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2 真相

「歴史改変罪は、未遂しか処罰されない。何故か分かるかな?」


 田村名誉教授の唐突の問いに横倉が戸惑っていると、田村名誉教授は答えを待たずに話し始めた。


「歴史改変に成功すれば、それが()()()()になる。誰も処罰なんて出来ないんだよ。だからこそ、歴史改変は重罪とされているし、時間旅行には様々な規制、ルールが定められている。まあ、歴史には強い修正力が働くから、そう簡単に歴史は変えられないがね」


 田村名誉教授は窓の外をしばし見つめた後、再び話し始めた。


「40億年前の地球環境は過酷だ。LUCAプロジェクトでは、地球周回軌道上から地球を詳細にスキャンすることにした」


「プロジェクトは順調に進み、共通祖先の一歩手前である真正細菌、古細菌、そして真核生物を発見した。しかし、その先がどうしても見つからなかった」


「見つからない?」


「そうだ。ある時点から突然その三種類の生命が現れ、それより前に生命は存在しなかった。そして、その時点とは、LUCAプロジェクトが当初予定していた調査終了時点だった」


「我々は必死に地球をスキャンした。しかし、どうしても共通祖先は見つからなかった。我々は激論の末、ある結論に達した……」


 そこまで話すと、田村名誉教授は横倉の目をじっと見つめた。横倉は息を呑んだ。


 田村名誉教授は、憐れむような、慈しむような不思議な表情で微笑んだ。


「……共通祖先は存在しなかった。三種類の生命が、ある日突然、何らかの存在により地球にもたらされたのだ、と」


 リビングが静まり返り、古風な時計の秒針の音だけが聞こえた。横倉は、震える声で田村名誉教授に尋ねた。


「そ、それはつまり、宇宙人や神が生命を創造したということですか?」


 田村名誉教授が乾いた声で笑った。


「ははは。そうであればまだ救われたのだがな。残念ながら、そういった存在は確認できなかった。宇宙から地球への飛来物も詳細に調べたが、生命の起源は見つからなかった」


「我々は、熟考に熟考を重ねた結果、サンプルとして持ってきていた三種類の生命に少々手を加えたものを、調査最終日の時点で軌道上から地球へ投下した」


「と、ということは……」


 横倉は言葉に詰まった。その先を口にすることは、とてつもなく恐ろしいものに感じられた。


 田村名誉教授が微笑みながらその先を答えた。


「そうだ。この地球上の全ての生命の祖先は、我々が造り出したものだ」



 † † †



「もとの時代に戻った我々は、虚偽の報告書をまとめた。共通祖先は発見したが、極めて不安定な状況下での誕生であったため、十分な調査はできなかった、そして、その不安定な状況に少しでも悪影響を及ぼすと、地球上の全生命に重大な影響を与えるおそれがあるということにした」


「これを受け、政府はその時代への時間旅行を今後一切認めないこととし、歴史改変テロ防止のため、報告書は公表しないこととした。これが真相だよ」


 人類を含めた地球上の全ての生命の起源は、LUCAプロジェクトの参加者によって創造された……そのあまりの内容に横倉が絶句していると、田村名誉教授が呟くように話し始めた。


「卵が先かニワトリが先か、という話を知っているかな?」


「は、はい。聞いたことはあります。ニワトリは卵から生まれますが、その卵はニワトリが産む。どちらが先か分からない……」


 横倉が戸惑いながら答えると、田村名誉教授が優しく微笑んだ。


「そのとおり。どちらが先か分からない。我々が行ったことも、それと同じことじゃないかな?」


「同じこと?」


「そう。同じことだ。我々は地球上の生命の祖先を創造した。その我々は、我々が創造した生命から進化した。その歴史は、まるで終わりのない輪舞曲のように、永遠に繰り返され、循環する……」


「……あの時の我々の決断は正しかったのか。ずっと悩んできた。だが、最近になって、こう思うようになってきた」


「あの時の、地球全生命の歴史の流れの分水嶺に我々を導いたのは、まさに神仏のような何らかの存在ではなかったのか、とね」


 田村名誉教授は遠い目をしながら微笑んだ。その表情は、まるで神か仏かと思えるような神々しさだった。



 † † †



 インタビューから1週間後、田村名誉教授は亡くなった。老衰で、穏やかな最期だったそうだ。


 横倉はインタビューを整理し、文章にまとめた。散々悩んだ結果、公表はしなかった。自分が亡くなるとき、息子か他の信頼できる者にこの真実を伝えることにした。


 生命の歴史の輪舞曲は、静かに流れ、循環していく。その真実は、それを知る最後の一人から次の世代へ、ひっそりと引き継がれていく。

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― 新着の感想 ―
陰謀論の一種ではありますが、星新一のSFにも出て来そうな壮大な「タイムマシンのパラドックス」で、懐かしいさ感じました。 楽しませて頂きました。
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