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雨が降っていた。
傘をささずに、坂をゆっくり下りる。
ぬれたアスファルトが、街灯の光を静かに返していた。
俺は、通学路ではない裏道を選んだ。
茜が話していた“静かで気持ちいい坂道”。
音が抜けて、心が落ち着くって、そう言っていた道。
もしまだ、どこかにいるとしたら。
誰にも見つからない場所を、きっとまた見つけてるはずだ。
あの日の会話を思い出しながら、何本も道を選んで歩いた。
人気のない公園、小さな橋の下、空き地の隅。
どこも誰もいなかった。
そして、ふと曲がった先の路地。
雨の匂いが濃くなった気がして、足を止めた。
そこに、誰かが立っていた。
制服でもなく、傘もさしていない。
見慣れた後ろ姿。
小さくなった肩。
ポケットに手を入れて、じっと足元を見つめていた。
「……茜」
名前を呼んだのは、無意識だった。
彼女が振り返る。
ゆっくり、でも確かに。
目が合った。
声も出さず、笑いもせず、ただ少しだけ目を細めて。
それが——すべての返事だった。




