12-選ぶという罪
カイルは、20歳になり、ついに騎士団の副団長に抜擢された。
王家直属の部隊に昇格し、民の中では「将来の団長」として囁かれる存在になる。
だがその分、自由は失われていった。
彼に与えられたのは、『平和の証』という名の政略。
隣国との同盟のため、カイルは王家の命令で、隣国の王子との番契約を結ぶことを命じられる。
「アルファ同士の番契約は象徴的だ。形式で済む。
君に感情がなければ、それで構わない」
――そう告げられたが、カイルの心は凍りついた。
レイの顔が、声が、指先が、風花の香りが、すべて鮮やかに甦った。
「君に、風の音がする場所を。
君に、また『おかえり』って言ってほしかったのに」
夜、決意は静かに形になった。
彼は儀式の3日前、21歳の誕生日を機に、軍の目を盗んで脱走した。
剣も鎧も捨て、身ひとつで谷を目指す。
道中、森で野犬に襲われて腕を噛まれ、追っ手の弓で足を射抜かれた。
それでも彼は歩いた。這い、血を垂らし、丘を目指した。
ある夜。
ボロボロの衣のまま、倒れ込むようにあの風花の丘にたどりついた。
月が照らす中、そこに人の気配があった。
彼はかすかに、風に乗って漂う懐かしい匂いを感じる。
「レイ……?」
だが声にならなかった。
意識が深い闇に沈む直前、
カイルの指は、弱々しく空を掴んだ。
探すように、
何かを確かめるように、
たったひとつの、あの日の約束を――指先で、もう一度。