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茜は何も言わず、ただ俺の隣に立った。
それだけで、すべてを話したような気がした。
「……帰ろっか」
俺がそう言うと、茜はほんの少しだけ頷いた。
工場までの道は、雨でしっとりと静まっていた。
ふたりで歩く音が、やけに整って聞こえた。
扉を開けると、茜が小さく息をのむのがわかった。
ソファは立て直され、散らばっていた毛布は畳まれて、
ブルーシートと脚立で作った簡易の壁が、奥をゆるやかに仕切っていた。
「……なんか、すごいね」
「直した。……てか、改造した」
照れ隠しみたいに言ったけど、本当は必死だった。
この場所が壊されたとき、俺は本気で泣きそうになったから。
「守ろうと思ったんだ。ここだけは」
茜は何も言わなかった。
でも、奥のスペースまで歩いていって、
静かにソファに腰を下ろした。
「……なんか、帰ってきたみたいだね」
その言葉で、俺はようやく息ができた。




