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008 アヴドメン子爵家

 アヴドメン子爵夫人であるエギーラ=アヴドメンは憤っていた。

 奴隷として売り飛ばすつもりだった養女リィナが逃げ出したのだ。

 養女とは言っても、端から養育するつもりなど無いのだが。

 有用なスキルを手に入れたならば夫の陞爵の為に利用する。

 不用なスキルを手に入れたならば奴隷としてお金に還元する。

 その程度にしか思っていない娘達だった。

 エギーラが可愛がっているのは、実の娘のヴェロニカだけなのである。


 しかし奴隷として売ったお金で新しい宝石を買うつもりだったのに、どうやったのか地下牢から逃げ出してしまったのだ。

 内側からはスキルを使ったとしても脱出は絶対に不可能——必ず協力者がいるはず。

 そしてその夜から行方不明になっているメイドのアヤメ。

 恐らく彼女が脱出の手引きをして、一緒に逃げているのだろうとエギーラは踏んでいた。

 故に養女であるリィナとメイドのアヤメの2人を指名手配して子爵領の街々にふれ回らせた。

 子爵領は今とても不景気であり、更に賞金首は捕らえやすい少女と女性。

 ろくにスキルも無い平民でも直ぐに捕まえられるだろうと思っていた。

 しかし、数日経った今も2人に関する報告は無かった。


「街の者があの2人を匿っているの?いや、それは無いわね……。とすればやはり森に逃げたか。森の捜索はどうなってるの?」


 エギーラが、子爵家の私兵を纏める兵長に訪ねる。


「申し訳ありません。まだ手掛かりは掴めず……」

「あら、あなたもあの娘達を擁護してるんじゃないでしょうね?」

「め、滅相もございません!」


 兵長は正直子爵家の面倒事には関わりたくは無かった。

 無難に命令をこなし、給料さえ貰えていればいいのである。

 執事長などはあからさまに子爵に反発して養女達を庇っているが、兵長には理解出来ない感性であった。


「じゃあもう森を抜けて他領へ逃がしてしまったという事かしら?Fランク程度のスキルしかない小娘に逃げられるなんて、とんだ愚物ね」

「こ、子供の足ではまだ森は抜けれていない筈です。どこかに身を潜めているのでしょう。捜索人数を増やしてしらみつぶしに再度捜索致します」

「そうしてちょうだい」


 あるいは北の山へ逃げたかと思ったが、あの険しい山をアヤメがついているとはいえ子供が踏破など出来ないだろうと、選択肢からは消した。

 やはり南の森のどこかに隠れているとしか思えない。


「そ、それともう一つご報告が……」


 言い辛そうに言葉を発する兵長。

 それを煩わしそうに聞くエギーラ。


「何かしら?」

「森に新たなダンジョンが発生したようでして……」

「そんなもの、冒険者ギルドに報告しなさい!私に言ってどうするのよ!」

「は、はいっ!申し訳ございません!」


 エギーラに怒鳴られた兵長は猫背になって退散するように部屋から退出していった。

 ふとエギーラは思う。

 まさかダンジョンに逃げ込んだ?

 いや、そんな自殺行為をするはずも無い。

 でも仮に逃げ込んだとしたら、もう生きているとは思えない。

 エギーラは奴隷を売ってお金を得る事が出来なくなった可能性に溜息をついた。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 王都へ向かう豪奢な馬車の中、ゲスオール=アヴドメン子爵もまた憤っていた。


「ちっ!あの小娘め、Sランクスキルを得たからとデカい顔しおってからに!」


 命令無視して街の救援に向かった養女アリアが許せなかった。

 大事な陞爵の為の駒に何かあったら大変なのである。

 しかしそんなゲスオールの心配を他所に、アリアは魔物暴走スタンピードを食い止めてしまった。

 逃げだそうとしていたゲスオールの馬車は塀を守っていた兵士達に目撃されており、その噂までが街中に広がってしまっていた。

 逃げだそうとしたゲスオール、助けに走ったアリア。

 対照的な評価は格好の話題の種となり、人々を楽しませる。

 それによって最低の評価を得たゲスオールは噂の流行と共に王都に向かう羽目になっていたのだ。


「お父様は深く考えすぎですわ。お父様を安全な後方にいるようアリアが指示を出した事になさればいいのです。お父様の醜聞よりアリアの美談の方が受けがいいなら、そちらに乗っかれば直ぐに噂など収まりますわ」

「おお、さすが儂の娘!それでいこう!」


 既に社交界デビューも済ませている娘のヴェロニカは、こういった立ち回りだけは得意であった。

 もっともそんな事ばかりしているので、真に友人と呼べる存在はいないに等しいのだが。

 しかし、子爵家に取り入ろうと男爵家や騎士爵家の子が取り巻きとなっているので、本人は気にしていない。

 今回アリアが世界でも稀な『勇者』スキルを手に入れた事で、近い将来伯爵になる事も約束されたようなもの。

 これから周囲はさらにヴェロニカヨイショする事であろう。


「それよりもお父様、敵対する貴族にはお気を付けください。アリアのスキルが今回の事で広まってしまったのですから、陞爵を阻止しようと動く者も出るでしょうし」

「ああ、もちろん分かっている。その辺は侯爵様の後ろ盾もあるから心配ない。王都に着けば護衛を寄越してくれる事になっている」

「まぁ道中は私がいるから大丈夫ですし」

「うむ。ヴェロニカのスキルはAランクの『極炎魔法』だものな」


 ヴェロニカが上位貴族に取り入らずに自身が取り巻きを連れて歩けるのも、Aランクという貴重なスキルを得ているためだ。

 スキルのランクは地位に直結する。

 子爵家の娘でありながらもAランクのスキルを持つため、伯爵家や侯爵家であろうとおいそれと手は出せない。

 貴族の力関係的には、アヴドメン子爵家はヴェロニカがいるだけで伯爵家相当なのである。

 しかし爵位は王族が決めるもの。

 実際の力関係が爵位には考慮される事はあまりない。

 ところが今回のアリアに関してだけは違うのだ。

 世界でも稀な『勇者』スキルは国を挙げて歓迎される程のものなので、王族もそれを考慮して陞爵は確実なものと言われている。


「ふふふ、王都に着いた時の敵対貴族どもの顔が見物だわい」


 その勇者様をボロボロの小さい馬車に追いやっている事を王都で追求されるまで、あと少し。

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