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009 狼

 森に入ってから2日程経った。

 追っ手が来ないところを見ると森へは捜しに来なかったのかな?

 あるいはダンジョンの中までは入って来なかったか。

 既知のダンジョンであれば情報がある為に捜索範囲に含めるかも知れないが、ここは全くの新規のダンジョンだった筈なので、私が逃げ込むには些か危険すぎると判断されたか。

 私だって自ら入り込んだりはしないもんね。

 つい迷い込んじゃっただけで……。

 ほんで、出口どこよ?


 狼の魔物が鬱陶しいので、眠くなったら木の上で寝てるけど、一人だとうっかり熟睡も出来ない。

 今のところ狼しか見て無いけど、このダンジョンのテーマは森林のようなので蛇とかもいるかも知れないし。

 一応解毒剤は子爵家から持って来てるけどね。

 あの夫婦は毒殺を恐れて色々な解毒剤を用意してるから、そっち方面の用意は万全に出来た。

 元々は私の父が稼いだお金で買ったものだし、ちょっとぐらい拝借してもいいでしょ。

 セバルフは私か妹のアリアに子爵家を取り戻して欲しいみたいだけど、もう財産なんて残ってない名前だけの爵位とかいらんし。

 子爵領だってゲスオールの雑な運営のお陰で経済不振だから、立ての直すのだって容易じゃない。

 私的にはもう子爵家なんて放り捨てて、自由に生きたいと思ってるんだよね。

 今回の逃亡を期に、新しい人生の始まりとしてもいいんじゃないかな?

 まぁ指名手配されちゃってるという問題は残るけど。

 子爵家よりも力のある貴族の後ろ盾でも無い限り、ひっそりと隠れて暮らさなければならないのは困るかも。


 と考えながら、狼の魔物達を倒し進んで行く。

 進んでるのかな?

 ずっと同じ狼の魔物しか出て来ないけど、まさか同じとこグルグル回ってないよね?

 いや、よくよく狼の襲ってくる方向を考えると、一方向へ誘導されているみたいだ。

 魔物は群れを成さないんじゃ無かったの?

 それとも統率している何かがいる?

 ダンジョンコアならやりかねないか。

 基本的にダンジョンコアはダンジョンを作り続けるだけで、特定の対象に対して行動を取る事は無い。

 しかし自身が破壊されそうな場合は例外となり、理不尽な攻撃を仕掛けてくる事もあるらしい。

 私は訓練としてセバルフに何度か連れて来られただけで本格的に攻略した事は無いから、実際にそのような事が起こるというのは聞いた事があるだけだ。

 でもこの狼達の怪しい動きからは、何らかの意図が見える気がする。

 そして……、


「ほ〜ら、お出ましだ」


 狼達のボスと思われる、体長5m程もある巨大な白い狼が目の前にのそりと現れた。

 その赤い瞳でこちらをじっくりと観察しているみたいで、一先ず距離を取ったまま襲いかかっては来ない。

 恐らく他の狼から情報を得ていて、不用意に踏み込めば串刺しになると分かっているのだろう。

 確かに今まで狼達に見せた攻撃は、剣を収納から半分出して串刺しにするというものだけだった。

 だから私の攻撃は後の先を取るものだと思ってるんだろうね。

 まぁ今のところそれだけで十分そうだから新しい技は試してないけど、狼君、人間様を侮り過ぎじゃない?


「アオオオオォーン!!」


 狼が吠えると風の刃が複数こちら目がけて飛んで来た。

 なるほどね、魔法による攻撃なら串刺しにはならない——と思ってるんだ。

 私は子爵家から持って来た盾を半分収納から出して風の刃を防いだ。

 自分で持つより半分収納したままの方が位置固定能力が高いので、防御には最適だ。

 但し収納から出している部分は攻撃を受ければ損傷していくので、絶対防御という訳ではない。

 なるべく固い盾欲しいなぁ。

 子爵家から持って来た盾は、風の刃でそれなりに傷がついてしまっていた。

 あまりあの攻撃を受け続ける訳にはいかなそうだね。

 さて、そろそろ来る頃かな?

 おっと、一旦収納して軌道修正。


「グギャアアアアアアァッ!?」


 空から舞い降りた一振りの剣が狼の背中を貫いた。

 さっき戦闘が始まる前に収納から上空に剣を出しておいたのだ。

 それが重力によって自由落下し、加速した状態で狼に向かって落ちてきていた。

 途中空気抵抗で傾いたりしたのを何度か修正して、最後にちょっと落下位置がズレていたのでもう一度収納して狼の背中の上辺りで排出した。

 収納されている異空間内では時間が止まる。

 それは温かいスープが温かいまま保存されていた事から判明している。

 そしてこの温かいというのが超重要だったのだ。

 熱というのは分子の運動エネルギーによるもの。

 つまり収納空間の中では運動エネルギーが保存される。

 これはヤバいチート能力なのである。

 落下エネルギーを保存したまま意図した場所・・・・・・に出せてしまうのだ。

 簡単に言うと、落石を必ず頭の上に落とせるという危険極まりない能力。

 そしてそれを剣でやったら?


「グオオオォン!グオオオォン!」


 苦しそうにのたうち回る白い大狼。

 背中は脊椎動物にとっては急所だ。

 いかに体が大きくても、急所を貫かれたらかなりのダメージを負う筈。

 狼の苦しみ方からも完全に戦闘能力を削いだ事が分かる。

 私は止めを刺すために狼にゆっくりと近づいた。

 最後の力で一噛みなんてされたらたまらないから慎重に行動する。


「グゥッ!!」


 しかし狼が最後の力を振り絞って行ったのは、『逃走』だった。

 あれ?ダンジョンの魔物ってダンジョンコアを守るために命を投げ出してでも向かって来るはずなのに……?

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