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「ねえ、きみさ。今日、ちょっと早めに帰ったほうがいいかも」
茜がそう言ったのは、あの足音が聞こえた翌日のことだった。
「……たぶん、また来る気がする。昨日のやつら」
俺は一瞬迷ったけど、首を振った。
「俺、残るよ」
茜は少し驚いた顔をして、口を開きかけて、閉じた。
「別に、見張るとかじゃなくて」
俺はそう付け足した。
「ここにいたいだけ。……いてもいいでしょ?」
茜は小さく笑って、「うん」と言った。
でも本当は、ただ“いたい”だけじゃなかった。
この場所が誰かに踏み荒らされることが、想像以上に嫌だった。
缶詰を食べて、笑って、眠ったこの場所が、俺と茜の時間があったこの場所が――
壊されるかもしれない、って思ったら、胸が苦しくなった。
初めてだった。
自分のためじゃなく、誰かと築いた場所を守りたいと思ったのは。




