カレンダーを捲らないでっ!
ペリッとカレンダーが捲られる。
(うわぁああ、やめてよちょっとーー!)
私は心の中で叫ぶ。
しかし、現実というのは無常である。
「ああ……、後、一ヶ月もない」
私は目の前にある『スラスラと頭に入る☆☆語!!』という本に視線を落とす。
「えっと、今、何ヶ国語、覚えたっけ……?」
右手の指を、一本ずつ立てていく。
「うっ、駄目だ。後、二つは覚えないと、皆に揶揄われる……」
「……それはアンタの被害妄想だろ?」
スケボーを持った青年が私に笑いかけてきた。
「そ、そうかもしれませんが、覚えておいて損はないでしょう?……貴方だって私のこと笑えない癖に」
青年は「そりゃあ、まあ、そうだけど……」とむすっとした顔になる。
「ちなみに、今、どれくらいの数のスポーツを覚えているんですか?」
「四十」
「えっ、凄い!!」
「でも、完璧にできるかってなると怪しいな……」
その時、「すみませーん」と眼鏡をかけた少女がやって来た。
隣には、好々爺然としたお爺さんもいる。
隣の県に住んでいる二人だ。
「☆☆語を勉強しているんでしたら、一緒にやりませんか?」
「ワシは、お前さんに『すけぼー』なるスポーツを教えてもらおうと思っての」
少女は私に声をかけ、お爺さんは青年に声をかけた。
「勿論、仲間がいると心強い!!」
「いいですよ。俺も教えてもらいたいことがあるんですけど……」
◇◇◇
数日後
「っしゃあ、これで大丈夫!ありがとう!!」
そう言って私は少女の手を取る。
「いえ、私もわからないことだらけでしたので……」
はにかんだ笑顔が可愛らしい。
「ありがとの、お若いの」
「いえ、こちらこそ。……若いって言って五十歳差ですよね?」
お爺さんは「はっ、はっ、はっ、違いない」と笑う。
「ふぅ……、やれやれ。元は弓専門じゃったんじゃがな」
「俺も、元は毬でした」
青年は「時代ですねー」と続ける。
「私は、『縁』を結んだり、切ったり。ただ、最近は海外の人も多いからね~」
「私も最初は戸惑いました。『なんて書いてあるの?』って……」
「やっぱ、縁あって来てくれたんだし、ちゃんと答えたいもんねっ!!」
「はい!と言っても、この年で語学を学ぶことになろうとは……ですけど」
「……年々、増えているしね」
私は、ははは……と頭を掻く。
「ま、何はともあれ、これで一安心じゃの」
「はい、後は身支度を整えて……」
二人の言葉に、私達も立ち上がる。
「向かいましょうか!出雲へ!!」
神無月まで、後、少し――。