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雨は止んでいた。
工場の屋根を打っていた音が消えたことに、少ししてから気づいた。
ラジオは流れていない。
缶コーヒーも開いていない。
ふたりで黙っている時間が、当たり前のように戻ってきていた。
茜は奥のスペースで毛布を抱えたまま、ぼんやり天井を見ていた。
俺は少し離れたところに座って、壁にもたれていた。
やがて、茜がぽつりと口を開いた。
「ねえ、きみ」
「ん?」
「……まだ、ここにいていい?」
その言い方は、笑っているようでも、泣きそうなようでもあって。
俺はすぐに返事ができなかった。
でも、迷いはなかった。
「いてよ。ずっと」
声にしてみると、自分でも思ったよりまっすぐだった。
茜はこくんと小さく頷いて、毛布の中に顔をうずめた。
それきり、何も言わなかった。
でも、その小さな頷きがすべてだった。




