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翌日、気づいたら足が向いていた。
学校には行った。ホームルームも出たし、授業も座っていた。
でも、どこにも“いた”気がしなかった。
黒板の字も、先生の声も、頭に入ってこない。
だから放課後、寄り道みたいなつもりで、あの廃工場まで歩いた。
昨日と同じ空気。
風のにおいと、錆びた金属のきしむ音。
誰もいない街のはずなのに、そこだけ、ちゃんと生きている気がした。
扉を開けた瞬間、視線がこちらを向く。
「また来たんだ、きみ」
茜は昨日と同じ場所に座って、昨日と同じ缶コーヒーを持っていた。
缶を持ったまま、ちらりと目を合わせた。
その視線が、昨日よりも長くとどまった気がした。