のような目をしていた。
「私たちの誓いは、誰にも壊せない。
君が約束を守ってくれたように、今度は僕が、守るから」
レイは小指を握ったまま、立ち上がる。
風が吹く。
風花が揺れる。
風の中で、約束の指はまだ――重なったままだった。