表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/29

18-もう一度、君と誓った朝に

 ――――朝の風は、やさしかった。


丘の上空には、薄雲が流れ、陽の光がまだ柔らかく地面を照らしている。

カイルが目を覚ましたのは、そんな風の音が木々を揺らす静かな朝だった。


目を開けた先に見えたのは、レイの姿。

風花の咲く丘で、いつか見たままの、けれど少しだけ大人になったレイが、こちらを見つめていた。


「……おはよう」


カイルがそう呟くと、レイはほっとしたように微笑んだ。


「おはよう。……今度はちゃんと、朝まで寝てくれたね」


「君がいてくれたから。……夢だと思わなかった」


「夢だったら、もっと優しくできたのに」


「現実の方がいいよ。……痛くても、君の手のぬくもりがある方が、ずっと」


ふたりはゆっくりと手を伸ばし合い、小指と小指を絡める。

かつて子どもの頃に交わした“指きり”の、10年越しの再誓約。


「ゆびきりげんまん、嘘ついたら――」


「風に嫌われる」


「絶対、また君と――」


――――その瞬間だった。


「そこにいるのは、カイル=ヴァレンティだな!」


鋭い声が、木々の奥から響いた。

レイが息をのむと同時に、数人の騎士が林を割って姿を現す。


銀の鎧。王都の紋章。

一人は弓を構え、もう一人は剣に手をかけていた。


「反逆罪により拘束する! 抵抗するなら力ずくで連れて行く!」


カイルが咄嗟にレイを庇うように前に出ようとする。

だが足の傷がまだ癒えておらず、膝が崩れかけた。


「カイル!」


レイが慌てて支える。

その腕の中で、カイルは唇を噛んだ。


「くそ……今だけは……誓ったばかりなのに……」


「大丈夫」


レイの声は、静かだった。

怯えも、怒りもない。ただ真っすぐに、風の通り道のような目をしていた。


「私たちの誓いは、誰にも壊せない。

 君が約束を守ってくれたように、今度は僕が、守るから」


レイは小指を握ったまま、立ち上がる。


風が吹く。

風花が揺れる。


風の中で、約束の指はまだ――重なったままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ