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その日、茜は来なかった。
待っても来ない、というのがこんなに静かなのかと、工場の空気が教えてくれた。
翌日、学校を早退して、もう一度向かった。
工場の中に足を踏み入れると、ソファの上に置かれていたのは、一枚の紙だった。
手書きのメモ。文字は少し歪んでいた。
《ごめんね。ちょっと疲れた。もう、いいかなって思って。》
名前は書かれていなかった。
でも、他の誰でもない茜の字だった。
俺はメモを握りしめたまま、しばらく動けなかった。
缶詰も、毛布も、置いたままだった。
だからきっと、「全部捨てたわけじゃない」と思いたくなった。
でも、わかっていた。
茜は、ここからいなくなった。
彼女は、追われて逃げたんじゃない。
誰にも壊されないように、自分で線を引いたんだ。




