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その日の朝、父の機嫌は最悪だった。
箸の置き方が気に入らなかったらしい。
「舐めてんのか」と言われて、肩を強く押された。
制服の肩がしわになったまま、家を出た。
教室でも何かがずれていた。
いつものように静かにしているだけなのに、
なぜかクラス全体の空気から一歩外れている感じがして。
黒板の前で先生が何かを言っていた。
誰かが後ろの席でくすっと笑った。
その全部が、耳じゃなく、頭の外側で響いているように感じた。
自分が、ガラスの中にでも入ってるみたいだった。
そう思ったら、もう限界だった。
何も考えずに立ち上がり、廊下に出て、校門を抜けた。
見送る視線はなかった。
電車に乗るわけでもなく、ただ、静かな場所を求めて歩いた。
いつの間にか、錆びた工場や廃倉庫が並ぶエリアにたどり着く。
名前もない建物の前で、しばらく立ち尽くしていた。
なにもないのに、ここだけ空気がやわらかい気がした。