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1 インタビュー

 関東郊外のとある地方都市。歴史ジャーナリストの横倉は、緊張した面持ちで民家の呼び鈴を鳴らした。


 ドアが開くと、旧式の汎用家事ロボットが現れ、横倉をリビングに案内する。


 リビングでは、今回のインタビュー相手である田村名誉教授が、介護用自走椅子に静かに座って待っていた。


 田村名誉教授は、細身の白髪頭。かなりの高齢だが、銀縁メガネの奥の眼光は鋭く、厳しそうな印象だ。


「田村先生、本日はインタビューをお受けいただきありがとうございます」


 横倉が深々と頭を下げると、田村名誉教授は無言で頷いた。介護用自走椅子の肘掛けから腕を上げ、ジェスチャーで横倉に座るよう促す。


 田村名誉教授の向かいのソファーに腰掛けた横倉は、タブレット端末を取り出しながら、田村名誉教授に笑顔で話しかけた。


「まさか『LUCA(ルカ)プロジェクト』に参加された方で唯一ご存命の田村先生にお話をお聞きできるなんて。お恥ずかしながら、夕べは興奮で眠れませんでした」


 タイムマシンが実用化されてもうすぐ100年。官民問わず、かなり自由に「時間旅行」ができるようになっていた。


 しかし、今から40億年ほど前の冥王代と太古代の境目、ある特定の時代だけは、「時間旅行」が許可されなかった。技術的には可能であるにも関わらずだ。


 その時代に唯一行ったことがあるのが、田村名誉教授をはじめとした「LUCAプロジェクト」のメンバーだった。


「君は、LUCAプロジェクトについてどこまで知っているのかな?」


 田村名誉教授が厳しい顔のまま横倉に聞いた。横倉が真面目な顔になって答えた。


「LUCAプロジェクトは、Last Universal Common Ancestor、すなわち、地球の全生命の共通祖先を探すプロジェクトでした。少数精鋭の科学者達が、タイムマシンで冥王代と太古代の境目の時代を詳細に探索したと聞いています」


 横倉がタブレット端末のデータを見ながら話を続ける。


「しかし、LUCAプロジェクトは突然中止。地球生命の共通祖先を見つけることは出来ませんでした……」


 横倉はタブレットから顔を上げた。表情を和らげながら話を続ける。


「……というのが公式の説明ですが、LUCAプロジェクトの詳細報告書は公表されず、しかも、LUCAプロジェクト以降、同時代への旅行が一切認められなくなったことから、巷では様々な噂が流れています。中には、神や宇宙人との接触を隠蔽しているといったトンデモ話もあるくらいです」


 横倉は笑ったが、田村名誉教授はピクリとも顔を動かさず、無言で横倉を見つめていた。


 横倉は真面目な顔になって話を続けた。


「LUCAプロジェクトの参加者は、公式の説明内容以外について、何も語りませんでした。しかし、参加者の間で、ある約束があった……」


「最後に残った一人が、()()を後世に伝える、か……」


 田村名誉教授がポツリと呟いた。横倉が頷く。


「先月亡くなった私の祖父の、最期の言葉でした。初めは何のことか分かりませんでしたが、色々と調べるうちに、祖父がタイムマシンオペレータとしてLUCAプロジェクトに参加していたこと、そして、田村先生が参加者最後の生存者ということが分かりました」


 横倉は姿勢を正し、田村名誉教授の顔を見つめた。


「祖父は最期にこうも言っていました。『私は歴史改変の大悪人か、それとも救世主か』……LUCAプロジェクトで一体何があったのか、歴史ジャーナリストとしてだけでなく、プロジェクト参加者の孫として、その真相を知りたいと考えています」


 田村名誉教授は、深いタメ息をつくと、遠くを見つめた。


「君のおじいさんは、腕のいいタイムマシンオペレータだった。我々と秘密を共有した同志だった……」


 田村名誉教授はそう呟くと黙った。静寂がリビングを包み込んだ。


 長い沈黙のあと、田村名誉教授が口を開いた。


「よかろう。あの時、何があったのか。君に全てを伝えることにしよう」


 田村名誉教授は、静かに語り始めた。

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