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その日、茜が紙袋を持って工場にやってきた。
「何それ?」
俺がそう聞くと、茜は少し照れくさそうに袋の口を開いた。
中には、小さな観葉植物がひとつ。
丸い葉っぱのあいだに、白いタグがついていた。
「なんかさ、ちょっと緑があったほうがよくない?」
「……こういうの、ひとつくらいあってもいいかなって」
俺は笑いながら、もう一枚の袋を差し出した。
「偶然だな。俺も買った」
中身は、小さなプランターとスコップ。
思わず顔を見合わせて、ふたりして笑った。
ソファと缶コーヒーの間、
ラジオの横、ちょうど真ん中あたりに、
ふたりで選んだ場所にそっと置いた。
葉の間から、ひょろっと伸びた新芽が一枚だけ揺れていた。
工場の中に、命みたいな色がひとつ、加わった。
なんでもない午後だった。
でも、その緑は、ここでこれから生きていくように見えた。




