7/29
07
工場の中は、昨日より少しだけ整っていた。
床のほこりが掃かれていて、ソファの位置も変わっていた。
新しい毛布のようなものが一枚、隅に丸めて置いてある。
茜は今日も缶コーヒーを飲んでいたけど、
その横には、コンビニの袋と小さな保冷バッグがあった。
「……ここって、夜もいるの?」
俺が口にすると、茜は小さく肩をすくめた。
「うん。だって、どこにも帰るとこないし」
あっさりした口調だった。
日常のひとつみたいに、それを言う。
「でも大丈夫だよ。
風は通るし、屋根は穴空いてないし。冬はちょっと寒いけどね」
何もなかった工場が、ほんの少しだけ“暮らし”に見えた。
それが、逃げてきただけの俺には、ちょっと重たかった。