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それは、ほんの小さな音だった。
工場の外から聞こえた、足音。
コンクリートを擦るような、靴の引きずる音。
最初は気のせいかと思った。
でも、茜の表情がすっと固まったのを見て、俺も息を止めた。
「……誰か来てる?」
「たぶん。外、通っただけかもしれないけど」
茜は立ち上がり、工場の入り口近くまでそっと歩いていく。
俺も、何も言わずについていった。
入り口の隙間から外をのぞく。
金網の向こう、道路沿いを数人の影が通り過ぎていく。
制服じゃない。
見覚えのある顔もある。
あいつら、確か近所の中学のやつらだ。
笑い声が聞こえる。
「廃工場ってさ、誰か住んでるらしいぜ」
背中に冷たいものが走った。
彼らが何かを壊したわけじゃない。
でも、“知られてしまった”という事実だけで、この場所が、前みたいには戻らない気がした。




