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007 アリアお嬢様 side.セバルフ

 私の名はセバルフ。

 アヴドメン子爵家の執事長兼、子爵家の裏組織『影』の頭領であります。

 現在は亡き旦那様の忘れ形見である双子の姉妹の妹君であるアリアお嬢様に付き従い王都にある学園を目指しております。

 双子の姉妹である姉君、リィナお嬢様はご自身で道を切り開けるお方なので心配無いのですが、アリアお嬢様は一人で生き抜くにはいささか甘い部分がおありです。

 もう少し成長されるまでは私がお守りしなければならないでしょう。


 それにしてもこちらの馬車は小さい上に乗り心地は最悪ですな。

 子爵家を乗っ取ったゲスオールは前当主様とは似ても似つかぬ程に愚かで無能。

 そして権力欲だけは人一倍あるという、周りの人間にとっては迷惑以外の何者でもないクズです。

 そのゲスオールと、娘のヴェロニカだけが前を走る豪奢な馬車に乗車しているという屈辱。

 本来ならばあの馬車はアリア様とリィナ様の為の物だったのに。

 いつか必ず奴らには報復してやりますが、今はまだ表立って動く訳にはいかないのです。

 なんとかリィナお嬢様とアリアお嬢様が無事成人して子爵家を継げるようになるまでは、耐え忍ばねば。

 まぁたまに毒は吐きますが。


「あのクソデブとクソガキめ……」

「セバルフ、口が過ぎますよ」


 おっと、心の声が漏れてしまったようですね。

 アリアお嬢様に咎められてしまいました。

 ゲスオールのぶよぶよ太った土手っ腹に蹴りを入れてやりたいですし、顔に陰険が刻まれているような性悪のガキであるヴェロニカの額を鷲づかみにしてやりたい。

 あいつらが子爵家に来てからやりたい放題していたのをどれだけ裏でフォローして来たか。

 まぁそうしていられるのも後数年です。

 アリアお嬢様とリィナお嬢様——どちらも私が手塩に掛けて育てた優秀な方達です。

 必ずやどちらかが子爵家の次期当主となってくれる事でしょう。

 そうすれば今はゲスオールのせいで経済的に落ち込んでいる子爵領も、以前のように活気を取り戻す筈。

 それまで何としてもお嬢様達をお守りしなければなりません。

 『影』の総力を結集して。


 馬車での旅が3日目を過ぎる頃、順調だった旅に暗雲が差し込みました。

 次に宿泊する予定だった街で、遠目ながら異変を察知したのです。

 馬車で近づく度にその異変をはっきりと捉える事が出来ました。

 街が魔物の大群に襲われている。

 辛うじて外壁で食い止めているようですが、あれは落ちるのも時間の問題でしょう。

 あれだけの魔物が溢れてくるという事は、近くのダンジョンが魔物暴走スタンピードでも引き起こしたのでしょうか?

 あそこに近づくのは危険ですね。

 前を走る馬車も迂回の進路を取ろうとしています。

 さすがゲスオール、自分の命優先ですか。

 でもきっとこちらの馬車に乗るアリアお嬢様は、


「助けに行きましょう!」


 やっぱりですか……。


「危険です、お嬢様」

「それがどうかしましたか?」


 こういう所は姉のリィナお嬢様にそっくりなのですが……。

 自分の成すべき事の為には躊躇わない。

 しかし決定的にリィナお嬢様とは違うところがあります。

 アリアお嬢様は、生き物に止めを刺す時に一瞬躊躇してしまうのです。

 実力に隔たりがあるならば多少の隙など取るに足らない事でしょうが、拮抗した敵と相対した時は命に関わります。

 それを克服出来るまでは私が側についていなければならないでしょうね。


「では、もし自分より強い魔物が現れた場合は必ずお逃げください」

「分かりました」


 口ではいつもそうおっしゃるんですよねぇ……。

 そのくせ守る者がいる時は勝てない相手にも引かない性分は、お父上に似てしまったのでしょうか。


 前を走っていた豪奢な馬車が街道から外れるも、こちらの馬車は真っ直ぐ街へと進みます。

 御者をしている者も密かに『影』の者なので、馬車の操作に迷いはありません。

 と、こちらの馬車の動きに気付いたゲスオールが馬車の窓から顔を出しました。


「おい、貴様ら何をしているっ!!そんな街など見捨てて逃げるぞ!!」


 ゲスを極めたような物言いだが、貴族ならそれが普通であろう。

 アリアお嬢様のような高潔さの方が異常なのですから。

 もっともその高潔さ故、『勇者』となれたのでしょう。

 そしてそのアリアお嬢様がゲスオールに向かって叫ぶ。


「黙れっ!民を守る貴族としての矜持を持たぬ者が口を出すな!!」

「ぐっ!き、貴様ぁ……」


 そしてゲスオールの方を振り返る事無くアリアお嬢様は馬車から飛び降り、魔物達へ向かって駆け出した。


 舞うように敵を切り刻み、街を救った英雄アリアの名は、その後王都に着くまでに各地へと伝わって行きました。

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